親と子の本棚
働きものの夏休み
2017.7.27
6.9K
子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。
2冊の『ネズミの ゆうびんやさん』
マリアンヌ・デュブクの絵本『ネズミの ゆうびんやさんの なつやすみ』は、同時に刊行された『ネズミの ゆうびんやさん』の続編にあたる。『ネズミの ゆうびんやさん』は、月曜日の朝、荷車にたっぷり荷物をつんだ、ネズミのゆうびんやさんが、クマさん、ウサギさん、鳥さんたち……、手紙や届けものを待っている、みんなに、つぎつぎに手渡していく話だ。ネズミのゆうびんやさんは、ずいぶん働きものなのだ。
「さあ、まちにまった なつやすみ! ネズミの ゆうびんやさんは ゆうびんきょくの かぎを しめ、かぞくで バカンスに しゅっぱつです。」――これは、『ネズミの ゆうびんやさんの なつやすみ』のはじまりだ。ところが、ゆうびんやさんの荷車には、手紙や小包ものっているようだ。旅行をしながら配達するのだという。やっぱり、ネズミのゆうびんやさんは、よく働く。それでも、『ネズミの ゆうびんやさん』のときのような制服制帽すがたではなく、バカンスらしいシャツと帽子だ。
ネズミ一家は、まず、森のキャンピングカーで暮らすクローデットおばさんに届けものをする。ネズミの奥さんは、森で火をおこして、夕はんのしたくをし、息子のトミーは、テントを張る。
ひそかなゆめ
『3番地 フィーフィーのすてきな夏休み』は、エミリー・ロッダの『チュウチュウ通りのゆかいななかまたち』シリーズの1冊だ。
チュウチュウ通り3番地に住む、ハツカネズミのフィーフィーは、14ひきの子どもたちを育てるおかあさんだ。だんなさんのチャーリーは船乗りで、海に出ていることが多いから、フィーフィーは、大いそがしなのだ。
チュウチュウ通りのなかまたちは、よくフィーフィーにいいました。
「すこしは、お休みをとりなさいよ」
フィーフィーも、お休みをとりたいと思っていました。みんながいうように、くたびれていたからです。一週間でいいから、だれもいない島に行って、ひとりでのんびりしたいというのが、フィーフィーのひそかなゆめでした。
けれど、フィーフィーのゆめは、なかなかかなえられない。子どもたちは、お手伝いをしようとするけれど、かえって、家中をめちゃくちゃにしてしまう。だから、フィーフィーは、また思うのだ。――「もうだめ! やってられないわ! ぜったいに、お休みをとらなくちゃ!」
そのフィーフィーの目に、ある新聞広告がとびこんでくる。ごみをつつんですてようとした古新聞にのっていたのだ。――「チーズ・ホイホイで ごうかな夏休みをプレゼント! ホイホイ食べて、ホイホイ書こう!」チーズ・ホイホイは、箱入りのスナック菓子だ。箱のラベルを50枚あつめて、チーズ・ホイホイについて思ったことを50字以内で書けば応募できる。フィーフィーと子どもたちは、チーズ・ホイホイをたくさん買い込む。応募締め切りまでは、10日しかない。ところが、チーズ・ホイホイは、ひどくまずいのだ。フィーフィーは、夏休みを手に入れることができるのだろうか。
チーズの味見
タイタス作『ねずみのアナトール』のアナトールも、やっぱり、働きものだ。毎晩暗くなると、自転車でパリの町に行って、家族のために食べ物をさがす。秘密の廊下を抜けて、家に入り込むのだ。ある晩、台所で残り物をあさっているアナトールに、となりの部屋でネズミのうわさをする人たちの声が聞こえてくる。――「まったく、ねずみどもは、フランスじゅうの はじだ。」「ねずみって やつは、どろぼうと おんなじさ。」
このことばに、アナトールは、大いに傷つく。友だちのガストンは、「そんな こと、どうだって いいじゃ ないか、アナトール。これが、生きて いくって ことさ。」というけれど。やがて、アナトールは、人間にお返しをすることを考える。夜、チーズ工場の試食室で仕事をすることにしたのだ。ネズミは、チーズの味見にかけては世界一だ。アナトールは、味を見ては、チーズにピンでカードをとめる。――「もっと しおを すくなく。 アナトール」「うまい。でも、クリームが たりない。 アナトール」
今月ご紹介した本
『ネズミの ゆうびんやさんの なつやすみ』
マリアンヌ・デュブク さく、ふしみ みさを やく
偕成社、2017年
マリアンヌ・デュブクは、カナダの絵本作家。2006年にデビューし、国際的にも注目されているが、邦訳は、『ネズミの ゆうびんやさん』の2冊がはじめてだ。
『3番地 フィーフィーのすてきな夏休み』
エミリー・ロッダ 作、さくまゆみこ 訳、たしろちさと 絵
あすなろ書房、2010年
ハツカネズミたちの町、ネコイラン町を舞台とする『チュウチュウ通りのゆかいななかまたち』シリーズは、全部で10冊。『10番地 スタンプに来た手紙』(2011年)のスタンプは、ゆうびんやさんだ。いつも、みんなに手紙を配達しているのに、自分ではもらったことがない。
『ねずみのアナトール』
タイタス さく、たがや たえこ やく、はまだ みちこ え
文研出版、1972年
全体は、「アナトール、工場(こうば)へ いく」と「アナトールと ロボット」の二部にわかれている。前半は、絵本のかたちの別の版でも刊行されている(『ねずみのとうさん アナトール』文 イブ・タイタス、絵 ポール・ガルドン、訳 晴海 耕平、童話館出版、1995年)。
プロフィール
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。