「化学」2019年度東京大学個別試験分析

分析速報

■分量と難度の変化(理科…時間:2科目150分) 
・大幅に易化した2017年度を基点に,年々少しずつ難化している。それでも,2016年以前の東大化学に比べれば平易な小問が多く含まれていた。
・2016年度までは大問3問とも2つの中問があり実質6題だったが,2017年度以降は中問に分かれていない大問が含まれており,2017年度は実質5題,2018年度は実質4題の出題であった。2019年度は第1問のみが中問に分かれていなかったが,小問数が多かったため,全部で実質5題分以上の分量があった。小問数でみると,2017年度の24問を底として,2018年度29問,2019年度32問と増加傾向にあり,実質6題構成であった2016年度以前の分量に近づいてきている。

■今年度入試の特記事項
・出題順は,2017年度以降,第1問:有機,第2問:無機,第3問:理論 で定着してきている(2016年度以前は,第1問:理論,第2問:理論・無機,第3問:有機,の順)。
・第1問のみ中問に分かれていなかった。ただし第1問の小問数は多く,合計で実質5題分以上の分量があった。
・論述問題はいずれも文字数指定がない形式が定着しつつある。
・近年,計算しやすい値の計算問題が多かったが,今年度は煩雑な計算を必要とする問題も多くみられた。
・東大で頻出の,化学平衡や気体からの出題がなかった。

■合否の分かれ目
・ここ2年で難度が上がってきているとはいえ,依然として東大としては平易な問題も多く,合格には高得点が必要になると考えられる。小問数が多いので,解ける問題を優先して解き,得点をしっかりと確保することが重要だっただろう。
・いずれの中問にも煩雑な計算を要する問題や難度の高い論述問題が含まれていたため,丁寧に全問を解答するより,時間をかけずに手際よく解き進めていく力が必要。試験時間に対して分量は多いため,できるだけたくさんの問題に正解することが高得点につながる。
・論述問題には文字数指定はないため,必要なポイントを押さえて的確に論述できたかどうかで差がついただろう。

 

■大問別ポイント
 第1問  
<有機> フェノールの反応
中問には分かれていないが,実験1~実験8と,実験9~11の2部に分かれている。前半は,反応に用いる芳香族化合物だけではなく,作用させる試薬も伏せられており,全貌を把握できないと難度が高く感じられそうである。やや手間のかかるク,論述問題のを正解できたかどうかで差がついたと考えられる。
・実験中に起きている反応を追うことができれば,ア~エの構造式,の試薬名は得点できるが,全貌がつかめないと一気に点数を落としてしまうだろう。
で取り上げているDは不斉炭素原子をもたないが,環状化合物であり立体異性体が存在する。
は論述問題であるが,比較的記述しやすい内容である。
は,簡単に解答できそうに見える割には間違いやすいポイントがいくつかあり,正解しにくい。
の論述は,短く記述するのが難しい。

 第2問  
I <理論・無機> リンの化合物・電池
リンを題材に,化合物の構造や反応,電池反応などについて問われた。やや計算が煩雑な問があるが,平易な小問が中心であり,東大受験生であれば得点源にしたい問題である。
の各化学反応式は,問題文の条件に従えば導ける。平易。
は,頭の体操によいだろう。受験化学に必要な知識だけを使って解けるように工夫されている。
のイオン反応式は平易。ここで係数などをミスするとに影響する。
エ,オは,燃料電池の効率について考える問題。計算にやや手間がかかるため,後回しにするのが得策であろう。

II <無機> 金属イオンの反応
黄銅鉱の製錬を題材として,金属イオンの性質を中心に問われた。比較的取り組みやすい問が多い
カ,ク,ケは平易。は論述を含むが,記述しやすい内容である。
・コは,難解ではないが係数に注意して立式する必要がある。
・サは,考え方はそれほど難しくないが計算がやや煩雑である。これも後回しにするのが得策であろう。

 第3問 
I <理論> 酸化還元
チオ硫酸ナトリウムを用いたヨウ素滴定の問題である。小問を解き進めるにつれて少しずつ難度が上がっていく構成である。最後のオは,実験誤差に関する問題で,思考力が必要である。
ア,イは,時間をかけずに正解したい。
ウ,エでは,水溶液の希釈や一部採取のプロセスを見落とさないように計算する必要がある。
は,論述問題を含んでいる。実験誤差を小さくするためにはどのようにすればよいかを思考する問題で,難度が高い。

II <理論> 結晶
ペロブスカイト型結晶構造に関する問題。Iと同様,小問を解き進めるにつれて少しずつ難度が上がっていく構成である。
カ~ケは,問われ方がややこしいところもあるが,おおむね平易である。
は,多少数値計算が必要だが,正解したいところである。
サ,シは,イオンの価数とイオン半径から結晶の安定性を推察する問題。ある程度勘が必要である。

 

 

 

攻略のためのアドバイス

2017年度年度以降,見慣れない題材について長いリード文を読むような問題は出題されなくなっているが,高校化学で扱わない内容を考察する問題は,また少しずつ姿を見せ始めている。出題傾向の変化に関わらず,必要とされる力そのものに大きな変化はないだろう。基本的な事項を,暗記するだけではなく深く理解しておくことはもちろん,例年どおりの難度の高い応用問題が出題されても対応できるだけの十分な力をつけておくべきである。

東大化学を攻略するには、次の3つの要素を満たすことをめざそう。
●要求1● 難問に対応する思考力と応用力
東大化学では,高校で学習する内容をそのままあてはめるだけの問題も出題されるが,合否の決め手となるのは,高校範囲の知識を応用させて考える問題である。よって,基礎力の確立と,それを柔軟に使いこなせる思考力,応用力の養成が求められる。全分野において法則を正しく使いこなせるようになるのが第一である。

●要求2● 長い問題文を短時間で読み解く読解力
東大化学では,実験操作などに関する長い問題文を読み,題意を読み取り解答する問題が出題される。限られた時間の中で問題文を読みこなし,正確に理解する力が要求される。見慣れない題材・実験にも臆さないよう,他大学の過去問(京大・阪大といった難関大)にも目を向けて演習しておくとよい。

●要求3● 計算問題の解答時間を短縮する計算力
煩雑な計算問題がよく出題される東大化学では,計算力を身につけることが必須である。ふだんの問題演習では,電卓を使用したり,頭の中だけで考えたりするのではなく,実際に手を動かして計算し,計算自体に早いうちからしっかり慣れておこう。
まずは,高校化学の内容を完全に理解することから始めよう。高校化学の内容で曖昧な部分があると,●要求1●を満たすことはできない。近年の東大化学では,応用問題を解くうえで前提となる標準的な内容を確実に押さえることが,よりいっそう求められている。また,有機の「高分子化合物」の単元は対策が遅れがちなので,とくに意識して取り組んでおきたい。Z会の通信教育やZ会の本『化学 解法の焦点』などを利用して,基本的な各単元の理解を確認しながら学習を進めよう。
高校化学全般の内容を理解したら,次に●要求1●を満たすために,高校範囲の内容を応用させて考える問題に取り組んでみよう。このタイプの問題は問題文が長いことが多いため,並行して●要求2●を満たしていくこともできる。Z会の通信教育でも,さまざまなタイプの添削問題を通して,演習を積んでいく。
演習を順調にこなしていけるようであれば,●要求3●もある程度は満たされていくであろう。自分の得意不得意,問題の難易度などを意識し,解答時間内で得点を最大化できるような自分の解き方を身につけてほしい。

 

▼「東大コース」化学担当者からのメッセージ
今年の東大化学は,2018年度に続いて奇抜な題材はなく,東大受験生であれば見覚えのある題材が中心でした。ただし,問題の分量が2016年以前の水準に戻りつつあり,またどの中問にも手間のかかる計算問題や難度の高い論述問題が含まれていたため,かつてのように「解かない問題を見抜く力」も必要なセットだったといえると思います。
したがって,まずは標準的な問題は確実に正解したうえで,差がつく問題をできるだけ多く正解して,高得点をめざしたいところです。分量は多いので,解く問題に優先順位をつけ,試験時間内にすばやく処理する力が求められるでしょう。
また,高校化学で扱わない内容について考察する問題も,また少しずつ出題されるようになってきています。日頃の演習や過去問演習をとおして,通り一遍の学習をするのではなく,「これはなぜ? 何のために行っている?」ということを常に考えながら学習を進めていくとよいと思います。Z会の通信教育講座では,このような盲点になりがちな箇所を突く出題をしていきます。東大受験を目指す方には,表面的な理解にとどまらない,本当の学力を身につけていただきたいと思います。

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