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絵本作家 スギヤマカナヨさん(2)
2018.3.8
5.5K
『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(アリス館)、『おかあさんはおこりんぼうせいじん』(PHP研究所)、『おかあさん、すごい!』(赤ちゃんとママ社)など、ユーモアあふれる絵本を多数生み出していらっしゃるスギヤマさん。絵本づくりのみならず子ども向けのワークショップなどにも精力的に取り組むスギヤマさんの思いや、2児の母としてのご自身の子育ての経験談、世の中のお母さんへのエールなどをうかがいました。
(取材・文=浅田 夕香)
ワークショップを通して芽生えた思い
――ワークショップを始めて、スギヤマさんの中で何か変化はありましたか?
「子どもたちを応援したい」という気持ちが強まりましたね。というのは、ワークショップは公立小学校に呼ばれて実施することが多いんですが、長年続けていると、いろいろな子どもたちに出会うんです。たとえば、好きなことや夢を親御さんに否定され続けている子や、何か心の引っかかりをうまく伝えられないでいる子。
先生がショックを受けるほど辛辣な意見をワークシートにぶつけてくる子もいます。
そのような子どもたちに接して、「なぜそうなったのか?」「この子たちを応援していく方法はないのだろうか?」などと考えていくうちに「自分にできる形で応援していきたい」という気持ちが自然と出てきました。
――応援するとはどんなふうに?
一つは、子どもたちのどんな考えも、まずは「あり」と肯定して受け止めることですね。それがないと、うまくコミュニケーションをとることも、信頼関係を築くことも難しい。
たとえば、わたしの著書の『おかあさんはおこりんぼうせいじん』(PHP研究所)を使った小学4年生向けのワークショップを開いたときには、子どもたちにこんな投げかけをするんです。
「『おこりんぼうせいじん』はわたしなんです。きっとみんなの中にもいい宇宙人や困った宇宙人がいるはずなので、その宇宙人について探索レポートを書きましょう」と。
すると、「朝寝坊星人」「意地っ張り星人」「めんどくさがり星人」など、自分の困ったところを見つけつつも肯定しながら書いてくれるんですね。もちろん、「書けずに迷っているなら『迷い迷い星人』でもいい」とも伝えています。
この問いかけのねらいは、「自分と向き合ってみる」ということ。自分のよくないところを知らないのと知っているのとでは、全然違いますよね。探索レポートを書き終えたあと、子どもたちにはこう話します。
「いい宇宙人がいれば困った宇宙人もいるよね。けど、だからといって困った宇宙人は直してくださいという意味じゃないですよ」と。
――どういうことでしょうか?
大事なことは、自分の中にそういう宇宙人がいることを知ること。「知っていれば、必殺技を考えたり、進化させることもできる」「わがまま星人はいつか意思を貫く星人になるかもしれないし、ゆっくり星人は物事を慎重に進める星人になるかもしれない。自分を知っているということはとても大事だし、それはみんなの個性だ」と話します。
わたしには、大人たち一人ひとりが自分にできる形で少しずつ子どもたちを応援していけば、生きづらさを感じている子どもたちのささやかな支えになるんじゃないかという思いがあるんです。わたしにできることは限られていますが、絵本とワークショップという手段で子どもたちを応援していきたいです。
子どもが安心して頼れる保護者であるために
――たくさんの子どもたちに接してこられ、ご自身も育児をされているご経験から、子どもへの接し方について、保護者の方にアドバイスをいただけますか?
子どもにとって保護者は「見てるよ、気づいてるよ、だいじょうぶ」と言ってくれる存在であることが大事なんじゃないかと思います。子どもたちからの「何があってもお母さんやお父さんだったらだいじょうぶ」という信頼を裏切らないでおきたいということは、わたし自身、心がけています。
そのために大事なことの一つが、「気づく」ということなのかなと思います。子どもたちがことばを使えるようになると、わたしたち大人はことばに頼りがちになりますよね。でも、もとをたどると、赤ちゃんのときは、親は皆、五感すべてを使って赤ちゃんのことをわかろうとし、コミュニケーションをとっていたんですよ。
たとえば、階段を上がってくる「トントントン」という音に耳を澄まして「今日はちょっと元気がないかもな」と気づくとか、五感を使って子どもたちのことを感じることを忘れないこと。それが、ちょっとした気づきにもつながっていくこともあるんじゃないかと思います。
スギヤマさんの子育てのマイルール
――――スギヤマさんご自身は、子育てをしていく上で大事にしていたことや、マイルールにしていたことはありますか?
うーん、わたしは結構いい加減にやってきてるんで……(笑)。ただ、夫婦で一緒に子育てをしていくことは大事にしていますね。不満があれば夫に伝え、情報共有や役割分担をしながら一緒に子育てをしてきたという感覚はあります。
また、自分自身の言動について、親としてというよりも一人の人間として見て、「それはどうなの?」という問いかけは常にしています。「本当に子どもが悪くて怒った? 自分の気分の問題じゃない?」と自分に問いかけ、必要なときは謝ったり、「ここは訂正しなきゃまずいな」ということは訂正したり。
あとは、子どもたちに対して「大好き」という気持ちはことばにして何度でも言っていますね。「なんでそんなにかわいいんだ」って。子どもたちにとっても、愛されているということは何度確認してもいいことなんじゃないかと思いますね。息子の名前を呼ぶと「また『かわいいな』って言うんでしょ?」と返されるくらいです。
――――素敵ですね。それでは最後に、スギヤマさんの原動力とは何でしょうか?
家族ですね。
絵本づくりは孤独な作業です。自分の心の中の深く、遠いところまで行って表現を作っていく。その孤独な作業を安心してやれるのは、家族という唯一無二の存在があるからこそだと思います。戻る場所があるからこそ、安心して一人になれるというか。家族あってのわたしだなということはつくづく思います。世の中の子どもたちやお母さんを「応援したい」という思いで絵本づくりやワークショップに取り組めるのも、家族あってのことですね。
――――ありがとうございました。
ワークショップを見学しました!
スギヤマさんが旅行バッグに入れたものは、毎日の生活に欠かせないもののほかに本や旅の記録ノートも!
子どもたちも、自分が旅に何を持って行きたいか考え、自分のバッグを完成させます。
自分の旅行バッグを持って体育館に用意されたさまざまなコーナーを回っている子どもたちは、本当の海外旅行を楽しんでいるかのようで、笑顔でいっぱいでした。最後に子どもたちが訪れたのは、今住んでいる場所でした。大人になって世界中どこにいても、みんなにはいつでも「おかえりなさい」と迎えてくれるところがあるんだよ、そんなメッセージもこめられているのかなと思いました。子どもたちはこの擬似旅行で何を感じたでしょうか? 数年後、今度は本当の自分のバッグを持って旅立つ、その日が待ち遠しくなるようなワークショップでした。(編集部 M)
プロフィール
絵本作家
スギヤマカナヨさん (Kanayo Sugiyama)
静岡県生まれ。東京学芸大学初等科美術卒業。大学の卒業制作作品が『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)として出版されたことをきっかけに絵本作家に。『ペンギンの本』(講談社)で講談社出版文化賞受賞。赤ちゃんから幼児、小学生まで、幅広い層に向けてユーモアあふれる作品を多数生み出している。近著に『ようこそ!へんてこ小学校』(角川書店)、『ゆうびん・手紙のひみつをたんけん!』(偕成社)など。小学時代には犬に関することなら何でも書き込む「犬ノート」を作り、高校時代まで警察犬訓練士を夢見ていたほど犬が好き。2児の母。