親と子の本棚

探偵たちが見たもの

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

知的な喜び

前回(「那須正幹さん追悼」)は、那須正幹さんの遺作になった『めいたんていサムくんとなぞの地図』(童心社、2021年)を紹介した。この作品が3作めの『めいたんていサムくん』のシリーズについて、生前の那須さんが、自身の『ズッコケ三人組』シリーズ(ポプラ社、1978~2004年)と比較しながら語っている。新聞のインタビューにこたえたものだ。

「ズッコケは高学年向けで内容も少し難しい。今回は絵本の読み聞かせを卒業し、自分で活字を読むようになった低学年の子どもが知的な喜びを感じられる物語を書きたかった」(「子どもに読書の喜びを」『中国新聞』2021年4月15日付朝刊)

『たんてい くまたろう』より

名探偵をもうひとり紹介しよう。つぎは、さかまきゆか『たんてい くまたろう』の書き出し。

 あるところに ひとりぐらしの くまの ぬいぐるみが おりました。なまえを くまたろうと いいました。
  くまたろう たんていや   なぞ なんでも かいけつします 
 春の はじまりの日、くまたろうは たんていやさんを はじめました。

はじめて「なぞ」を持ち込んだのは、くたびれた顔のうさぎのぬいぐるみだった。――「けさ おきたら げんかんに これが おいてあったのです」ふたつきの白い紙の箱に入っていたのは、バスの時刻表、小さな赤い包み紙、そして、その下にタンポポが一輪。くまたろうは、一つ一つていねいに調べる。――「ふむふむ これは ゆかいな なぞの においが しますなあ」バスの時刻表は、うさぎの家の前のバス停のものだったから、ふたりは、まず、そこへ向かう。

教室という「社会」

花田しゅー子『みゆは落とし物名たんてい!』の坂島みゆは、3年2組の落とし物係に決まった。ちょっとがっかりだ。ほんとうは、小さい先生係とか生き物係がよかったな。落とし物係は、教室の落とし物を見つけたら、落とし物ボックスに入れる。そして、帰りの会で、「これはだれのですか」とみんなに聞くのだ。
ある日、みゆが見つけたのは、きれいな花もようの箱で、うらには「清水けんとくん」と書いてある。名前の書いてある落とし物は簡単だ。ところが、清水くんは自分のではないといい、帰りの会でも、持ちぬしは見つからない。放課後になってから、みゆに声をかけてきたのは、河合さんだった。
教室の落とし物にまつわる小さななぞを解きながら、みゆは、友だちのかかえている思いや、それぞれの暮らしに気づいていく。「小学2年の子どもが日ごろ出合うようなちょっとした事件を題材にしている。現代社会とつながる入り口になれば」とは、先の『めいたんていサムくん』についての那須さんのことばだけれど、小学3年生のみゆに見えてくるのは、教室という「社会」だ。

ぬいぐるみは女の子のもの?

『たんてい くまごろう』に登場する、くまも、うさぎも、ぬいぐるみだから、物語には、まるで人形遊びのような楽しさがある。
毎日、ランドセルにトラのぬいぐるみを入れて登校するのは、松田青子『なんでそんなことするの?』のトキオだ。でも、新学期になってから、クラスメートにぬいぐるみのことをいわれるようになった。「トキオくん、そんなぬいぐるみを持ってくるなんておかしいよ」――これは、クラス委員のコウキくん。ミキちゃんとヒロムくんもいう。――「トキオくん、コウキくんの言うとおりだよ。変だよ、トキオくん。それは女の子のもんなんだよ」「うん、ぼくたち男なんだから、ぬいぐるみ持ってるのおかしいよ。」
「そのきたないぬいぐるみにバイキンがついてたらどうするの?」と、コウキくんは、トラを焼却炉にすてようとする。そこに出てきて、コウキくんを大きな口でのみこんだのは、ネコのミケだ。最近、学校から帰ると浮かない顔をしているトキオくんを心配して、いっしょに学校に来たのだ。つぎの日からも、トキオくんにとって、いやなことがつづき、ミケは、とうとういう。

「からかってるだけって言うくせに、じゃあなんでトキオくんは、毎回悲しいの? 傷つくの? いやな気持ちになるの? からかってるだけって本当は思ってないからだよね」

今月ご紹介した本

『たんてい くまたろう』
さかまきゆか
あかね書房、2021年
「はこに はいっている じゅんばんが じゅうような ようですね」と、くまたろうは、依頼人のうさぎにいう。うさぎは「この くまは てきとうなことを いっているな」と考えるけれど、くまたろうは「つんだばかりの タンポポが いちばん下に はいっているのは ふしぜん だからです」といって、うさぎを感心させる。ふつうなら、つぶれないように、一番上に入れるだろう。くまたろうの推理がはじまったのだ。

『みゆは落とし物名たんてい!』
作・花田しゅー子、絵・ドーリー
刈谷市・刈谷市教育委員会、2021年
みゆの友だちの凛ちゃんは、ほんとうは図書係になりたかったが、けいじ係に決まる。それでも、凛ちゃんは、「けいじ係って、ドラマに出てくるけいじさんみたいでかっこいいじゃん」という。みゆは、「けいじ係のけいじと、けいさつのけいじさんっていみがちがうんじゃないかなぁ」というのだが、けいじ係の凛ちゃんの協力で、なぞを解いていく。
一般公募の第6回森三郎童話賞の最優秀賞受賞作品が本になった(森三郎(1911~93年)は、現在の愛知県刈谷市出身の童話作家)。刈谷市中央図書館で購入できるし、各地の公共図書館で読むことができる。

『なんでそんなことするの?』
松田青子作、ひろせべに画
福音館書店、2014年
トキオは、学校から家に帰ると、自分の部屋のドアの前で「ミソサバ」とささやく。中から「サバミソ」という声がして、トキオは、安心してドアを開ける。部屋のベッドで、チョコチップクッキーを食べながらマンガを読んでいるのはミケだ。トキオは、ミケの心配にこたえて、いやなことがあったときに「なんでそんなことするの?」といえるだろうか。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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