親と子の本棚

通り道を通る者

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

ギョウザを食べた神さま

『神さまの通り道 スサノオさんキレてるんですけど』より

 ダイニングのテーブルには、誕生日とまちがえそうなくらい、ごうかな料理がのっていた。
 きょうからぼくは、うらにわに新しく建てた部屋にうつるんだ。
 ダイニングのおくにドアがあって、そこから出入りするようになっている。
「それじゃあ、まずは開通式。」
 パパがいうと、みんなドアの前に整列した。

村上しいこ『神さまの通り道 スサノオさんキレてるんですけど』の物語は、こうしてはじまる。みんなは、2回おじぎをして、パンパンと2回手をたたいて、ようやく部屋に入る。
家のうらの土地は、「神さまの通り道だから、なにも建ててはだめ。草もかっちゃだめ」と代々言い伝えられていたのだけれど、とうとう、そこに増築した。4歳のふたごの弟たちがそうぞうしくて、落ち着いて勉強できないから、「ぼく」(願太)の部屋を作ったのだ。それでも、パパはまだ、たたりを恐れている。
「開通式」のごちそうを食べ、おふろに入り、パジャマに着替えて、歯みがきもして、「ぼく」が新しい部屋に入ると、「なに、このにおい?」ギョウザのにおいが立ち込めていた。机の上に油でギトギトのお皿がのっている。そういえば、今夜のごちそうにギョウザもあったはずなのに、いつの間にか消えていた。
「だれか……いるの?」――少しふるえる声で聞くと、「わしのことかいな?」天井近くに雲が浮かんでいて、その上に小さなおじいさんが寝そべっている。「食べすぎてしまったわい。」といいながら降りてきたおじいさんに、「ぼく」が「あなたは、なんなんですか?」とたずねると、「ああ、わしは、神さまだけど。」「そう、スサノオノミコト。スーさんとよべばいい。」というのだ。

帰り道のにわか雨

あまんきみこ・松成真理子の絵本『きつねみちは、天のみち』のともこが、けんじくんのうちまで遊びにいったのに、けんじくんのうちには、だれもいない。夏の暑い日のことだ。しかたなく帰る帰り道、急に雨が降り出す。ポストのところまで走って、角をまがると、いきなり、雨がやむ。

(でも、へんだぞ)
 二メートルほど むこうの 車道のほうは、はげしい 雨が ふっています。まるで、すいぎん色の ひろい ながい カーテンが、空から かかっているよう。そして、その カーテンの こちらには、しずくひとつ、おちてきません。
 きょときょとして ふりむくと、おや、いま でてきたほうも、すいぎん色の カーテン。そして その むこうは、やっぱり 雨が ふっているのです。

まるで、雨に長いすきまができたようだ。やがて、雨の音にまじって、にぎやかな声が聞こえてくる。――「きつねみち」「どっこい!」「てんのみち」「やんこら!」「がんばれ」「それな」かけ声をかけているのは、たくさんのきつねたちで、雨のすきまの向こうから、みんなで青いぴかぴかのすべり台をはこんでくる。
きつねたちが、ちょうど、ともこの前を通りすぎるとき、小さなこぎつねが、ちらっと、ともこを見た。とたんに、こぎつねの丸い目がきりりと三角になって、かけ声に合わせて、きいきい声でどなる。――「そこの きょうだい」「どっこい!」「ここを もちなよ」「やんこら!」「がんばれ」「それな」ともこは、あわててかけよって、こぎつねの横にならんで、すべり台をもつことになる。

高天原へ

『神さまの通り道』の「ぼく」は、夜中にスサノオノミコト(スーさん)に起こされて、高天原に連れていかれる。「えー、この子は、神さまの通り道に、新しくできた宿の管理人、他力本願太くんだ。」とスーさんが紹介すると、神さまたちが、つぎつぎとあいさつしてくれる。――「わたしは、アメノウズメ。芸能の神さまです。」「おれは、タケミカヅチノミコト。剣やいくさのことならおまかせよ。」「わたくしは、コノハナサクヤヒメノミコト。安産の神さまです。」このあと、アマテラスオオミカミもあらわれる。
『古事記』に語られている神さまたちだ。死んだ妻(イザナミ)を追って、地下の黄泉の国に行ったイザナキがようやく地上にもどると、河が海に流れ込むところにもぐって、身を清める。このとき、イザナキの身につけていたものや、体のけがれから、数多くの神々が生まれる。最後に左の目をあらったとき、アマテラス(太陽の神)が生まれ、右の目をあらったときにはツクヨミ(月の神)、鼻をあらったときにはスサノオという荒々しい神が生まれた。三浦佑之訳・茨木啓子再話『子どもに語る 日本の神話』の「天の岩屋―高天の原のアマテラスとスサノオ―」にはスサノオが高天原を追放されるまでが語られ、つづく「スサノオとヤマタノオロチ」は、スサノオがおそろしいヤマタノオロチを退治する話だ。

今月ご紹介した本

『神さまの通り道 スサノオさんキレてるんですけど』
村上しいこ 作、柴田ゆう 絵
偕成社、2021年
クラスの「おねがい係」をつとめている「ぼく」に清水さんが話を聞いてほしいという。スーさんも、学校までやってきて、「ぼく」を手助けしたり、じゃましたりする。スーさんのすがたは、みんなには見えないのだが……。スーさんが「ぼく」を高天原に連れていったことが、清水さんの悩みを解決することにつながる。

『きつねみちは、天のみち』
あまんきみこ 作、松成真理子 絵
童心社、2016年
『きつねみちは天のみち』(大日本図書、1973年)に収録された「きつねみちは、天のみち―ともこは―」を一部改稿して、絵本にしたもの。もとの本は、全部で四つの話の連作だ。連作のかたちの『きつねみちは天のみち』は、『あまんきみこセレクション』②(三省堂、2009年)でも読むことができる。

『子どもに語る 日本の神話』
三浦佑之 訳/茨木啓子 再話
こぐま社、2013年
スサノオは、5番めに収められている話「オオナムジ、根の堅州の国へ」にふたたび登場する。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

関連リンク

おすすめ記事

絵姿のゆくえ絵姿のゆくえ

親と子の本棚

絵姿のゆくえ

家出と留守番家出と留守番

親と子の本棚

家出と留守番

落語と昔話落語と昔話

親と子の本棚

落語と昔話


Back to TOP

Back to
TOP