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絵本作家 スギヤマカナヨさん(1)
2018.3.8
9.6K
『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(アリス館)、『おかあさんはおこりんぼうせいじん』(PHP研究所)、『おかあさん、すごい!』(赤ちゃんとママ社)など、ユーモアあふれる絵本を多数生み出していらっしゃるスギヤマさん。絵本づくりのみならず子ども向けのワークショップなどにも精力的に取り組むスギヤマさんの思いや、2児の母としてのご自身の子育ての経験談、世の中のお母さんへのエールなどをうかがいました。
(取材・文=浅田 夕香)
わたしの原動力 |
家族。その唯一無二の存在があるからこそ |
警察犬訓練士の夢から一転、絵本の道へ
――高校時代までは警察犬訓練士を夢見ていらしたとのこと。どのような経緯で絵の道に進まれたのでしょうか?
犬が大好きで、高校卒業後は警察犬訓練士を目ざすつもりでいました。ただ、親からも先生からも「いったん大学に入ってから決めても遅くないんじゃない?」と言われて、それもそうだなと。訓練士になれる大学や学部があるわけではないので、好きな「絵を描くこと」を学ぼうと、進路調査票に「芸大」と書いたら先生に呼び出されたんです。「美術部の子だって難しいのに、中高と剣道部だった人が何言ってんの」と。そこで「名前が芸大に似ていて、美術も学べるから」と紹介された東京学芸大の美術教員養成課程に進学しました。
――そこからどのようにして絵本作家に?
卒業制作作品が出版されることになったんです。当時は、東京・銀座の文房具店・伊東屋さんが美大や美術系専門学校の代表学生の卒業制作作品を展示する機会を作ってくださっていて。わたしの作品も展示していただいたところ、フリーランスの出版プロデューサーだというアメリカ人と日本人の方に「本にしませんか?」と声をかけられました。彼らが出版社に持ち込んだ結果、『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)として出版されることが社会人1年目の秋に決まったんです。
――いったん、就職はされていたんですか?
作ったもので誰かが喜んでくれる仕事をしたくて、文具会社に就職していました。でも、出版が決まり、ほかに書籍や雑誌の挿絵の仕事などもいただくようになったので、1年目を終えずにフリーランスに転身しました。漠然と絵を描く仕事をしてみたいなという気持ちはありましたが、はからずして絵本制作の道に進むことになりましたね。
作品の中で新しい挑戦を
――赤ちゃんから幼児、小学生まで、幅広い年齢層に向けて絵本を作られていますが、どんなふうにしてテーマを決めていらっしゃるんですか?
出版社が提案したり、編集者との打ち合わせでアイデアが出てきて、そこから話が進んだりといろいろですね。2017年に出した『ようこそ! へんてこ小学校』(角川書店)では、「小学校低学年向けの読み物を」との依頼を受けて初めて読み物に挑戦しました。チョキくんという男の子が、先生もクラスメイトも全員おにぎりという「べんとう小学校」に転校する、80ページ、オールカラーの読み物です。
そこで一つ、新しい挑戦をしました。それは、「学びを立体的につくる」ということを本の中で実践することです。一つのものごとをいろいろな教科の視点から立体的に学ぶことで、ぱっと視界が広がることってあると思うんです。この本では、「おにぎり」を国語、算数、理科、社会など各教科の視点から見るという形でやってみました。
たとえば、「米」という漢字の成り立ちを紹介したり、稲穂1本あたりのもみの数をクイズにして出したり……。そうやっていろいろな教科を行き来しながら「おにぎり」や「お米」について立体的に見ていくとで、一人ひとり興味を持ったところから知識が頭に入り、心も頭も使う学びになると思うんですよね。
――作品ごとに何かメッセージを込めて作っていらっしゃるのでしょうか?
子どもたちにはなるべく自由に受け止めてもらいたいので、メッセージを込めることはそれほど意識していません。ただ、お母さんたちにエールを送りたいという思いで作った作品はあります。『おかあさん、すごい』『あかちゃんはおかあさんとこうしておはなししています』(赤ちゃんとママ社)などがそうですね。
わたしも高2の娘と小4の息子がいますが、子育てって、やっぱり大変でしょう? かわいいばかりじゃなくて、「しんどーい!」と思うこともあるじゃないですか。それでもやっぱり「お母さんって、いいもんだ」と思えるよう、「極力楽しくやっていこう!」「みんな、一緒に頑張っていこう!」と互いに肩を叩き合うようなメッセージを込めています。
母校からの依頼で始めた小・中学校でのワークショップ
――――絵本づくりのかたわら、幼稚園や小・中学校、地域でのワークショップにも取り組んでいらっしゃいます。どのような思いで取り組まれていらっしゃるのですか?
もともとは母校の小学校から打診を受けて始めたのがきっかけで、10年ほど経ちますが、今、一番のねらいにしているのは、子どもたちにさまざまな視点を持ってもらうということですね。今まで一つの見方しかないと思っていたものごとについて、「こうともとれるし」「そうともいえる」と多角的な視点を得ることで、嫌なことやつらいことがあっても、そのことだけにとらわれずに、やりすごせるのではないかと思うのです。鉄のような壁を作ってバンッと跳ね返すのではなく、一旦受け止めてからボヨンと跳ね返す、ゴムのようなしなやかな心を作っていくことにつながればいいな、と思います。
子どもたちの感想の中に、「今まで考えてみたことがないようなことを考えて楽しかった」とあると、「してやったり!」と思いますね。
「さぽナビ」編集部もスギヤマさんのワークショップを見学しました!
訪れた小学校のワークショップでは、小学6年生たちが数カ月かけて自分の行きたい国を調べて、きれいにまとめてありました。いよいよワークショップ当日、子どもたちは目ざす国に向けて旅立ちます。
旅行に行く前に何をする?
バッグの中には何を詰める?
模擬的な世界旅行をとおして、子どもたちは自分自身の心の奥にある「やってみたいこと」「好きなこと」を発見し、世界の国々や自分の未来に対して想像をめぐらせます。
プロフィール
絵本作家
スギヤマカナヨさん (Kanayo Sugiyama)
静岡県生まれ。東京学芸大学初等科美術卒業。大学の卒業制作作品が『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)として出版されたことをきっかけに絵本作家に。『ペンギンの本』(講談社)で講談社出版文化賞受賞。赤ちゃんから幼児、小学生まで、幅広い層に向けてユーモアあふれる作品を多数生み出している。近著に『ようこそ!へんてこ小学校』(角川書店)、『ゆうびん・手紙のひみつをたんけん!』(偕成社)など。小学時代には犬に関することなら何でも書き込む「犬ノート」を作り、高校時代まで警察犬訓練士を夢見ていたほど犬が好き。2児の母。