親と子の本棚

絵姿のゆくえ

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

夕顔の花みたいな

『えすがたにょうぼう』より

今江祥智・赤羽末吉の絵本『えすがたにょうぼう』の村の門太という若者は働き者で、門太の畑はどこよりもみごとだけれど、気が弱い。それでも、わらじの鼻緒が切れて道端にしゃがんでいた、ねえさまを助けたことがきっかけで、そのねえさまが嫁に来てくれた。――「あんたは 心が やさしいで、わしを よめに して くれんか。」。

ねえさまは、また、ぽうっと わろうた。
ゆうぐれの なかで ぽうっと 白い ねえさまの かおを みて、門太は、
(おら、ゆうがおの 花みてえな にょうぼうを もろうたぞ!)
 と、さけびたい きもちだった。

つぎの日から、門太は、畑に出ても、女房が気になってならない。すぐに家に帰ってきてしまう。女房は、家にいて、機を織っている。門太は、家と畑を何度も往復する。

 これでは しごとに ならない。
 そこで、にょうぼうは、しばぐりを かりんと わって たべながら、ちっとの ま かんがえて いたが、やがて、こう ささやいた。
 ―わしの すがたを、えに かいて もらうと ええに。

女房が町へ行って絵描きに描いてもらった絵姿を竹の杖にはさんで、畑のあぜに突き立て、門太は、絵姿をながめては仕事にはげむ。ところが、ある日、大きな風が絵姿を空高く舞い上げてしまう。

美術を愛するネズミ

門太の畑のあぜは、女房の絵姿をかざった小さな美術館のようだが、ネズミのノーマンは、大きな美術館の門番をつとめている。つぎは、ドン・フリーマンの絵本『門ばんネズミのノーマン』の書き出し。

マジェスティック美術館のうら手の、ひみつのぬけ穴のまえに立っているのは、ノーマンという名まえのネズミです。
ノーマンは美術館の門ばんで、地下室にしまってあるお宝を見にくる芸術ずきのお客たちを、だれでもむかえいれていました。

たずねてくるお客もネズミたちだ。ノーマンは、絵や彫刻をほんとうに愛していて、お客たちに作品をていねいに解説する。
ノーマンにとって一番の問題は、上の階からしばしば降りてきて、ネズミとりを仕掛けていくガードマンだった。

19世紀後半の絵本作家

ランドルフ・コールデコット……その絵ときたら!
ランドルフのえがく主人公たちはみんな楽しそうに生きている。
ページの上をところせましとはねまわる。ランドルフは、まだ字か読めない子どもたちでも、絵を見るだけで物語がわかる絵本をつくったのだ。

ミシェル・マーケルバーバラ・マクリントック『その絵ときたら!』は、副題に「新しい絵本の時代をつくったコールデコット」とある伝記絵本だ。
ランドルフ・コールデコットは、1846年生まれだけれど、1850年代の絵本の絵には動きがない。そうした子どもの本を新しいものにしたのがランドルフだ。
少年時代のランドルフは、体が丈夫でないのに、外で遊ぶのが大好きで、外で見てきた動物たちを絵に描くのも大好きだった。
おとうさんは、むすこを15歳で銀行に働きに出すが、ランドルフは、絵を描きつづける。ある日、駅前のホテルの火事をスケッチしたら、それが有名な新聞にのった。――「もしかしたら絵を売って食べていけるかもしれないぞ。」やがて、彼は、ロンドンへ出て行く。

今月ご紹介した本

『えすがたにょうぼう』
ぶん・今江祥智、え・赤羽末吉
BL出版、2023年
風にとばされた女房の絵姿は、殿様の手もとに吹きよせられる。――「とのさまは、うつくしい にょうぼうの えすがたを みると、ほっと ためいきを つき、―これを つれて こう。と いいつけた。」さあ、女房と門太は、どうなるのか。
1965年に盛光社から刊行された本の復刊。

『門ばんネズミのノーマン』
ドン・フリーマン 作、やましたはるお 訳
BL出版、2008年
ノーマンは、門番の仕事がおわったあと、楽しいものや美しいものをつくるのが趣味だった。ネズミとりの針金を使って、空中ブランコをするネズミのすがたを表して、「ちゅうちゅうぶらんこ」と名づける。美術館の彫刻コンテストにひそかにそれを持ち込んだら、一等賞に決まった。出品したのは、いったいだれか。
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

『その絵ときたら!――新しい絵本の時代をつくったコールデコット』
ミシェル・マーケル 文、バーバラ・マクリントック 絵、福本友美子 訳
ほるぷ出版、2023年
ランドルフがはじめて絵本を出版したのは1978年、『ジャックがたてた家』と『ジョン・ギルビンのゆかいなお話』の2冊だった。アメリカで毎年、その年のもっともすぐれた絵本の画家に贈られるコールデコット賞に彼の名前がのこる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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