親と子の本棚

勇敢な鳥たち

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

鳥に託されたもの

『宮沢賢治の鳥』より

 宮沢賢治の童話や詩にはたくさんの鳥が登場する。ヨタカ、フクロウ、カッコウ、トキなど、数えると70種以上になる。地質調査、植物採集、登山など、賢治はいつも野山を歩きまわっていた。
 いろんな季節に、いろんな場所で、飛んでいく鳥、さえずる鳥、休んでいる鳥たちに出会い、親しくなっていった。そして、鳥の美しい羽や、すばらしい歌に魅せられた。賢治は、多くの童話や詩に鳥たちを描き、自分の願い、あこがれ、祈りを託したのだ。

国松俊英・舘野鴻の絵本『宮沢賢治の鳥』の書き出しだ。
宮沢賢治の童話や詩は、小・中・高校の国語の教科書にものっているけれど、小学6年生の「やまなし」には、カワセミが登場する。――「その時です。/俄に天井に白い泡がたつて、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾のやうなものが、いきなり飛込んで来ました。/兄さんの蟹ははつきりとその青いもののさきがコンパスのやうに黒く尖つてゐるのも見ました。」飛び込んできたのがカワセミだった。
この絵本では、賢治の作品に登場する鳥のうち、9種がとりあげられ、賢治とそれぞれの鳥との出会いや作中での描かれ方についての解説がある。作品の一部が引用された見開きには、画家が絵を描くのだ。
カワセミの解説には「翡翠の羽をもつ鳥」という見出しがあり、「やまなし」だけではなく、カワセミが「よだかの星」のヨタカの弟として出てくることも紹介されている。
絵本のおしまいで取り上げられたのは、白鳥だ。――「二疋の大きな白い鳥が/鋭くかなしく啼きかはしながら/しめった朝の日光を飛んでゐる/それはわたくしのいもうとだ/死んだわたくしのいもうとだ」(詩「白い鳥」)賢治は、白鳥に亡くなった妹トシをかさねた。

南から、北から

「はるになると、みなみのくにから とんでくる ツバメたち。いえの のきしたなどに すをつくり、たまごをうみ、ひなをそだて、ひなが とべるようになると また みなみのくにに とんでいきます。こういう鳥を わたり鳥といいます。」――これは、鈴木まもるの絵本『わたり鳥』のはじまりだ。
渡り鳥は、もちろん、ツバメだけではない。ハチクマ、サシバ、ササゴイ、アカモズ……100種類以上が南の国から日本へ飛んでくるという。ボルネオ島やマレーシアなど、5000キロもはなれたところから、地図も見ないでやってくる。それぞれが生まれた日本の森や野原に帰ってきて、また、巣を作り、たまごを産むのだ。
冬になると、今度は、3000キロもはなれた北の国から、やはり100種類以上がやってくる。コガモ、マヒワ、ツグミ……。北の国が寒くなって、食べ物がなくなるからだ。わたり鳥は、巣を作り、ひなを育てるために、えさを求めてはるばるとやってくる。
わたり鳥がやってくるのは、日本ばかりではない。ヨーロッパやアフリカなどの世界のわたり鳥も紹介される。

おんどりのお礼

『わたり鳥』のどのページにも、羽を大きくひろげて、長い距離を旅する、わたり鳥たちの勇壮なすがたが描かれている。そして、ロッシュ=マゾン『はんぶんのおんどり』のおんどりもまた、知恵があって、勇敢なのだ。
長いあいだ、王様の兵隊さんだった、おとうさんが亡くなって、欲張りなおにいさんが遺産のほとんどを独りじめにしてしまう。弟のステファヌは、これも、おにいさんが包丁で真っ二つにした半分のおんどりを懸命に介抱して生き返らせる。
前よりも元気になり、おまけに、しゃべれるようになった、おんどりはいう。――「わたしのいのちをたすけてくださったあなたに、おれいをするときがきましたよ。さあ、いっしょに王さまのところへ、あの百エキュをもらいにいきましょう。」百エキュ(金貨100枚)というのは、欲張りなおにいさんが投げ出すようにくれた書き付けに書いてあった金額だ。王様がおとうさんにはらっていない給料を証明するものだが、王様は、そういうお金をはらったことはない。それどころか、お金を取りにきた人をしばり首にするという。それでも、ステファヌと半分のおんどりは、王様のところへ出かける。

今月ご紹介した本

『宮沢賢治の鳥』
国松俊英 文、舘野 鴻 画
岩崎書店、2017年
文の国松俊英には、『宮沢賢治 鳥の世界』(薮内正幸画、小学館、1996年)の著作があり、子どもむきのノンフィクション『スズメの大研究』(PHP研究所、2004年)、『トキよ未来へはばたけ』(くもん出版、2011年)などもある。

『わたり鳥』
鈴木まもる/作・絵
童心社、2017年
巻末の3ページわたる「登場するわたり鳥」には、それぞれの鳥の全長、巣の大きさ、繁殖地などが紹介されている。このなかで、宮沢賢治の作品にも出てくるのは、冬、シベリアから日本にやってくるツグミくらいか。ツグミは、賢治の童話「ビヂテリアン大祭」などに登場する。

『はんぶんのおんどり』
ロッシュ=マゾン・さく、やまぐちともこ・やく、ほりうちせいいち・え
瑞雲舎、2016年
1996年に刊行された本の新装版。作者のジャンヌ・ロッシュ=マゾン(1885~1953年)は、フランスの人。巻末の作者紹介によれば、幼いころから伝承文学に親しみ、のちに文献学者と結婚して、夫の仕事を手伝ううちに、民話や子どものための物語に興味をもったという。そういえば、この『はんぶんのおんどり』も、フランス民話「あひるのおうさま」を連想させる。「あひるのおうさま」は、堀尾青史の脚本、田島征三の絵で紙芝居にもなっている(童心社、1998年)。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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