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料理研究家 枝元 なほみさん(1)

身近な食材を使ったつくりやすく、おいしい料理や、自由な発想から生まれた意外性のある料理など、さまざまなレシピを提案し、テレビや雑誌で活躍されている枝元なほみさん。大学では英文学を学び、劇団の役者兼まかない担当、無国籍レストランのシェフを経て、料理を仕事にして約30年。絶えることなくレシピを生み出されている原動力や、食べることの喜び・大切さなどについてお話をうかがいました。
(取材・文=浅田 夕香)

わたしの原動力

いろんな台所にいる人たちとつながって、
一緒に生きていきたい。よく食べ、よく笑い、
よく生きていくためのレシピを提案したい。

「なんで?」としつこく考えることが新しいレシピにつながる

――料理番組や雑誌の料理コーナーの企画では、毎回何十品ものレシピを考え、調理されるとうかがいました。それだけ多くのレシピを生み出す発想は、どこからくるものなのでしょうか?

しつこく考えるからじゃないかな。わたしって、作った料理がおいしければ、「なんでおいしいんだろう?」、失敗したら「なんで失敗したんだろう?」としつこく考えるんです。「こうすればもっとおいしくなりそうだな」とか、本当にいろいろ考えます。

たとえばここ数年、毎年塩レモンを大ビンで2つ作っていて。塩レモンって、しばらく前に流行して、今は少し下火みたい? はやりものって、みんな時間が経つと終わりにしちゃう。でも、わたしはそこからがしつこくて。レモンの産地や塩の種類、ビンの形状の違いなどで味にどう違いが出るかを考えながら毎年作ってるんです。

そういえば、先日ある企画で塩レモンを使った料理を試していたときに、「ガリガリ君塩レモン味」というアイデアを思いついたんですよ。その数日前に行った仙台でのイベントで子どもたちと食べたアイスの「ガリガリ君」のおいしさが頭の中に残っていて、それと塩レモンがつながって。すると次は、どんなふうにすれば「ガリガリ君塩レモン味」になるか考え始めちゃって。内側のザクザクした氷の粒のところどころにほんの少し塩レモンを刻んだものを入れて、外側はレモンシャーベットにして、そこにも少し塩を入れて…とイメージが湧いてきた。その日のうちに赤城乳業さんに電話しなかったことを後悔しています(笑)。電話すればよかったですね。本気で思いました!

――経験と経験がつながったんですね。

そう。毎日料理を作っているからというのも大きいかな。料理を作って、「おいしかったな」「自分、できるじゃん!」「なんで失敗したんだろう」など、いろんな感情が生まれてひっかかりを感じたときに記憶として残り、ふとしたときにほかの何かとつながってレシピが降ってくる。

枝元さんが漬け込み中の塩レモン。

じゃあ、なんで毎日料理を作り続けられるかというと、楽しいからなんだよね。「おいしい」「楽しい」といったよい感情が自分の中に残っているから、次またやろうと思える。「ガリガリ君塩レモン味」って思いついたときも、「いいこと考えた!すごいぞわたし!」と自分で自分をすごく褒めました。料理は、楽しいと思えればどんどんできるようになっていくんですよ。

もちろん、思いついただけではどうにもならなくて、思いついたことを具体化していくことも大事です。ガリガリ君塩レモン味も、その場にいた人たちが次にうちに来てくれる日までに作ってみたいと思います。

――失敗されることもあるんですか?

いくらでも失敗しますよ。失敗して、「なんで失敗したんだろう?」としつこく考えることの繰り返しです。わたしは料理学校に通ったことがないから、すごく失敗が多い。でもそれでよかったなと思うのは、正解を教わってないからこそ、好きに試すことができるんです。学校に行くと、「こうすれば失敗しない」という正解だけを学びますよね。だから、正解以外のところにはみ出せない。でも、わたしは正解は知らないけれど失敗を重ねて「これをやれば失敗する」ということだけはよくわかっているから、そこを押さえておけば、あとは好きに試すことができる。だから料理の仕事を続けられたんだろうなと思います。

いろんな人の台所で作ってもらえるレシピを提案したい

――レシピを考えるうえでこだわっていらっしゃることはありますか?

レシピを見てくれる人の姿を想像することかな。どんな台所で、どんな暮らしをしているのかなど。わたしの仕事は編集者からのオーダーがあって成り立っているものだけど、そのオーダーだけに忠実に従っていたら、続けてこられなかった気がするんです。オーダーをふまえつつ、どんな暮らしをしている人にどういうふうに届けたいかというところまで考えてレシピを提案してきたから、これまでやってこれたのかなあと。

 

――そうされるようになったのは、何かきっかけがあるのでしょうか?

芝居をしていたとき、演出家の方がたびたび「客をばかにするな」とおっしゃっていて。「見えにくければ見えにくいほど、人は目をこらす。だから、ばかにするんじゃない」と言われたことが骨身にしみているんです。だからわたしは、「こんな料理も、あんな料理もできます」というだけじゃなくて、いろんな人の台所で作ってもらえて、作った人自身が「わたしって意外と料理うまいわ」と思ってもらえるようなレシピを作りたい。

たとえば、「手早く作れる料理」というオーダーがあったなら、なんで急いでつくりたいのかな? そういう望みをもっている人たちの冷蔵庫にはどんな食材があるかな? 子どもが小さいとしたら、どのくらいの予算で食材を買うかな? スーパーのどの棚あたりを見てるかな?とか、想像してレシピを考えます。

――だからこそ、作りやすいレシピが生まれるんですね。

料理なんて食べてなんぼだから。わたしは、いろんな台所にいる人とつながりたい。一緒に生きていきたいなあって思う。「外に食べに行くより作っちゃったほうが簡単だ」と思えるような料理を提案して、そのレシピを見て作った人が「今日も頑張れた」と思えるような、みんながよく食べ、よく笑い、よく生きていける。そういう料理を提案していきたいと思っています。

⇒次のページに続く 枝元さんの小学生時代と、子どもたちの食についての考えをお聞きします!

プロフィール

料理研究家

枝元 なほみ さん (Nahomi Edamoto)

神奈川県生まれ。明治大学文学部卒業。卒業後、26歳で劇団「転形劇場」の研究生となるとともに、無国籍レストランにシェフとして勤務。劇団では、スタジオ併設のロビーで提供する料理や、海外公演でのまかないなども担当した。1987年、女性週刊誌の料理コーナーで料理家としてデビュー。以来、テレビ、雑誌などで活躍中。『エダモンの今日から子どもおかず名人』(白泉社)、『おかん飯』シリーズ(毎日新聞社、西原理恵子さんと共著)、『取り分けスタイルで超簡単!大皿おかずの本』(枻出版社)など著書多数。

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