小田先生のさんすう力UP教室

論理の力を鍛えよう

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。

 こんにちは、豆腐が好きな小田です。昔、豆腐マスターを目指そうとした時期がほんの少しあったりもしたのですが、『豆腐百珍(江戸時代のレシピ本)』(の現代版)を買ってみて、その奥の深さに挫折しました。「結び豆腐」など、かなりの衝撃でした。
 さて、今回は論理の力を鍛える問題です。「論理の力」と言っても、それを構成している要素はいくつかあるのですが、そのうちの一つを鍛えるのが今回のテーマです。論理が苦手、という人も気軽にチャレンジしてみてください。
 それでは早速問題に行ってみましょう。

Stage28:論理の力を鍛えよう

 1円玉、5円玉、10円玉がそれぞれ1枚ずつあります。
 これらのお金のうち、一部、または全部を使って作ることのできる金額を、すべて答えてください。

指導のヒント

 まずは問題の意味を理解できているかどうか、確認してあげてください。理解ができていなさそうなら、「たとえば5円玉1枚で『5円』になったり、1円玉と10円玉で『11円』ができたりするよね」というふうに、具体例をいくつか提示してあげてください。
 問題の意味が分かっているようであれば、あとは好きに探させてあげましょう。
いくつか答えを出してきて、「これで全部」と言ってきた場合には、それで全部挙げられているかどうかに関係なく、まず一度「本当に他にない?」と聞いてみます。自信をもって「他にはない」と言い切るようでしたら、答え合わせをしてあげてください。答えが足りていなければ、「まだあるよ」と伝えます。
 何度か繰り返して、なかなか正解にたどりつけなさそうなときは、「あと何個あるよ」というヒントを出してあげてもかまいません。また、頭の中だけでイメージしづらそうであれば、実際の硬貨や玩具のコインを使って考えるのもいいでしょう。

解答

 1円、5円、6円、10円、11円、15円、16円 (全部で7種類)

さんすう力UPのポイント

 正直な話をすれば、低年齢のうちから「論理的思考力」を鍛えていく、というのは、少し無理があるのではないかと思っています。しかし、だからと言って何をしても無駄かというと、そういうわけではないでしょう。将来「論理的思考」に必要になってくる力を、部分的にそれぞれ育て始めることは可能です。たとえば、今回のテーマ「列挙する力」も、そういった“部分的な論理の力”の一つです。

 「論理的な思考」というと、「ここがこうだからこうなって~~」というような、根拠をもとに順序立てて詰めていく考え方をイメージする人も多いでしょう。しかし、とくに算数の世界の中では、「論理」はまた違った側面を見せてきます。
次のような“論理パズル”を考えてみてください。

 ある島には、正直村と嘘つき村、2つの村があります。正直村の住人は必ず正しいことを言い、嘘つき村の住人は、必ず間違ったことを言います。
 あるとき、島の外から来た旅人が、A、B 2人の住人に出会いました。その2人のうち、Aのほうが旅人に対して「私たちのうち、少なくともどちらかは嘘つきだ」と言いました。
 さて、このとき、A、Bはそれぞれ正直者でしょうか、嘘つきでしょうか。

 この問題を普通に考えると、次のようになるでしょう。

 もしAが嘘つきなら、Aの発言は「2人とも嘘つきではない」という意味になってしまうので、Aが嘘つきであることに矛盾する。よって、Aは正直者である。したがって、Aの発言内容は正しい、ということになり、Bが嘘つきとなる。

 いかにも「論理的思考」っぽい考え方ですね。しかしこの問題は、次のように考えたほうが考えやすいです。
 A、B2人について、正直者か嘘つきか、というのはたったの4パターンしかありません。それならば、すべての場合について、整合性がとれているか調べてみればいいのです。

こうして見ると、「Aが正直、Bが嘘つき」というのはすぐにわかりますね。 

 普段の生活では、「○だから□、□だから△」というふうに考えるのが普通かもしれません。しかし算数では、「○だから□、△、☆のうちのどれかで、□や☆は他の条件に合わないから△になる」というふうに考えます。そういった「論理的思考」ができるようになるためには、まず、「○のときに考えられる結論の候補」をすべて挙げる力が必要になってくるでしょう。その「列挙する力」を鍛えていこう、というのが、今回の問題のねらいでした。

もっと問題

 以下のお金のうち、一部、または全部を使って作ることのできる金額を、それぞれすべて答えてください。

 (1) 1円玉2枚、5円玉1枚、10円玉1枚
 (2) 1円玉2枚、5円玉2枚、10円玉1枚

  • 解答

 (1) 1円、2円、5円、6円、7円、10円、11円、12円、15円、16円、17円 (全部で11種類)
 (2) 1円、2円、5円、6円、7円、10円、11円、12円、15円、16円、17円、20円、21円、22円 (全部で14種類)


 いかがでしょうか。以前『本当はすごい小学算数』の中でも書いたのですが、論理の力は、結論を出すためだけの力ではなく、結論を“出さない”ための力でもあると思います。日常生活の中で「こうかもしれない」ということを考えすぎると、“優柔不断”になってしまい、逆に困る場面もあるでしょう。しかし、この種類の論理の力がまったく日常生活の役に立たないか、というと、そういうわけでもありません。サスペンスドラマで最後に犯人が「こうするしかなかったの!」と言ったとき、「いやいや、他にも道はあったでしょう」とツッコみたくなることもありますよね。狭まった視野を拡げ、「論理的に見えている」結論を保留し、よりよい結論の可能性を探る力もまた、「論理的な力」だと思うのです。

それではまた来月!

文:小田・敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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