ブックトーク

『みみずくと3びきのこねこ』[新版]

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

しーんとした子どもの心、 個性ある愉快な動物たち

アリス・プロベンセン 作/マーティン・プロベンセン 作/岸田衿子 訳/ほるぷ出版

子ども向けにつくられた本を読んでいて、ときに、はっとさせられる一行に出合える機会は少なくありません。もちろん、観念的で、外連味たっぷりの――ほとんど大人の読者に向けた――絵本には閉口するばかりですが、美術作品においてシンプルな造形に心をつかまれる瞬間があるように、飾らない簡潔な文章に陶然となるひとときがあります。短い、子ども向けの、テキストだからこそ、厳選されたことばを用い、読者の子どもたちを分かち合う相手として信頼し、最高のものを手渡そうとする創り手たち。その存在感に強くひかれる物語はたくさんありますが、自然の営みや動植物が生きる姿を構えず率直に語った本のなかにだって、そうした真実は潜んでいます。

アメリカ、ニューヨーク州の農場で暮らしたプロベンセン夫妻による『みみずくと3びきのこねこ』。舞台は「かえでがおか農場」です。題名からは、同じお話のなかに「みみずく」と「こねこ」両者が登場するように受け取れますが、それぞれの動物が主人公となる二話で構成されています。まずは、直に触れあうチャンスには恵まれにくい「みみずく」のお話からスタートです。嵐が吹き荒れたあと、「かえでがおか農場」で一番古い木が倒れ、1羽の小さな「みみずく」が農場の子どもたちによって保護されました。

あかんぼのみみずくの子は、どうしてやれば
いいでしょう? まだ、はねをひろげて
とぶこともできません。

まだ小さいみみずくの子は、どうしてやれば
いいでしょう? えさもさがせないし、
ねずみもつかまえたことがありません。

すむ家のないみみずくの子は、どうしてやれば
いいでしょう? 母さんも、びっくりして
いなくなってしまったのです。

みみずくの子は、だれかがせわをしなければ
なりません。

虚弱な命と偶然出会った切迫、さらに救助の不可欠さを懇々と語りかけています。本当にそのとおり!としか言いようがありません。安全な寝床や食べ物など、「みみずくの子」に必要なものを与えながら、にぎやかに世話をする様子が描かれたあと(私は、みみずくの子が「うしろ手をくんだ小さなしゃちょうみたいに、ぐるぐるあるきまわる」場面がとくに好きです)、みみずくが外に放される日を迎えます。ここではまた、「自由に生きることを、みみずくにどうおしえたらいいでしょう?」と読者に問いかけ、少しずつ外の生活に慣れたみみずくが、やがて姿を見せなくなって終わります。「みみずくは、人とくらすのにむいていません。人がみみずくをかうことはできないのです」という結びの言葉に、甘ったるい感傷はありません。しかし、その上質なリアリズムが胸に響きます。

「3びきのこねこ」のお話では、三者三様の個性をもったねこの暮らしが描かれます。お気に入りの場所や食べるときのクセ、好きな遊びなど、人間同様、異なった性格を備えているのが、ねこなのでしょう。ねこは私たちにとって大変なじみ深い動物です。そうそう、と膝を打つエピソードをユーモラスに紹介しつつ、「人はねこのほんとうの主人にはとてもなれません」と、これも正鵠(せいこく)を得て閉じられます。

動物の生態を誠実に語ったこの絵本から、私は共生を思いました。人がそれぞれ違うように、動物たちも千態万状であるという真実――読者である幼い人たちが、そのうえで、彼らを仲間だと感じることもかけがえのない発見なのかもしれません。絵の巧さや色彩のやさしさは言うまでもなく、取り巻く自然とそこに住まう動物たちの不思議を、愛情をこめた筆致で語った一冊です。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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