小田先生のさんすう力UP教室

やってみる力を育てよう

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、もうすぐ誕生日を迎える小田です。年度の初めの回では毎年のように言っている気もしますが、まあ毎年この時期に誕生日を迎えるので、このネタを使うなら年度初回しかない気もします。1/12歳ずつ歳をとる誕生“日”なら、毎月迎えていたりもしますけどね。それはさておき。 
 さて、初めての方は初めまして、昨年度から引き続きの方はいつもありがとうございます。このコーナーは、私が普段教え子たちに解いてもらっている問題を紹介したり、その問題でどういうことを身につけて欲しいのかを解説したりするコーナーです。もちろん、まずは問題を楽しんでもらうことが大事ですので、ひとまず気軽に挑戦してみてください。

 それでは早速行ってみましょう。

Stage25:やってみる力を育てよう

例題

図の5つの□には、3,4,6,7,9の数字がそれぞれ1回ずつ入ります。うまく数字を入れて、縦に並んだ3つの数の合計と、横に並んだ3つの数の合計が、同じになるようにしてください。

例題の答え

まずは、問題の意味が理解できているかどうかを確認してあげましょう。下の図の、アからオに1つずつ数を入れていき、「ア+ウ+オ」と「イ+ウ+エ」が同じになればOKです。うまく問題の意味がつかめていないな、と感じるときは、まず「適当でいいから5つの数をそれぞれマス目に入れてみて」と伝えてあげましょう。そのうえで、「ア+ウ+オ」と「イ+ウ+エ」をそれぞれ計算してもらい、「それが同じになればいいんだよ」と伝えます。

 

 

 

 

 

 

 

問題の意味がわかっているようなら、あとは温かく見守ってあげましょう。お子さんが答えを出したら、まずは縦3つ、横3つの数の和をそれぞれ確認してあげてください。同じになっていれば、正解です。上記の例はあくまで「例」であり、上下や左右を入れ替えたり回転させたりしたものなど、それ以外にも正解はあります。「指定された数を過不足なく使っている」ことと「縦3つと横3つのそれぞれ和が等しくなっている」ことが確認できれば、それらはすべて正解です。
なかなか答えが見つからないようなら、“応援”をしてあげましょう。「なかなか見つからないね」と声をかけてあげたり、和が近くなったときに「惜しいね!」と励ましてあげたりすることが大切です。

解いてみよう

Level 1

図の5つの□に、決められた数をそれぞれ1回ずつ入れて、縦に並んだ3つの数の合計と、横に並んだ3つの数の合計が、同じになるようにしてください。

 

Level 2

図の5つの□に、決められた数をそれぞれ1回ずつ入れて、縦に並んだ3つの数の合計と、横に並んだ3つの数の合計が、同じになるようにしてください。

Level 3

図の5つの□に、決められた数をそれぞれ1回ずつ入れて、縦に並んだ3つの数の合計と、横に並んだ3つの数の合計が、同じになるようにしてください。

解答

Level 1

Level 2

Level 3

さんすう力UPのポイント

今回は年度の初めということで、やはり例年通り「試行錯誤する力は大事」という話からお伝えしていきたいと思います。
算数がなんとなく苦手になってしまうきっかけにはいろいろとあるのですが、そのひとつに「自分が何をやっているのかわからなくなる」というものがあります。算数の学習が進んでいくと、徐々に抽象的な内容が増えていきますね。そして、それらについて形式的な操作をしていくことを学んでいきます。それはそもそも、算数というものがそういうものだからではあるのですが、実感が湧きづらい“操作”はやはり学びのモチベーションの上では、ひとつ高めのハードルとなってしまいます。形式的な“操作”であっても、それらを正しく行えて、テストで「正解」できているうちはまだそこまで嫌いにはならないかもしれません。しかしその“操作”が一定以上複雑になり、途中で間違えて「正解」できなくなってきてしまうと、一気に「算数」がわからなくなった、と感じてしまうのです。

そもそも算数が抽象的な概念を扱っていくものである以上、どこかで「形式的な操作」をやっていくことを受け入れられるようになることが必要でしょう。そのときに重要になってくるのが「やってみる力」です。操作自体は形式的であっても、自分の手を実際に何度も動かしてみて、その結果をじっくり観察することで、自分の中で今まで培ってきたもの・理解できていたものと結びつけていく、ということは可能です。そうやって、「自分の中で納得できる落とし所を見つけていく」という学習を進めていくことができれば、一時的に“わからない”ことはあっても、「算数自体がまったくわからない」となることはないでしょう。

今回の問題は、その「やってみる力」をトレーニングするためのひとつの題材です。今回の問題も含めて、いわゆるパズル的な問題は、「やってみる力」を身につけていく上での格好の練習材料となるでしょう。その理由のひとつは、「何をやればいいか」が具体的にわかる、というところにあります。今回の問題で言えば、「数字をあてはめる」「3つずつ足した数を求める」「それらを比べて同じかどうかを確認する」という操作ですね。これらを繰り返していけば、いずれ「正解」を見つけ出すことができます。逆に言えば、これらをやればいいのだ、とわかっていない状態で取り組んでも、トレーニング効果は得られません。「例題」の解説にも書いたように、まずは“そうやればいい”ということを確認することが大事でしょう。
もうひとつ重要なポイントは、「正解かどうかを自分で確認することができる」ということです。今回の問題であれば、実際に3つずつの和を計算してみて、同じになっていれば正解・同じになっていなければ不正解、と自分で正解かどうかを判断することができます。もちろん、計算ミスなどはあるので、そういった部分を他者が確認することは必要ですが、その場合も、自分でその“間違い”を納得することはできるはずです。つまり、「間違いと言われたけれども、何が間違っているのかがわからない」という状態になることがないのです。

そうやって、「自分のやれることをやって、自分でその結果を受け止める」という経験こそ、「やってみる力」を育てていくために重要です。もちろん、こういったパズルを“うまく解く”といった楽しみ方も大事ではあります。今回の問題でも、「ア+ウ+オとイ+ウ+エでは、両方とも“ウ”が足されているので、これらの和が同じになるためにはア+オとイ+エが同じにならなければいけない」ということに気づくと、「正解」を見つけやすくなるでしょう。しかし、それに気づくことは“算数の学習”の上ではそこまで重要なことではありません。試行錯誤していく中で自分で発見できれば、もちろんそれはとても素晴らしいことです。しかし、それに気づく前に「正解」を見つけてしまっても、それはそれで学習の上ではひとつ大きな成果となるでしょう。その意味では、自分で気づく前に「ヒント」として伝えてしまうことには、あまり意味がありませんね。「自分の力でないものを利用して“正解”を知ってしまう」という経験は、むしろ「自分が何をやっているかわからない」状態へつながっていってしまいます。お子さんが自分の力でいろいろと試行錯誤している間は、ぜひ温かく見守ってあげてください。


 いかがでしょうか。年度も変わり、年齢も重ね、今年度こそはいろいろ頑張ろうと毎年思ってみたりはするのですが、まあ人間そんなに上手くできるものではありませんね。それでも、何かしらひとつくらいはできることが増えていけば、それはそれでいいのかな、という気がします。そんな自分を省みながら、目の前の子どもたちを見てみたりすると、どの子もその子なりにたくさんのことを学び、日々成長していっていることに気付きます。新しい一年でさらに成長してくれるのが楽しみですね。私自身も子どもたちに負けず、少しでも成長していきたいとは思いますので、ひとまず今年度もまた一年、お付き合いいただけると嬉しいです。

 それではまた来月!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

まだZ会員ではない方

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