子どもと楽しむ料理の科学

シロップの濃度が見栄えを決める!ひし形模様の牛乳かん

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

夏に食べたい! 昔なつかしの牛乳かん

つるりとした食感とのどごしが心地よい牛乳かん。甘酸っぱいシロップに浮かべると見た目も涼しげで、まだ暑さが残るこの時期にぴったりのデザートです。

大きいタッパーにまとめて作り、器に取り分けて食べるのも簡単で良いですが、デザート容器にゼリー液を1人分ずつ注いで固め、切れ目を入れてからシロップを加えるのもおすすめです。スプーンの背などで軽く揺すると、切れ目に隙間ができてひし形の模様が浮かび上がります。
この模様ができるのには、シロップと牛乳かんの「砂糖濃度」と「比重」が関係しています。今回は砂糖濃度と比重の違いによって、牛乳かんに模様が浮かび上がる仕組みについて紹介します。

 

比重の違いが模様を作る

(写真1)

固まった牛乳かんに切れ目を入れても、そのままでは切れ目の間が詰まっているのでよく見ないとわかりません(写真1)。

(写真2)

しかし、ここにシロップを注ぎ(写真2)軽く揺すると、一口大に切れた牛乳かんが器から剥がれてシロップに浮かびます(写真3)。

(写真3)

横から見たときに半円や台形に見えるような、底よりも上の方が広がった容器で作ると、牛乳かんが浮き上がった分だけ水面部分の面積が大きくなるので、切れ目の間に隙間ができてひし形の模様が現れます(写真3)。

つまり、この模様ができるためには「牛乳かんがシロップに浮かぶこと」、すなわち「牛乳かんの比重<シロップの比重」であることが必要です。

「比重」とは、ある物質の体積あたりの質量(≒重さ)を、4℃の水と比較した値のことで、比重が大きいものほど体積あたりの質量が大きいので沈みやすく、比重が小さいものほど浮かびやすいといえます。たとえば水の比重は約1.0でガラスの比重は約2.5なので、ガラス皿は水に沈みます。また、油の比重は約0.9で水やお酢に比べて小さいので、ドレッシングが分離すると油の層が上に浮いてきます。

牛乳かんも同様で、シロップよりも比重が大きければ沈み、小さければ浮かびます。牛乳の比重や割合にもよりますが、砂糖濃度が20%の牛乳かんの比重は約1.1になります。一方、シロップの比重は砂糖が20%のとき約1.08です。牛乳は水よりも比重が大きいので、砂糖濃度が同じ場合には牛乳かんの方がシロップよりも比重が大きくなります。

しかし、シロップの砂糖濃度を40%にすると、砂糖濃度が20%の牛乳かんよりも比重が大きくなるので、先ほどの(写真3)のように牛乳かんが浮かびます。牛乳かんの砂糖濃度がシロップと同じか、シロップよりも大きいと牛乳かんが沈んでしまうので、必ずシロップの方が比重が大きくなるように分量を調整しましょう。

(写真4)

実際に砂糖濃度10%、20%の牛乳かんに、20%、40%のシロップを加えたのが次の写真です(写真4)。20%の牛乳かんに20%のシロップを加えたものだけ、牛乳かんが沈んで模様が見えなくなっています。

(写真5)

また、牛乳かんの比重がシロップの比重よりも小さいほど、牛乳かんが浮く力は大きくなるので、砂糖濃度10%の牛乳かんに40%のシロップを注いだものは、果物の薄切りを乗せても沈まずしっかりと浮かんでいます(写真5)。トッピングを乗せるときは特に、牛乳かんとシロップの砂糖濃度の差が大きくなるようにするとよいでしょう。

作り方/レシピ

ひし形模様の牛乳かん

材料(3〜4人分)

<牛乳かん(砂糖濃度10%)>
粉寒天 2g
水 130g(130ml)
砂糖 30g
牛乳 150g

<シロップ(砂糖濃度40%)>
砂糖 40g
水 45g(45ml)
レモン汁 15g(15ml)

<トッピング>
果物の薄切り 適宜

1.寒天液を作る

鍋に水と粉寒天を入れて火にかける。沸騰したら火を弱め、2分ほど加熱して煮溶かし、砂糖を加えてさらに1分加熱する。
その間に、牛乳を電子レンジ(600W)で1分間温める。

2.牛乳を加える

寒天液の火を止め、牛乳を加えて混ぜ合わせる。
温かいうちに容器に流し入れ、スプーンなどで表面の気泡を取り除いたら、そのまま静かに冷ましておく。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。

3.シロップを作る 

電子レンジで加熱可能な容器にシロップの材料を合わせて電子レンジ(600W)で1分間加熱する。砂糖が完全に溶けるまでよくかき混ぜる。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。

4.盛り付け 

牛乳かんに包丁で斜めに切れ目を入れ、シロップを注ぎ入れる。スプーンの背で牛乳かんを揺すると器から牛乳かんが剥がれてシロップに浮かび、切れ目がはっきり見えるようになる。果物の薄切りを飾って出来上がり。

寒天とゼラチンの違い

寒天とゼラチンはいずれも加熱して水に溶かし、冷やすとプルプルとしたゼリー状に固まります。しかし、性質には様々な違いがあるので、それぞれの特徴と注意点をよく確認して使うようにしましょう。特に注意が必要なのは温度による違いです。

寒天を溶かすのに必要な温度は80〜100℃です。80℃では非常に時間がかかるので、沸騰した100℃のお湯で煮溶かします。一方、ゼラチンは主成分のタンパク質が熱で壊れやすいので、弱火や湯煎を活用して沸騰させないようにし、50〜60℃くらいの温度で溶かします。

固まる温度にも違いがあります。ゼラチンは3〜10℃で固まるので、粗熱が取れたら冷蔵庫に入れて冷やし固めます。一方、寒天が固まる温度は25〜35℃で、室温でも固まります。水に寒天を煮溶かした寒天液に牛乳やジュースを加える際、冷蔵庫から出したばかりの冷たいものを使用すると寒天液の温度が下がり、器に注ぎ分ける間に部分的に固まってしまうことがあるので、人肌程度に温めてから加えましょう。

一度固まったゼラチンゼリーは20〜25℃で溶けるので、口に入れると体温でとろけ、滑らかな食感です。寒天ゼリーが溶ける温度はもっと高く、68〜84℃なので、口の中では溶けずにツルツルと喉ごしの良い食感です。溶けずにゼリーのままだと舌で甘味を感じにくいので、寒天ゼリーはゼラチンゼリーよりもしっかりと甘味をつけるか、シロップなどで甘味を補うと、おいしく食べられます。

 

9/23(木)更新の次回では、「うま味たっぷり!コンソメいらずのトマト煮込み」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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