子どもと楽しむ料理の科学

鍋でことこと煮込むだけ 手間なくおいしい煮豚

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

味玉たまごもそえて、簡単おいしい煮豚のレシピ

かたまりのお肉を調理するのは難しそう、めんどくさそう、というイメージを持ってはいませんか。かたまり肉を使った料理は、確かに加熱時間は長くかかりますが、意外と手間が少なく簡単なものも多くあります。

今回紹介する煮豚は、材料を鍋に入れてことこと40分間煮込むだけ。時間はかかりますが手間はほとんどかからないので、煮込んでいる間にほかのおかずを作ったり洗い物をしたりする余裕があります。できたてはもちろんのこと、一晩置くとよりしっとりおいしく仕上がるので、時間がある休日に作り置きしておくのもおすすめですよ。

 

焼いてから煮る?焼かずに煮る?

煮込み料理のレシピではしばしば、肉の表面を焼いてから煮るように書かれていることがあります。これはなぜでしょうか。かつては「肉の表面を焼き固めることで肉汁をとじこめるため」と言われていましたが、実際には肉の表面を焼いても肉汁の流出を防ぐことはできません。

それではまったく意味がないかというと、そうではなく、肉の表面を焼くことで香ばしいにおいをつけるという効果があります。「夏休みに親子で挑戦! おえかきホットケーキ」の記事で、糖をタンパク質やアミノ酸と一緒に加熱すると、褐色の色素とともに様々な香りの成分が生まれる「メイラード反応」を紹介しました。肉を焼いたときに生じる焼き色や香ばしいにおいもこの反応によるもので、料理の風味を豊かにしてくれます。

したがって、肉の表面を焼いてから煮ることは料理の風味を増すためのひと工夫です。今回紹介するレシピでは、より手間を少なくするために肉を焼かず、食材で風味をつける方法を紹介します。

あえてみりんを使う意味

甘味付けに、砂糖だけでなくみりんを使うのも、料理の風味に厚みを持たせるための工夫です。みりんは蒸したもち米に米麹を混ぜ、焼酎や醸造アルコールを加えて熟成させたお酒で、お米のデンプンが分解してできたブドウ糖や麦芽糖、オリゴ糖などの糖分と、アルコールが主成分です。

みりんの主な甘味成分はブドウ糖で、砂糖の主成分であるショ糖に比べてメイラード反応を起こしやすいという性質があります。そのため、みりんを加えた煮汁で肉を煮込むと、加熱中にみりんのブドウ糖と材料に含まれるアミノ酸やタンパク質とがメイラード反応を起こし、砂糖だけで甘味付けした煮汁よりもより複雑で香ばしい風味が生じます。メイラード反応は、肉を焼いたときだけでなく、煮込み中に起こすこともできるのです。

みりんがない場合には砂糖と調理酒で代用しても構いませんが、そのときは肉を煮込む前に表面に焼き色をつけたり、にんにくなどの香味野菜や八角といったスパイスを使ったりして風味を補うとよいでしょう。いずれも料理に風味をプラスする手段のひとつなので、手元にある材料やかけられる手間と相談しながら取捨選択できるといいですね。

作り方/レシピ

煮豚

材料(作りやすい分量)
豚肩ロースかたまり肉 300〜500g
生姜(薄切り) 3〜4枚
にんにく 1片

煮汁の材料
水 400ml
・醤油 100g(100ml)
・酒 50g(50ml)
・みりん 50g(50ml)
・砂糖 25g
・酢 大さじ1/2

付け合わせ お好みで
(例:プリーツレタス、長ネギ)

豚かたまり肉は、なるべく鍋にぴったり収まる大きさのものを選ぶと煮汁の量が少なく済み、肉の味が薄くならない。

1.下ごしらえ
にんにくは皮をむいて根元を切り落とし、包丁の腹を使って押しつぶす。
豚肉は長過ぎる場合は鍋に入る大きさに切り分ける。

2.豚肉を煮る
鍋に豚肉と水、煮汁の材料を入れ、豚肉がしっかりと煮汁に浸かるようにする(加熱すると豚肉の長さが縮んで厚みが増すので、生の状態で少し多いくらいの煮汁がちょうどよい)。豚肉がひたひたに浸かるくらいの水を入れ、水の量に合わせて煮汁の材料を入れると、豚肉がしっかりと煮汁に浸かる。

さらに、生姜、にんにくを入れて火にかける。沸騰したら火を弱め、ふつふつするくらいの火加減にする。厚手のキッチンペーパーか、クッキングシートで落し蓋をして40分間煮込む。余裕があれば途中で肉をひっくり返す。

3.付け合わせを用意する
お好みで付け合わせを用意する。プリーツレタスは洗って水をきり、食べやすい大きさに切る。

白髪ねぎの作り方:長ネギは5cm幅に切る。繊維に沿って縦に切り込みを入れ、緑色の芯を取り除く。

白い部分を重ね、繊維に沿って千切りにし、10分ほど氷水につけてから水気をきる。

4.仕上げ
豚肉を煮汁から取り出し、乾燥しないように落し蓋にしていたキッチンペーパーをかぶせておく。残った煮汁を中火で10分ほど煮詰める。豚肉が冷めたら、薄切りにしてお皿に盛り、付け合わせの野菜をそえる。

煮詰めたタレをかけて出来上がり。

すぐに食べない場合は、かたまりのまま煮汁と一緒にチャック付きポリ袋に入れて冷蔵庫で寝かせておくと、よりしっとりと仕上がる。このときゆで卵も一緒に入れておくと、味付たまごができる。

トロトロのお肉をつくるヒケツ

「塩で食感がプリプリに 簡単おいしい塩鶏」という記事で、白っぽいスジの部分が多いお肉を加熱すると硬くなるが、さらにじっくり加熱するとやわらかくなるという話をしました。肉をじっくり煮込むと、白っぽいスジの部分に含まれるコラーゲンが分解して溶け出します。これによってスジの部分がとろりとした食感になり、肉の繊維がほぐれやすくなるので、肉がやわらかく感じられるのです。

したがって、煮込み料理には肩ロースのように適度にスジのある肉がおすすめです。断面を見たときにスジが偏っているものよりも、まんべんなく入ったものを選びましょう。スジの少ないモモ肉やヒレ肉ではコラーゲンの分解による効果よりも、加熱によって肉の繊維が硬くなる効果が大きいので、じっくり煮込むのにはあまり向いていません。

なお、砂糖やみりんに含まれる糖分にはコラーゲンが分解して煮汁に溶け出すのを助けるはたらきがあります。そのため、今回紹介したレシピのように砂糖やみりんを含む煮汁でかたまり肉を煮込むのは効果的な方法です。水でゆでる場合には、あらかじめ砂糖をすり込んでしばらく寝かしておくのもよいでしょう。

 

11/25(木)更新の次回では、「重曹の力でふっくらこんがり 手作りどら焼き」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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