親と子の本棚

那須正幹さん追悼

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

最後の新作

『めいたんていサムくんとなぞの地図』より

2021年1月号のこの「親と子の本棚」でも紹介した(「名探偵のハンカチ」)、那須正幹『めいたんていサムくん』(2020年)からはじまったシリーズの3冊めが刊行された。『めいたんていサムくんとなぞの地図』だ。本のとびらを開けると、見開きの右と左のページに、「青葉町の地図」と「たからの地図」がある。さて、今回は、何がはじまるのだろう。
サムくんこと、青葉小学校2年生のオサムとタケシくん、ミサトちゃんは、火事のあったお屋敷の近くで、宝のありかを記した地図をひろう。ここで連想するのは、那須のデビュー作『首なし地ぞうの宝』(学研、1972年)の5年生たちが空き地で小さな壺に入った紙切れを見つけるくだりだ。そこに書かれていたのも、宝の隠し場所を示す暗号だった。3人の少年たちが暗号を解読して宝をさがしていく物語は、累計2,500万部刊行の『ズッコケ三人組』シリーズ(ポプラ社、1978~2004年)の原型ともいえる。
那須正幹さんが、2021年7月22日に急逝された。79歳。230冊ほども作品を書いたはずだが、遺作となった『めいたんていサムくんとなぞの地図』では、デビュー作にもどって、宝さがしに挑戦している。
版元の編集部にうかがうと、那須さんは、『なぞの地図』の本文の著者校正はすませたけれど、あとがきは書かないままに亡くなったそうだ。だから、いつもは、あとがきに記されている次作の予告もない。おしまいまで読むと、すぐに奥付になってしまって、ひどく切ない気もちになった。
物語は、「だって、子どもたんてい団 さいしょの じけんを みごと かいけつできたのですから。」というふうに終わる。この第3作で、サムくんたち2年生にマコトくんをくわえた「子どもたんてい団」が結成されたのだ。マコトくんは、第2作『めいたんていサムくんとあんごうマン』(2020年)にはじめて登場した3年生だ。これが探偵団の最初の事件なのだから、那須さんには、つぎの事件の構想もあったにちがいない。

ガラスびんの中の宝

さて、サムくんたちの宝さがしたが、宝を埋めた目印に地蔵が出てくるのも、デビュー作と重なる。地図を読み解いていくのは、西村繁男絵の絵本『ぼくらの地図旅行』(福音館書店、1989年)にも重なる。『めいたんていサムくん』のシリーズは、那須さんがこれまで書いてきたことを低学年向きに再話したものともいえそうだ。
サムくんたちが見つけ出した「宝」がガラスびんに入っていたことからは、『ズッコケ三人組の卒業式』で、ハカセが卒業記念の自前のタイムカプセルにインスタントコーヒーの空びんを使ったことを思い出したりする。
そして、『めいたんていサムくんとなぞの地図』の地図が「宝」とともに引き出したのは、この町の戦争の記憶だった。3歳で被爆した那須さんには、『絵で読む 広島の原爆』(西村繁男絵、福音館書店、1995年)などの仕事もある。

ノイズのかなたの声

もう一つ、那須さんの短編「The End of the World」を紹介する。
とうとう戦争が起こって、日本は、核攻撃をうける。A市の中学生の「ぼく」がパパとママといっしょにシェルターに入ったのは、3か月前のことだ。地上は、壊滅的な状況のようだ。やがて、ママが、つぎにパパが病気になって亡くなる。どうやら、シェルターの飲料水が放射能で汚染されていたらしい。
「ぼく」は、無線機のマイクにむかって語りつづける。――「CQ、CQ。(中略)けさ、父が死にました。母も、五日まえに亡くなりました。ぼくも、あとすこしすれば、死ぬでしょう。どうか、おねがいします。どなたか、応答してください。」

 ふいに、ノイズのかなたから、か細い声がもどってきた。
「もし、もし、きこえますか。もし、もし、きこえますか。」

10歳くらいの女の子の声だ。Y市の地下鉄のトンネルの中にいるという。――「おねがい。すぐ、きてくださーい。」
「ぼく」は、地下鉄の駅の名前をたしかめて、シェルターを出る。ガレージにパパが残した車にのりこんで、800キロむこうのY市をめざして発進する。核戦争後の世界で、希望をすてないで生きようとする少年を描いた、まっすぐな作品だ。
1999年夏の広島がよみがえる。那須さんが被爆した生家の跡から平和記念公園まで、那須さんといっしょに何人かで歩いたのだ。石井直人と私が編集した『ズッコケ三人組の大研究Ⅱ』(ポプラ社、2000年)のグラビアの準備だった。那須さんの人生は、まさに「核戦争後の世界」を生きることだったのだと思う。それでも、希望をすてなかった79年だった。合掌。

今月ご紹介した本

『めいたんていサムくんとなぞの地図』
那須正幹 作、はたこうしろう 絵
童心社、2021年
この本には、那須さんのあとがきがないけれど、デビュー作『首なし地ぞうの宝』の文庫版(てのり文庫、1990年)には、見開きのあとがきがある。「どこかにほんものの宝の地図はないものでしょうか。たとえ不可能であっても、ぼくはその地図をたよりに旅立ちたい。」――これが、その締めくくりだ。那須さんは、サムくんたちが見つけた地図をもって旅立ったのかもしれない。

『ズッコケ三人組の卒業式』
那須正幹 作、前川かずお 原画、高橋信也 作画
ポプラ社、2004年
『ズッコケ三人組』シリーズの第50巻で最終巻。シリーズは、三人組が繰り返し小学6年生の時間を生きていく物語だ。この作品の冒頭近くで「なんだか二十六年くらい、ずっと六年生やってたみたいな気がする。」とぼやいたのはモーちゃんだが、最終巻で三人組は卒業式をむかえ、物語の時間が急に動き出す。

『那須正幹童話集⑤ ねんどの神さま』
武田美穂・絵
ポプラ社、2014年
作者の被爆体験をモチーフとする「ねんどの神さま」「八月の髪かざり」「The End of the World」の3編を収める。あとがき「あの日から」で、那須さんは、1945年8月6日の広島を語り、こう結んだ。――「「The End of the World」の主人公のように、最期の最期まで希望をすてない少年にむかって、これからも問いかけ、語りかけていくつもりである。それが、あの日を生きのびてきた人間の責任だと考えているからだ。」

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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