親と子の本棚

世界一つよい女の子

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

たくさんのテピンギー

女の子の昔話えほん ハイチのおはなし『わたしがテピンギー』より

「むかし、あるところに、テピンギーという 女の子が いました。」――本のとびらには、赤いリボンの女の子が描かれている。中脇初枝・あずみ虫の絵本『わたしがテピンギー』は、ハイチの昔話だ。

テピンギーのおかあさんは なくなって、あたらしい母親が やってきました。
それから、おとうさんも なくなったので、テピンギーは あたらしい母親と ふたりぐらしに なりました。
この母親は いじわるで、テピンギーには、なにも わけてやりたくないと おもっていました。

いじわるな母親は、山から家まで、たきぎを運ぶ手伝いをしてくれた、おじいさんに「めしつかいの女の子を あげるよ。この家の子で、テピンギーというんだ。」という。母親は、おじいさんに「てつだってやろう。かわりに なにをくれるかね?」といわれたのだ。テピンギーは、家にいて、こっそり母親の話を聞いていた。――「あしたのおひる、テピンギーを いどに みずくみに いかせるよ。あの子には 赤いふくを きせておくから、テピンギーと よんで、つれていっておくれ。」おじいさんは、「わかった。」といって帰っていく。テピンギーは、友だちの家へ走る。
つぎの日、おじいさんが井戸に行くと、母親がいっていたように赤い服を着た女の子がいた。ひとりではなく、ふたり、三人……何人もいる。おじいさんが「どの子が テピンギーかね?」とたずねると、ひとりめの女の子が「わたしが テピンギー。」といい、ふたりめも「わたしも テピンギー。」という。のこりの女の子たちも、「わたしたちも テピンギー。」というのだ。

つぼのふたを開ける

まきあつこ・降矢ななの絵本『ヴォドニークの水の館』は、チェコの昔話。ヴォドニークとは何か。――「川には、ふだん人がはいることのない水の世界があり、そこには、ヴォドニークという不気味な水辺の主がすんでいました。ヴォドニークは、気まぐれに水の世界からでてきてはいたずらをしかけたり、人をおぼれさせたりするのでした。」
とてもまずしい家のむすめが、ひもじくて家を出て、川に身投げしようとしていたのを、このヴォドニークがつかまえて、水の館につれていく。ヴォドニークは、むすめに食事をあたえ、はたらかせる。ヴォドニークは、むすめを館の広間に案内する。広間の大きなストーブの上のたくさんのつぼには、どれにも水がいっぱい入っていて、ふたがしてある。

「まいにち館のそうじをしてくれ。
とくにこの広間はきれいにととのえて、ストーブの火は、たやさず燃やしつづけるように。
それがおまえの仕事だ。
だが、つぼの中はのぞくな。
もしふたをあけたりしたら、ただじゃおかないぞ」

むすめは、いいつけを守ってはたらく。ところが、ある日、広間のつぼのふたがカタカタと音をたてる。つぼのなかから聞こえてきたのは、前に川でおぼれ死んだ弟のかぼそい声だ。むすめは、迷ったあげくに、つぼのふたを開ける。すると、何かがとび出してくる。とじこめられた弟のたましいが、自由になったのだ。――「ヴォドニークが、おぼれさせた人たちのたましいをつぼに、とじこめていたんだわ。ああ、なんてこと」

物語のはじまり

つぼのふたを開けた、むすめは、ヴォドニークの怒りをかい、水の館から逃げ出す決心をする。そして、館を出る前に、すべてのつぼのふたを開けたのだ。
このむすめも、テピンギーも、苦難に立ち向かう強い心のもちぬしである。「世界一つよい女の子」――これは、もちろん、長くつ下のピッピのことだ。マリア・イサベル・サンチェス・ベガラリンジー・ハンター『アストリッド・リンドグレーン』は、『ピッピ』の作者の伝記絵本である。『ピッピ』の物語のはじまりは、リンドグレーンのむすめの風邪がきっかけだったという。風邪でねこんでいた、むすめのカーリンは、「長くつ下のピッピ」という名前を思いついて、その女の子の話をせがむ。

かわった名前なのだから、その女の子も かわった子にしないとね、と アストリッドは かんがえました。
こうして うまれた「長くつ下のピッピ」は、ただ かわっているだけの 女の子では ありませんでした。
世の中の子どもたちが そうありたいと ねがう、すべてを かねそなえていたのです。ごたごた荘と よばれる家で サルと 馬と くらすピッピは、じゆうで きままで こわいものなし。なにしろ、世界一つよい 女の子なんですから!

今月ご紹介した本

女の子の昔話えほん ハイチのおはなし
『わたしがテピンギー』

中脇初枝 再話、あずみ虫 絵
偕成社、2022年
どの赤い服の女の子がテピンギーがわからなかった、おじいさんは、母親に「だましたな。」という。母親は、「そんなはずは ないよ。」「テピンギーには、あした、黒いふくを きせるよ。」という。また、こっそり聞いていたテピンギーは、友だちの家をまわって、助けをもとめる。
テピンギーは、ハイチで小さな女の子を呼ぶ愛称だそうだ(巻末の中脇初枝「おはなしについて」)。

チェコのむかしばなし
『ヴォドニークの水の館』

まきあつこ 文、降矢なな 絵
BL出版、2021年
これは、まずしさとひもじさに疲れたむすめの死と再生の物語だ。
ヴォドニークは、チェコで語りつがれてきた水の魔物。かつてはチェコと一つの国だったスロヴァキアで長くくらしている画家の降矢ななさんは、日本の河童のような「もののけ」だと思ったという(まきあつこ「あとがき」)。

小さなひとりの大きなゆめ
『アストリッド・リンドグレーン』

マリア・イサベル・サンチェス・ベガラ 文、リンジー・ハンター 絵、菱木晃子 訳
ほるぷ出版、2022年
この絵本の訳者の菱木晃子さんは、『長くつ下のピッピ』シリーズ(岩波書店、2018~19年)や、同じリンドグレーンの『名探偵カッレ』シリーズ(同前、2019~20年)の訳者でもある。
『小さなひとりの 大きなゆめ』は、伝記絵本のシリーズだ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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