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変化の激しい社会を生き抜く力を育てるには――小学生の今、親にできること(2)

情報化、科学技術の発展、グローバル化など、変化のスピードが加速している時代。子どもたちが一人前の社会人として生きていく未来を見据えたとき、どのような力が必要となるのでしょうか。その力を育てるために、保護者には何ができるのでしょうか。今月は、企業や組織における学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究されており、小学生の子をもつ父親でもある中原淳先生(東京大学 准教授)に、「これからの社会」で求められる力とその育て方についてうかがいました。
【文・尾内通子】

これからの社会を生き抜くためにできること

――これからの社会を生き抜く子どもを育てるために、家庭でできることがあればぜひご紹介ください。
  
粘り強く思考したり、他者と協働したり、ゼロからイチを生み出したりする経験を、大人になってからではなくもっと前倒して子どもに獲得させるべきだということは先ほど述べました。どんな小さなことでもよいので、家庭で、親と子どもが一緒にそうした課題やプロジェクトに取り組む機会をもてるといいですね。

――親も学ぶということですか?
 
そうです。子どもは親の背中を見ています。親も子どもとともに解決の困難な課題にぶつかって、ウンウンと唸ってみてください。そういう親の後ろ姿を子どもは見ているとぼくは思います。ぜひ一緒に取り組んでみてください。そして、世の中には、解決のつかない問題があるということ、他の人との協働によって解決できるということを教えてあげるのが大事だと思います。

手前味噌になりますが、うちの子どもは、少し前から、プログラミングに凝っています。文部科学省の「プログラミン」というサイトや、マサチューセッツ工科大学で開発された「Scratch」という無料のソフトウェアを使っているのですが、なかなか、これが、親子で愉しめるんですね。たとえば「海をバックグラウンドにして、鯨が主人公のゲームをつくってみよう」という課題を親子でやったりしています。ぼく自身も、なかなかうまくいかず、あーだこーだいいながらやっています。

友だちとの遊びがリーダーシップを学ぶ機会に

――ほかにはどんな工夫がありますか?
 
部活や委員会活動など集団の中でうまくいかないことがあってお子さんが悩んでいたら、それは子どもに、リーダーシップを教える機会にもなります。自分の息子の例で申し訳ないのですが、息子が小3のとき、友だちにある遊びを提案したところ、受け入れてもらえず、納得がいかない様子だったので、一緒にその原因を考えてみたことがありました(笑)。

これは実際、リーダーシップの課題そのものなのです。たとえば、提案が受け入れられない原因としてはおもに2つの要因が考えられるんですね。1つはそもそもみんなが受け入れられるような提案をしていない、つまり、「ビジョン構築」の問題なんです。もう1つは自分の声がみんなに届いていない。これは巻き込み力の不足、「ネットワーク構築」の問題です。

息子に「どこに原因があったと思う?」と聞いたら、最初のビジョン構築、つまり提案の内容に問題があったと言うんです。よく聞くと、その前の日にさんざん遊んだのと同じ遊びをやろうと提案したらしく、違う遊びがしたいと却下されたらしいのです。そこで、「提案をするなら、みんなが一緒にワクワクできるようなものを提案しないとダメだよな、おまえがやりたいだけのものを提案しても、受け入れられないんだよ」と話したわけなんですが(笑)、これって、立派なリーダーシップ開発になっているのがわかりますか?

――企業の管理職研修みたいですね。
 
考え方は同じです。子どもが友だちと関わるときに、どういう行動をとるのがいいかを考えさせるだけで、それはリーダーシップ開発になるんですよ。だからあまり難しく考えずに、日常のやりとりをちょっと工夫してみることから始めるとよいと思います。

たとえば、わたしは定期的に、高校生向けにワークショップを開催しています。ワークショップでは、チームを編成して、リーダー役やフォロワー役など役割分担をし、疑似組織を作って、実際に課題を遂行してもらうんですね。その際、現実の世界と同じように、環境変化を体験してもらい、今社会で起こっていることを疑似体験できるようになっています。加えて、自分自身が組織の中でうまく振る舞うことができるのか、組織の中で自分をいかすことができるかを確認してもらい、自分に足りないものを見つけてもらうようにもしています。

学校の成績がよくても、組織に上手に乗っかっていけないと知力をいかすことはできませんからね。要するに、大切なことは社会に出る前になるべく他者と協働する体験をたくさんもてるようにすることなのです。

――そこまでやらなくてはならないの?と思う保護者もいると思うのですが、やはり、これも時代の変化なのでしょうか。
  
保護者世代が子どものころは、今よりもずっと、遊びの中でさまざまな年代や地域の人たちと交流する機会があって、自然とリーダーシップ開発や集団での問題解決を経験として積めるようになっていました。ところが今はゲームが遊びの中心になり、遊び自体が「孤」になってしまって、遊びを通して集団行動の経験値を上げることができなくなっています。その一方で社会はますます複雑化し、一筋縄ではいかない問題ばかりになり、集団で知恵をしぼる必要が出てきている。つまり二重の意味で経験学習の重要性が高まり、意識的に取り組まなくてならなくなっているんです。

リーダーシップは、実際にリーダーシップをとる機会がなければ身につけることはできませんし、新しく物事を作っていく力も、物事を生み出そうと四苦八苦する経験をすることでしか獲得できません。”脳がちぎれるほど”考えて、他者と考えをぶつけ合い、その中で新たな答えをつくり出していくという経験を、早い時期からもてるように関わっていくことが今の親に求められていることなのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

*本記事は、2016年1月に中学生向けコースの保護者向けサイトに掲載した記事に、一部加筆・修正を行ったものです。

プロフィール

中原  淳 (なかはら・じゅん)

1975年北海道旭川市生まれ。東京大学 大学総合教育研究センター准教授。東京大学大学院学際情報学府 (兼任)。東京大学教養学部学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。『働く大人のための「学び」の教科書』(かんき出版)、『育児は仕事の役に立つ 「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ』(光文社新書・共著)など著書多数。2児の父でもある。

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