親と子の本棚

おじいちゃんとおばあちゃんをたずねて

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

お彼岸の海

『うみのハナ』より

夏休み。すけのあずさの絵本『うみのハナ』の「わたし」(ふうちゃん)は、おじいちゃんとおばあちゃんをたずねる。ふたりは、海辺の町で床屋さんをしている。床屋さんは、いつも常連さんでにぎやかだ。おじいちゃんは、「わたし」の髪もチョキチョキと短くしてくれる。
おやつを食べているとき、おばあちゃんが言い出す。――「きょうは いいゆうひが みれそうやなぁ。ばあちゃんな、こどものころ、ばあちゃんの ばあちゃんと まちの たっかいところから ハナフリ、みにいったわ」

「ハナ、フリ?」
「うん。ひがんの ちゅうにちになると ハナフリ、みにいこらーって きんじょのひと さそいあってね。
うみにしずむ ゆうひ みてたら きらきらーって めのまえ いっぱい ハナのような ひかりのつぶが ふってくるんよ」
「おばあちゃんは みたん?」
「いっかいだけ。あれは うつくし けしきやったぁ…」

「わたし」が「なんで おひがん なんやろう」と聞くと、おばあちゃんは、「だいじなひとが ハナになって あいにくるとか。そんなん いうひとも おるわ」という。――「わたしも みたいなぁ…」
おじいちゃんが亡くなったのは突然だった。後をつぐ人がいないから、床屋さんは、閉めることになる。

ころころなしの自転車

床屋さんにつづいて、安井寿磨子『ほじょりん工場のすまこちゃん』は、子ども用自転車の補助輪を作る工場の話だ。すまこの家のとなりの工場で、おとうちゃんは、一日中はたらいている。すまこは、空想好きでゆっくりペースの女の子だけれど、おとうちゃんは、大きな声で話す元気な人だ。声が大きいのは、ふだんから、工場の機械の音に負けないように声をはりあげているから。
家でのお昼ごはんのとき、おとうちゃんが急にいう。――「せや、あした、工場は早じまいやから、しごとおわったら、自転車のれんしゅうするぞ。春休みのうちに、ほじょしゃをとってしまうんや」おとうちゃんは、補助輪のことを「ほじょしゃ」といい、すまこは、「ころころ」と呼んでいる。すまこは、ころころなしの自転車にのる自信がない。
つぎの日から、自転車の練習がはじまった。車の通らない、せまい坂道で、おとうちゃんは、スパナでころころのねじをゆるめて、地面から少しうかす。おとうちゃんがサドルの後ろをもってくれて、坂道を行ったり来たり。おとうちゃんがいう。――「もうちょっと、はよ、こがんかあ!」「まっすぐ走れ!」「がんばれ、ほじょしゃにたよるな!」
おとうちゃんは「勇気や! もっと勇気だせ!」ともいうのだが、すまこのころころは、いつ、どんなふうにしてとれるのだろう。

おじいちゃんのこわい話

『うみのハナ』の「わたし」のように、E・H・ミナリック『おじいちゃんとおばあちゃん』のこぐまのくまくんも、おじいちゃんとおばあちゃんのところへ行く。ふたりは、森のなかの小さな家に住んでいる。
みんなでごちそうを食べたあと、おじいちゃんがいう。――「さあ、きょうは、うんとおもしろいことをしよう。おまえとわしとでな」くまくんは、おとうさんから「おじいちゃんを くたびれさせちゃいけない」といわれていたから、心配になるけれど、おじいちゃんは、「わしは、ぜったいに くたびれたりはせんぞ!」というのだ。くまくんとおじいちゃんは、いっぱい遊んで、つぎには、くまくんがおじいちゃんにお話をせがむ。そのうちに、おじいちゃんは、やっぱり、つかれて眠ってしまう。
やがて、目がさめた、おじいちゃんに、くまくんは、「ゴブリンのおはなし、してくれる?」と聞く。

「いいよ、もしおまえが、わしの手を にぎっててくれるならね」と、おじいちゃんはいいました。
「ぼく、こわくないよ」と、くまくんは いいました。
「いや、わしが こわくなるかもしれんからな」
と、おじいちゃんはいいました。
「もう、おじいちゃんたら!
 さ、はやくして!」
そこで、おじいちゃんは、はなしはじめました。

今月ご紹介した本

『うみのハナ』
すけの あずさ
BL出版、2022年
おじいちゃんが亡くなったあとのお彼岸に、「わたし」は、おばあちゃんに会いに行く。床屋さんは、そのままになっていて、「わたし」は、引き出しから、おじいちゃんのハサミをとり出してみる。夕飯の買い物に出たとき、さっきから空ばかり見ていた、おばあちゃんがいう。――「ふうちゃん。いまから ハナフリ、みにいこう」
あとがきには、こうある。――「大阪南部から和歌山北部にかけて、沿岸部では今も彼岸の中日に夕日から花が降るように見える現象、ハナフリ(ハナフルやハナチルと呼ぶこともある)を眺める風習が残っている地域があります。この絵本は和歌山市の港町『雑賀崎(さいかざき)』を舞台に描きました。」(カッコ内原文)

『ほじょりん工場のすまこちゃん』
安井寿磨子 さく
福音館書店、2022年
作中、作者の絵と文で補助輪工場の機械一つ一つが紹介される。――「いちばんかっこいい機械は、こっちをむいて、でんとしているプレス機。まえにテレビで見た、「マグマ大使」みたいな顔をしてる。」巻末には、大阪生まれの作者について、こう書かれている。――「この作品の舞台となった安井製作所が実家。当時は、日本唯一の子ども用自転車の補助輪製作所だった。」
おとうちゃんは、子どもが自転車にのれるようになったら使われなくなる補助輪を一生懸命に作っている。「ええねん。それがほじょしゃの運命じゃ!」とおとうちゃんはいう。

はじめてよむ どうわ5
『おじいちゃんとおばあちゃん』

E・H・ミナリック ぶん、モーリス・センダック え、まつおか きょうこ やく
福音館書店、1986年
おじいちゃんのゴブリンの話を聞き終わった、くまくんは、ソファーにこしかけて、ひとりごとをいう。――「ぼく、くたびれてない。ぼく、目をつぶっていられるよ。でも、ねるんじゃないよ。ぼく、ちっとも くたびれてなんかいない。」くまくんは、目をとじる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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