親と子の本棚

あまく、とろける物語

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

おかしたちの町

北川佳奈『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』の目次のつぎのページには、こう記されている。――「チョコレートのつつみ紙をはがすと、ぴかぴか光るぎんがみ。ぱりっとしていて、うすくて、ゆびでそっとやぶいてみれば、たちまちチョコレートのあまいかおりにつつまれて……。/これは、板チョコレートのクーちゃんと、なかよしのぎんがみちゃんの、とろけるようなたのしい毎日のお話です。」
全部で8編の短い話が収められている。最初の「春のいちばんはじめの日」では、物語の舞台のカカオの町と、クーちゃんとぎんがみちゃんが紹介される。ここは、おかしたちの町だ。春風のなかをチョコレートウエハースの女の子がさくさく軽やかな足どりで歩いている。
クーちゃんは、ぎんがみちゃんの家をたずねる。クリの木通りのりっぱなクリの木の下の小さな丸太小屋がぎんがみちゃんの家だ。ぎんがみちゃんの家のとびらを開けようとした、クーちゃんは、いいことを思いつく。――「ぎんがみちゃんにおくりものをしよう」その日は、ぎんがみちゃんの誕生日でも何かの記念日でもなかったのだけれど、いつもとはちがうことをしたくなったのだ。

『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』より

2番めの話は、「やさしいふとん」。朝。もう、カーテンから、まぶしい光が差し込んでいる。クーちゃんが半分目をあけると、ベッドのわきのいすに、ぎんがみちゃんがすわって、本を読んでいる。ふと本から顔をあげると、クーちゃんのふとんをかけ直してくれる。――「ふとんは小鳥のようにかるくてあたたかでした。クーちゃんはまたしても、すーっとねむりに落ちていきました。」
昼近くなって、ようやく起きると、ぎんがみちゃんは、いない。クーちゃんは、あわてて、ぎんがみちゃんの家へ行く。
 
 

「あのね、おふとんを直してくれたの、とってもうれしかった。わたしもぎんがみちゃんのおふとんを直してあげたいんだけど、ぎんがみちゃん、今からねむってくれない?」

まだ昼過ぎなのに、クーちゃんは、ぎんがみちゃんを無理やりベッドに押し込む。――「だって夜になったら、おふとんをかけてあげられないでしょ。わたしもねているんだもん」

オルゴールの調べ

チョコレートといえば、もう季節がすぎてしまったけれど、バレンタインデー。たかどのほうこ『コロキパラン 春を待つ公園で』は、バレンタインデーの話だ。「いまではもう遠くなった二月の日曜のこと、……」と語りはじめられる。
大学1年生だった「わたし」とクラスメイトの森田さんは、チョコレート屋さん「ムッシュ・チョコット」でアルバイトをすることになる。まだ寒い日曜日の公園に、にわかづくりの店ができた。「わたし」は、チョコレートを買ってくれた人の似顔絵を描く係だ。チョコレートを売る係の森田さんが「あなたの似顔絵といっしょに、好きな人にあげてくださーい!」と明るくすんだ声を投げる。

 コロキパラン……キロラポン……
 コロキパラン……キロラポン……
 時おりながれてきて、はたらくわたしたちの耳を楽しませてくれるのは、ちょっとないほどにきれいな、オルゴールの調べでした。芝生と花だんをはさんだ向こうのベンチのそばに、車輪つきの大きな木箱のようなものがおかれていて、はっきりとは見えなかったけれど、ひとりのおじさんが、ハンドルを、ゆっくりゆっくり回していました。

「音楽つきとは、ラッキーだったな。だってチョコがほしくなるような音でしょ。楽しいっていうか、ふしぎっていうか、なんだか、おとぎばなしみたいな感じでさ」――店長さんは、そういいながら、「ムッシュ・チョコット」の看板を立てる。

物語を語る物語

「港の公園のベンチで、みこおばさんはチョコレートの箱をひとつとりだした。坂のとちゅうの店で買ったのだ。もうひとつ同じ箱があるけれど、それはお母さんへのおみやげ。」――岡田淳『チョコレートのおみやげ』の書き出しだ。
異人館と港が見たいという「わたし」に、みこおばさんが一日付き合ってくれた。ふたりいっしょにチョコレートを口に入れると、おばさんが「時間がとけていくみたい」という。「時間て、あまいん?」と「わたし」がいう。
「わたし」がきょう見たもののなかで好きだったのは、「異人館、風見鶏、…」。すると、おばさんが突然語り出す。――「坂道の上の洋館に、ひとりの男とニワトリがくらしていました。」おばさんの物語の結末は悲しい。「わたし」が語り直すことにする。「わたし」の物語のなかで、男とニワトリを救うのがチョコレートだ。舌の上に印象的な甘さを残すような、物語を語る物語である。

今月ご紹介した本

『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』
北川佳奈 作、くらはしれい 絵
岩崎書店、2022年
夏。ふたりで海に出かけるとき、クーちゃんは大きな旅行かばんで、ぎんがみちゃんは小さな荷物だ(四つめの話「なくてもいいもの」)。クーちゃんは、何でもていねいにやろうとする。ぎんがみちゃんは、さっぱりしている。
小川未明文学賞大賞を受賞した『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』(学研プラス、2021年)でデビューした作者の第2作。

『コロキパラン 春を待つ公園で』
たかどのほうこ 作、網中いづる 絵
のら書店、2022年
似顔絵を描く「わたし」の前には、つぎつぎにお客さんがすわる。黄色いオーバーの女の子が似顔絵つきのカードをもって、スキップしながらかけていったとき、どこからか、小さな小さなつぶやきが聞こえる。――「いいなあ……」「いいなあ……」

『チョコレートのおみやげ』
岡田 淳 文、植田 真 絵
BL出版、2021年
日本児童文学者協会編のアンソロジー『兵庫の童話』(愛蔵版 県別ふるさと文学館28、リブリオ出版、1999年)に掲載された作品を単行本にしたもの。坂と異人館の町、神戸の物語だ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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