子どもと楽しむ料理の科学

生地をじゃぶじゃぶ揉み洗い! 手作り生麩に挑戦しよう

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

もっちりとした食感が特徴の生麩をおうちで作ろう

お吸い物や鍋物に入れて食べる「焼き麩」、京料理や精進料理にも使われる「生麩」。これらが何でできているか、ご存じでしょうか。お麩の主な材料は、小麦特有のタンパク質からできる「グルテン」というもので、よくこねた小麦粉を水の中でよく洗うことで取り出すことができます。小麦粉を洗う!?と驚くかもしれませんが、じっくりよく揉み洗いするとデンプンなどの他の成分が流れ出て、グルテンだけが残るのです。これに小麦粉を加えて焼くと焼き麩が、もち粉を加えてゆでたり蒸したりすると生麩ができます。
今回は小麦粉をじゃぶじゃぶ洗ってグルテンを取り出し、手作り生麩をつくる方法を紹介します。こねたり洗ったりするのに時間はかかりますが、作業は簡単なので、親子で交代しながら、おしゃべりでもしつつ挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

小麦粉をこねるとグルテンができる

小麦粉に水を加えてこねると、はじめはベタベタと粘り気のあるかたまりになり、さらにこねていくと、よく伸びて弾力のある生地ができあがります。これには、小麦粉に含まれる2種類のタンパク質が関係しています。
小麦粉の主成分はデンプンとタンパク質。デンプンが約70%と最も多く、その次に多いのがタンパク質で10〜13%含まれています。その
タンパク質の大部分を占めるのがグリアジンとグルテニンというタンパク質で、この2つが組み合わさると「グルテン」という大きな網目状の構造ができます。

グルテニンは細長いタンパク質で、バネのような形をしているため強い弾力があります。その両端は他のグルテニンと結びつきやすくなっていて、水を加えてこねるうちにグルテニン同士が繋がり、非常に長いバネの鎖ができます。これを引き伸ばしたり折りたたんだりしながら何度もこねていくうちに、鎖が平行に並んで折り重なり、網目のようになります。また、隣り合ったグルテニン同士もゆるく結びついて網目構造が補強されます。

一方、グリアジンは粒状のタンパク質で粘着力があります。グリアジンの粒は、グルテニンの鎖と鎖の隙間に入り込んで鎖同士がずれるのを助けるため、グルテンに力を加えたときの伸びやすさ、広がりやすさに影響します。

こねることによってできた生地がべたべたせず、弾力があり、伸び広がりやすさを兼ね備えているのは、グルテンの緻密な網を作っているグルテニンとグリアジンのおかげです。パンの生地が気泡を逃さず膨らんでふかふかになるのも、手延べうどんやそうめんの生地が細長く伸びてコシのある麺を作るのも、同じようにグルテンの性質によるものなのです。

グルテンを取り出そう

小麦粉をこねた生地は、グルテンの網目の間に、デンプンの粒が分散している状態になっています。グルテンはお互いに結びついたり絡み合ったりして大きな塊となっているので、洗っても流れ出してしまうことはありませんが、網目の隙間に入り込んだデンプンや水溶性の成分だけが押し流されて出て行きます。

小麦粉の生地を洗ってグルテンを取り出すという方法は、グルテンの構造や仕組みが知られるよりもずっと昔から行われていました。グルテンを使った麩の伝来時期については諸説ありますが、仏教とともに中国から伝わったと考えられており、植物性のタンパク質源として精進料理にも利用されてきました。現在でもヴィーガンやベジタリアン向けの肉の代替品として用いられており、「グルテンミート」「セイタン」などの名称で売られています

作り方/レシピ

手作り生麩

■材料

湿グルテンの材料(125g分)
強力粉 250g
塩 小さじ1/4
水 150g

生麩の材料
湿グルテン 約120g
もち粉 20g+40g
水 40ml
黒ごまや青のり お好みで

1.生地をこねる

水に塩を加えて溶かす。強力粉に塩水を2回に分けて加え、ヘラでざっくりと混ぜ合わせ、さらに手でよくこねる。

手のひらの下のところに体重をのせるようにして力を入れ、押し伸ばす、畳む、再び押し伸ばす、という操作を繰り返す。粉っぽくぼそぼそしていた生地がだんだんまとまってべたっとした生地になり、さらにこねるとベタつきがなくなってくる。

ベタつきがなくなり、概ねなめらかな生地になればOK。(低めの台や床の上で作業すると体重を乗せやすいので、力のない人でもこねやすいです。) 

2.生地を休ませる

ボウルにラップをして1〜2時間生地を休ませる。

3.生地を洗う

大きめのボウルかタライに水を張り、2を入れて、水の中でよくもんでデンプンを洗い流す。はじめのうちは、さらしなどの布に包むと洗いやすい。

水が白く濁らなくなるまで、水を替えながら洗う。

30分〜1時間ほど根気よくもみ洗いして、水が濁りにくくなったら取り出す。

125g前後になっていればOK。これで湿グルテンのできあがり。

4.湿グルテンを切る 

3でできた湿グルテンを包丁でできるだけ細かく刻む。

黒ごまと青のり、黒ごまとプレーンなど、2種類作る場合は湿グルテンや他の材料を半分に分ける。

5.切り混ぜる
ボウルにもち粉40gと水40ml(2種類作る場合はそれぞれ半量)を入れてヘラで混ぜ合わせる。黒ごまや青のりを加える場合はこのタイミングで加える(いずれも、湿グルテン120gに対して小さじ2)。

ここに4の湿グルテン約120gともち粉20g(2種類作る場合はそれぞれ半量)を加え、スケッパーで切るようにして混ぜる。
スケッパーで小さく切る→手のひらやスケッパーの面で押し伸ばしたりたたんだりしてこねる、という作業を繰り返して、グルテンともち粉の生地がしっかりと混ざるまでよくこね合わせる。

※シリコンのヘラを使ったり、まな板の上で包丁を使って切り混ぜたりしても良いですが、スケッパーを使ったほうが簡単です。百円均一ショップの製菓コーナーなどでも売っています。

※粉が多いうちはボウルの中で作業したほうが、粉が散りにくく混ぜやすいですが、ある程度生地がまとまってきたら、まな板や作業台の上に移すと作業しやすいです。コツをつかめば30〜60分ほどで混ざります。ちょっと大変ですが根気よく頑張ってください!

6.生地を休ませる 

生地ができたら、かたく絞ったぬれふきんをかけて30分〜1時間ほど休ませる。

7.生地を蒸す 

生地を5cm幅のかまぼこ状に成形し、クッキングシートで包み、両端をゆるく絞って閉じる。蒸している間に生地が一度膨らむので、大きめのクッキングシートで包み、シートの合わせ目が上になるようにすると生地がはみ出ません。 

蒸し器に入れて中火で20分蒸す。 

※蒸すのが面倒な場合は一口大に丸めてゆでてもOK。細長く伸ばした生地を、白玉団子くらいの大きさに包丁で切り分ける。

やや平たく丸めて沸騰したお湯に入れ、5分程度ゆでる。水面近くに浮いてきたら取り出して冷水で冷ます。(写真はゆでたあとの状態)

8.切り分ける 

蒸し上がったら蒸し器に入れたまま粗熱を取り、十分に冷めたらクッキングシートを剥がす。1cm程度の厚さに切る。まな板や包丁をぬらして切ると、くっつきにくく切りやすい。

出来立てはふわふわもちもちしていて、焼いたりゆでたりせずそのまま食べてもおいしいです。すぐに食べない場合は冷蔵庫で保存し、食べるときにゆでたり焼いたりして一度加熱してから食べます。

冷蔵庫で一晩置くと、硬く締まって包丁で切りやすくなります。

おすすめの食べ方その1:田楽にして食べる

味噌を煮切りみりんで伸ばし、味を見ながら砂糖を加えて甘味を足して味噌だれを作る。(西京味噌などの甘口味噌の場合は味噌大さじ1+煮切りみりん小さじ1、八丁味噌などの辛口味噌の場合は味噌大さじ1+煮切りみりん小さじ1.5+砂糖大さじ1/2が目安)

フライパンに薄く油を敷いて火にかけ、生麩を入れて両面に軽く焼き色をつける。味噌だれを塗ってできあがり。

おすすめの食べ方その2:黒蜜きな粉で食べる

出来立ての生麩か、さっとゆでた生麩を器に盛り、黒蜜ときな粉をかけて食べる。

プラス知識! 洗い流されたデンプンの行方

グルテンを取り出す際に、洗い流されたデンプンの方を集め、精製したものを「浮き粉」や「沈粉」といいます。米粉や砂糖と合わせれば“ういろう”などのもちもちつるっとした食感の和菓子ができますし、明石焼きの生地に加えてふわふわとした食感に仕上げたり、かまぼこやプレスハムのつなぎにも使用されています。中華料理の点心にも使われていて、蒸し餃子のつるっと透明感のある皮は小麦デンプンで作られます。
 また、東京の下町で作られている「久寿餅(くずもち)」は、関西などで一般的な葛粉を使ったものではなく、小麦デンプンを乳酸発酵させて作ったものです。葛粉の葛餅が半透明でもちもちした食感なのに対して、小麦デンプンを使った久寿餅は乳白色で、もっちりぷるんと歯切れの良い食感です。
 食べ物の材料になるだけではありません。水で煮込んで掛け軸や絵画の修復に使う糊を作ったり、錠剤のベースとして医薬品に配合されたり、様々な用途に使われています。

5/27(木)更新の次回では、「白玉粉、もち粉、上新粉の違いを知ろう」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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