子どもと楽しむ料理の科学

塩で食感がプリプリに 簡単おいしい塩鶏

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

塩で食感がプリプリに 簡単おいしい塩鶏

お肉を塩漬けにすると、塩味がついたり保存性が高まったりするだけでなく、プリプリっと弾力がありつつ、しっとりとやわらかい、独特の食感に変化します。ロースハムやベーコンも厚切りのものを食べると、もとのロース肉やバラ肉とは食感が違いますよね。

今回紹介する「塩鶏」は、塩をまぶして一晩置いただけの簡単塩漬け肉です。塩分濃度はそれほど高くないので保存性は期待できませんが、そのままの鶏肉にはないプリプリ食感がクセになります。ほどよい塩気とうま味があるので味付けと具材を兼ねて、野菜と一緒に煮込んでも、小さく切って炒め物にしてもおいしいですよ。

 

塩でしっとりやわらかく

生のお肉に塩をふると、まずは水分がにじみ出てきます。お肉の表面についた水分に塩が溶けて濃い塩水になり、細胞の内側と外側との間に塩分の濃度差が生じるため、浸透圧によって細胞から水分が出てきます。ということは、塩をふってから時間が経ったお肉は水分が失われてパサパサになってしまうのではないか……と思うかもしれませんが、そんなことはありません。ここからさらに時間が経つと、水分が再びお肉に吸収され、塩も一緒にしみこんでいきます

お肉に塩がしみこむと、中までよく味が付くというだけでなく、お肉を構成するタンパク質に影響を与えるため、食感にも変化があります。

私たちが普段食べているお肉は主に、動物の筋肉の部分です。筋肉の細胞は細長い紐のような形をしていて、この細胞がたくさん束ねられて筋肉を形作っています。筋細胞の中では、アクチンやミオシンという繊維状のタンパク質が束になっています。アクチンやミオシンの糸が集まって筋細胞という紐になり、これらが束ねられて筋肉という太いロープができる、というイメージです。

さて、塩(NaCl)が水に溶けると、塩の分子がナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)という2つのパーツに分かれます。このうち塩化物イオンはアクチンやミオシンの繊維と結びつき、繊維がマイナスの電気を帯びた状態になります。すると、磁石のS極同士・N極同士が反発し合うように、マイナスの電気を帯びた繊維同士が反発して、繊維と繊維の隙間が広がります。冬に髪の毛が静電気を帯びると、広がってまとまりにくくなりますよね。これと同じような状態が筋肉の中で起こるのです。繊維同士の隙間が広がると、その間に水分がより多く入れるようになります。お肉を加熱すると、タンパク質が変形して筋肉が縮まって水分が絞り出されてしまうのですが、塩によって繊維の隙間を広げることで水分を多く含んでおけるようになるため、加熱後もプリっと弾力がありつつ、しっとりとやわらかい食感を維持することができます。

また、アクチンやミオシンは塩水に溶けやすいため、塩分濃度が高くなると繊維の一部がほどけてバラバラになって溶け出します。そのため、塩漬けにしておくと繊維の一部がほどけて弱くなり、お肉が少しやわらかくなります。溶け出したタンパク質のうち、ミオシンは互いに絡まり合い、加熱すると中に水を抱き込んで網目のようになるため、水分を逃がしにくいという効果もあります。

作り方/レシピ

にんにく塩鶏

鶏もも肉 330g
塩 5g(小さじ1)
おろしにんにく 小さじ1

塩の分量の目安
鶏肉の重さの1.5%程度が適量です。330gに対して5g、400gに対して6g。
塩は粗塩・天然塩(しっとりとした塩)の場合は小さじ1で5g、精製塩(サラサラした塩)の場合は小さじ1で6gです。

鶏肉の両面に塩とおろしにんにくをまぶし、ポリ袋に入れる。空気を抜いて口をしっかりと閉じる。冷蔵庫で一晩以上漬ける。

おろしにんにくの代わりにおろし生姜や粗びき黒こしょう、お好みのハーブなどを使ってもおいしいです。

鶏肉は消費期限内に使ってください。すぐに使わない場合は、袋を閉じてすぐに冷凍庫に移して保存し、使うときになったら冷蔵庫に移して一晩置いて解凍します。

にんにく塩鶏のネギ炒め

にんにく塩鶏 330g
長ネギ 1本(100g程度)
ごま油 小さじ1
粗びき黒こしょう 適量

1.切る
長ネギは斜め薄切りにする。
鶏肉は2.5cm厚さの一口大に切る。

2.炒める
フライパンにごま油を熱して鶏肉を入れる。中火で両面1分ずつ焼いて焼き色をつけたら、ネギを加えてしんなりするまで2〜3分炒める。このとき、こまめに菜箸で混ぜるよりも、あまり動かさずにネギに焼き色をつけるようにするとよい。器に盛り、粗びき黒こしょうを振ってできあがり。

長ネギ以外にも、キャベツなどの火が通りやすい野菜100gで代用してもOKです。

塩鶏と根菜のごろっと煮込みスープ

塩鶏 330g
にんじん 1/2本
玉ねぎ 1/2個
酒 大さじ2
塩、胡椒 少々
刻みネギ お好みで

1.具を切る
にんじんは1.5cm厚さの半月切りにする。

玉ねぎは厚めのくし切りにする。
鶏肉は4cm角に切る。

2.煮込む
鍋に野菜と塩鶏、酒、水400ml(分量外)を入れて火にかける。
沸騰したら火を弱め、蓋をして20〜30分煮込む。

3.仕上げ
塩と胡椒で味を調え、器に注ぐ。お好みで刻みネギをのせてできあがり。

  • 野菜はお好みのもの、家にあるもので代用してもOKです。火が通りにくいものは小さめに、火が通りやすいものは大きめに切る。(じゃがいもなら2〜4等分に切る、レンコンなら厚さ1cmに切る)
  • シンプルな味付けなので、食材を足してアレンジしてもOK。(例:ローリエやソーセージを足してポトフ風に。3で生クリーム200ml、コンソメ小さじ1、粒マスタード大さじ1を足してマスタードクリーム煮に。)

煮込めば煮込むほど硬くなる?やわらかくなる?

肉料理のレシピには「よく煮込んでやわらかく」と書かれているものもあれば「加熱しすぎると硬くなるので手早く」と書かれているものもあります。どちらが正しいのでしょうか。

実は、どちらも正しいのです。お肉を加熱すると、お肉の細胞に含まれるタンパク質や、細胞を束ねているコラーゲンの膜が縮みます。これによってスポンジを絞るようにお肉の中の水分が絞り出されてしまうので、加熱し過ぎると水分が失われてその分お肉が硬く、パサパサになってしまいます。

一方、白っぽいスジの部分が多いお肉は、短時間の加熱だとスジが硬くなってしまいます。なので、長時間の加熱でやわらかくする必要があります。スジの部分は主にコラーゲンで、長時間加熱すると分解して水に溶け出すという性質があります。スネ肉や肩肉のようにスジが多いお肉は、コラーゲンが溶け出すまでしっかり加熱すると、繊維がほろほろっと崩れるようになるので、やわらかく感じられます。コラーゲンが溶けるのにかかる時間は、動物の種類や年齢、加熱の条件によっても異なりますが、鶏肉であれば20〜30分が目安です。

中まで火が通る程度の短時間でさっと煮るか、ほろほろになるまで30分しっかり煮込むか、中途半端にしないのがおいしく仕上げるポイントです。

 

7/22(木)更新の次回では、「夏休みに親子で挑戦! おえかきホットケーキ」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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