『ミライの授業』で示す、輝く未来をつくる方法(前編)_2016.9

2016年9月2日

カテゴリー : 教育情報全般

『ミライの授業』

2016年7月、『ミライの授業』という1冊の本が出版されました。執筆したのは、投資家として活動する一方、客員准教授として京都大学で教鞭をとる瀧本哲史さん。この本では、明るい未来の展望を描くことが難しくなっている現代社会においても、歴史を見れば閉塞した状況を必ず打開することができる、そして、未来のつくり手として中学2年生が重要な役割を担う、と結論付けています。未来をつくれる人になるためには何が必要なのか?瀧本さんへのインタビューを前後編でお届けします。

 

このままでは間に合わない、という危機意識

 

── これまで一貫して大学生や若いビジネスマンを対象に本を書いてきた瀧本さんが今回、中学生向けに本を書こうと思ったのはどうしてですか?
2007年からこれまで、社会に旅立つ直前の大学生や、現場に足を踏み入れたばかりの若きビジネスマンたちに、新しい時代を生き抜くための考え方を身につけてもらおうと、講義や本を通じてその浸透に努めてきましたが、社会変化のスピードのほうが勝ってしまい、対症療法にしかなっていないように感じていました。
僕の講義や本に興味を持ってくれる人たちはみな、このままではいけないと感じている、問題意識の高い人たちです。新しい考え方の必要性を十二分に認識していて、早めの軌道修正を試みています。
しかし一方で、大学生や若いビジネスマンはこれまでの社会の価値観や考えに沿って、地道に努力してきた人たちでもあるわけです。その努力をスパッと手放し、新しい考え方に切り替えるのは、想像以上に難しいことなのでしょう。このままではいつまでたっても変化のスピードに追いつけません。
そこで、これまでとは違うアプローチが必要だと考えました。社会を根本的に変えていきたいのなら、もっと若い世代に向けて情報を発信していくべきなのでは?と発想の転換をしてみたのです。社会の価値観に絡めとられる前の若者であれば、新しい考え方やものの見方も受け入れてもらいやすいのではないかと思ったからです。  

『ミライの授業』発刊の経緯を語る瀧本哲史さん
『ミライの授業』発刊の経緯を語る瀧本哲史さん

── 生まれも育ちも21世紀の14歳、つまり中学2年生に注目したのはどうしてですか?
理由は2つあります。一つは、心も頭も柔軟な中学2年生くらいの年齢なら、『1冊の本との出会いで人生が変わる』こともあるだろうと思ったからです。もしかしたら『ミライの授業』が彼らの人生を変える1冊になれるかもしれない。その可能性に期待したのです。
もう一つは、『キミたちは“本当に”なんでもできる可能性を持っている存在なんだよ』ということ伝えたかったからです。世間では、思春期を迎えた子どもたちの『自分はやろうと思えばなんでもできる』という根拠のない自信や万能感を、『中二病』と言って揶揄します。でも、『中二病』、結構なことじゃないですか(笑)。長い人生から見れば、14歳なんてようやく自力で歩み始めた『可能性が無限大の、ゼロのような存在』です。これからいかようにも人生を変えていけるし、大化けすることだってあり得る。『やろうと思えばなんでもできる』というのは、思い込みや思い上がりではなく、紛れもない真実なんです。そして若い彼らは、古い常識になんかとらわれない。だからこそ、14歳、中学2年生をメインの読者に設定しました。

 

現在の先に未来があるわけではない、未来は自分たちでつくるもの

 

── 『ミライの授業』では「未来はあるものではなく、つくるものだ」とありますが、放っておいても時間の経過とともにやってくるのが未来というものではないですか?
社会は絶えず変化していますよね。日々、新しい技術や知見が生み出されて、もともとあったものはどんどん古くなっていく。これは、社会を根底で支えている制度やシステム、価値観についても同じことが言えて、既存のものは古くなり、やがて新しいものに取って替わられます。たとえば、戦後、長いこと日本社会を支えてきた『努力をして難関大学に入り、大企業に就職すれば、一生安泰』という人生の成功パターンは、いまやまったく通用しません。深刻化する高学歴ワーキングプアの問題や、一部大手企業の凋落ぶりなどを見れば、それは誰の目にも明らかです。過去と現在は、同一線上にはないのです。これは現在と未来についても同じです。現在の延長線上に未来があるわけではありません。絶えず変化する現在が、新しい未来をつくり出すのです。
そこで僕は提案したいのです。『それならば自分たちの希望する未来をつくってしまえ!』。そんな雲をつかむようなこと…と思うかもしれませんが、『ミライの授業』を読んでもらえば、そんなに荒唐無稽な話ではないことをわかってもらえるはずです。

中学生にこそ、先行きの不安感が強い現代社会の意識を変えていってほしい

大胆不敵に再編集した人物伝から、未来をつくる法則を導き出そう

 

── 『ミライの授業』を執筆するに当たって、どのような点に気をつけましたか?
この本は、中学生でも抵抗なく読めるよう、みんなにとって馴染みのある『偉人伝』というフォーマットを使っています。でも、そこに書かれている内容は、これまでの『偉人伝』とはまったく違います。みんなが知っている『偉人伝』は、『一生懸命がんばったから報われました』といった内容のものが多いですよね。なぜなら、一昔前の社会全体がそのような風潮で、その風潮に合わせて『偉人伝』のストーリーを構成していたからです。
でも、今の社会はそうじゃない。一生懸命にがんばるから報われる、といった時代は、残念ながら終わったのです。ようするに、よくある『偉人伝』の成功パターンが、今の社会ではまったく通用しなくなってしまった。それならば、まずはお手本から変えていかなければなりませんよね。
そこで、『ミライの授業』では、努力をもとにしたサクセスストーリーとは違う形の『偉人伝』を書きました。紹介する人物は、アイザック・ニュートンなどみなさんおなじみの偉人から、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智さんといった最近話題になった著名人まで、19名をセレクトしました。彼らの生き方・考え方を具体例として挙げたうえで、そこから『未来をつくる5つの法則』を導き出しています。本の中で取り上げているエピソードも、『未来をつくり出す』という観点から選んだもの。図書館に並んでいる『偉人伝』とは、一味も二味も違ったものになっていますよ。  

『ミライの授業』では、過去を振り返ることで未来へのヒントを示している
『ミライの授業』では、過去を振り返ることで未来へのヒントを示している

  瀧本哲史さんの著書『ミライの授業』   

プロフィール 瀧本哲史(たきもと・てつふみ)
京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授。東京大学法学部卒業後、同大学助手を経て、マッキンゼー&カンパニーに入社。おもにエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事。独立後は、企業再生やエンジェル投資家として活動しながら、京都大学で教鞭をとる。全日本ディベート連盟代表理事、全国教室ディベート連盟事務局長。『僕は君たちに武器を配りたい』『君に友だちはいらない』(ともに講談社)のほか、『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』(ともに星海社新書)といった著書がある。

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