親と子の本棚

写真のなかの子どもたち

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

アナザーストーリー

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』より

「この森でもなければ/その森でもない/あの森でもなければ/どの森でもない/こそあどの森 こそあどの森」――岡田淳の『こそあどの森の物語』シリーズは、1994年発行の『ふしぎな木の実の料理法』にはじまって、2017年に全12巻が完結したのだけれど、もう1冊刊行された。『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』だ。表紙やとびらには、Another Story(別の話)とも記されている。
最初は「トワイエさんの話」。作家のトワイエさんが住んでいる木の上の屋根裏部屋を主人公のスキッパーがたずねる。途中で行き会った、ふたごもいっしょに。スキッパーは、トワイエさんから借りた本を返しにきたのだが、本には一枚の写真がはさまれていた。大きな建物の入口の石段に少年時代のトワイエさんが立っている。

 ふたごがおみやげにもってきたクッキーを食べ、お茶を飲みながら、三人は次々にいいました。
「この写真に写っている場所は、どこ?」
「このころ、トワイエさんは、どんな子だった?」
「ぼくたち、そういうことを聞きたいんです」

「ああ、はあ、んん、つまり、この写真と、このころの話ですね」「ここは、図書館なんです。その、図書館って、知っていますか?」――トワイエさんは、写真を指差しながら話しはじめる。こそあどの森には図書館がないけれど、トワイエさんが前に住んでいた街には図書館があって、子どものころのトワイエさんは、そこが大好きだった。おかあさんにサンドイッチをつくってもらって、朝から夕方まですごすこともあったという。そして、ある日、ふしぎなことが起こる。

『世界の昔話』

スキッパーが借りたのは、『世界の昔話』という本だ。ある日、少年のトワイエさんが図書館で読んでいたのも、その『世界の昔話』だった。
トワイエさんは、『世界の昔話』が好きで、もう何度か読んでいた。何度読んでも、おもしろい。昔話によく出てくるのは、三人兄弟や三人姉妹、魔法使いや魔女……。気がつくと、もうお昼で、トワイエさんは、図書館のおもての公園のベンチでお弁当をひらく。パンもリンゴも量が多いので、となりのベンチの黒い服のおばあさんに分けてあげると、おばあさんは、よろこんで、「ぼっちゃんに、いいことがありますように」という。
食べおわって、トワイエさんが席にもどると、目のはしを派手な色のものが通る。つづいて、本棚のあいだの通路をカラスが飛んで横切る。トワイエさんは、思わず立ち上がって、見に行く。さっき読んだ話のなかでは、三人兄弟の末息子が森でおじいさんに食べ物を分けてあげたら、カラスのことばを聞き取れるようになったのだ。
トワイエさんが読んでいた『世界の昔話』は、どんな本だろう。私が連想するのは、矢崎源九郎編『子どもに聞かせる世界の民話』だ。『世界の昔話』ではなくて『世界の民話』だけれど、400ページほどもある、二段組みの本で、世界各地の81編もの話が収められている。「子どもに聞かせる」となっているが、子どもが自分で読むこともできる。1964年、実業之日本社発行で、よく読まれたはずだが、現在はもう刊行されていない(もちろん、図書館に行けば、読むことができる)。私は、この『世界の民話』から8編をえらんで、『世界の民話 サヤエンドウじいさん』という本をつくったことがある。タイトルの「サヤエンドウじいさん」は、ポーランドの話だ。

思いがけない一枚

スキッパーたちがトワイエさんの話を聞きおわると、それが、トワイエさんが物語をつくりたいと思うようになった経験だったことがわかる。
トワイエさんからはじまって、スキッパーとふたごは、こそあどの森のおとなたちの子ども時代の写真を見せてもらって、そのころの話を聞いて歩くようになる。二番めは、料理が得意なトマトさんだ。見せてくれた写真は、明るい台所でとられたもので、いすにすわっている、おばあちゃんのとなりに、女の子のトマトさんが笑顔で立っている。
あまんきみこ「きつねの写真」では、ごんざ山で暮らす松ぞうさんと孫のとび吉のところへ、山野さんという若い新聞記者がやってくる。――「こんどの日曜版に、きつねの特集をやるんです。それで、このごんざ山にはきつねがいるということですので……、その写真をとおもいまして」松ぞうさんは、「いねえ、いねえ。ごんざ山のきつねはいねえ。人間にうちとられたり、病気にかかったりしてのう」というが、山野さんに無理にたのまれて、雑木林を案内する。山野さんは、きつねが住んでいたらしい小さな穴をいくつも見つけて、夢中でシャッターを切る。帰りがけには、松ぞうさんと、とび吉もパチリと写す。
3日後、東京のまん中の新聞社で、山野さんは、現像された、たくさんの写真をたしかめていて、思いがけない一枚を見つけるのだ。

今月ご紹介した本

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』
岡田 淳
理論社、2021年
スキッパーとふたごは、家具をつくる大工さんのギーコさん、トマトさんの夫のポットさん、ギーコさんの姉のスミレさんの子どものころの写真も見せてもらって、話を聞く。スミレさんの話を聞いた帰り道、三人はいい合う。――「どの話もおもしろかった」「みんな、子どものころがあった」「子どものころのことって、おとなになっても、つながっているんだね」

『世界の民話 サヤエンドウじいさん』
矢崎 源九郎・内田 莉莎子・君島 久子・山内 清子 作、むらかみ ひとみ 絵
日本標準、2007年
私も編集委員をつとめた『シリーズ 本のチカラ』の1冊。
「昔話」は、「むかしむかし、あるところに……」などの決まったことばではじまる口伝えの話。「民話」には、「昔話」だけでなく、特定の人物や土地について語る「伝説」なども含まれる。

『きつねの写真』
あまん きみこ 作/いもと ようこ 絵
岩崎書店、1995年
「きつねの写真」は、小学3年生や5年生の国語教科書にのっていたことがある。
ここでは、岩崎書店版の『きつねの写真』で紹介するが、この本は、現在、品切れ。図書館でさがしてください。「きつねの写真」のほか、五つの作品が収められている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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