小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

解き方は自由である

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどく、かつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、「日本・100名城」のスタンプを集めている小田です。先日城の日(4月6日)、なんと100名城の続編として「続・日本100名城」のスタンプラリーも始まりました。100名城のスタンプさえ、まだ20も集まっていないので、全部で200個集めるとなるとコンプリートはまたずいぶん先の話になりそうです。まあ生きているうちに集まればいいかな、ということで気長にいきたいと思います。老後の楽しみも増えた、ということで。

 さて、今回は“解き方”についてのお悩みです。「算数は答えが合うだけではダメだ、解き方も大事だ」という話はよく聞きますが、実際にお子さまの学習を見ていると、本当にこの“解き方”でいいのだろうか、と不安になることはよくありますよね。今回は、そんなお悩みに答えていきたいと思います。

 それでは早速行ってみましょう。

お悩み2:解き方は自由である

文章題で、式の丸つけをするとき、解答に書かれた式と少しでも違うと、○か×か悩んでしまいます。答えが正しければいいのですか? 解答に書かれた式を子どもに教えたほうがいいのですか?

(小4保護者)

さんすう力UPのポイント

「正しい解き方」は、一つとは限らない

 冒頭でも書いたように、「算数は答えが合うだけではダメだ、解き方も大事だ」という話はよく聞きますね。しかしこれは、まちがいではないにしても、少し気をつけて受け取らなければいけない言葉でもあります。

 端的に言えば、算数の問題を解くとき、「正しい解き方」と「正しくない解き方」は確かにあるでしょう。しかし、その「正しい解き方」というのは、“唯一の正解”があるわけではありません。つまり、解答に書かれている“解き方”が唯一“正しい解き方”というわけではなく、解答に書かれているものと違うから×、ということでもないのです。

 それでは、「正しい解き方」と「正しくない解き方」を、どこで判断すればいいのでしょうか。それは、算数のルールに沿っているかどうか、つまり「論理的に正しいかどうか」です。

 次のお悩みも見てみましょう。

たとえば下のような問題で、式が違っていても、答えが合っていればいいのでしょうか?
「家から学校までの道はまっすぐで、その間にコンビニと本屋さんがあり、家、コンビニ、本屋さん、学校の順にならんでいます。家から本屋さんまでは260m、コンビニから学校までは380m、家から学校までは520mです。コンビニから本屋さんまでは何mですか。」

(小3保護者)

 少し話はそれますが、個人的には「解き方を書く」ことを「式を書く」と表現することは、あまりいいことだとは思っていません。「式」は、「解き方」を表現するための、手段の一つでしかないからです。このあたりは、いずれ別の回にでもしっかりお伝えしたいと思いますが、今回の問題であれば、「式を書く」よりも、以下のような図を書くことがまず大事です。

 図をかいたにしろかかないにしろ、このような位置関係が把握できていれば、あとはどのように解いても正解でしょう。たとえば、家からコンビニまでの距離が520-380=140(m)だから、コンビニから本屋さんまでは260-140=120(m)としてもよいですし、同じように本屋さんから学校までの距離を出してから、それを380mから引いてもかまいません。うまい解き方としては、380+260-520=120(m)というように、260mと380mの「重なり」として求める方法もありますね。いずれの方法も、論理的なまちがいはありませんので、「正しい解き方」です。

 一方で「正しくない解き方」というのは、たとえば、「520-380=160(m)、260-160=120(m)」というように、計算を2回まちがえて、たまたま正解してしまったというような場合です。1回だけまちがったのであれば、答えが合うことはめったにありませんが、2回以上まちがうと答えだけは合ってしまうことがある(俗に言う“あるある”ですが)、というのは算数の怖いところです。ほかにも、「コンビニから学校までの380m」から「家から本屋までの260m」を引いて「380-260=120(m)」とした場合も「正しくない解き方」ですね。今回の問題ではたまたま答えは合ってしまいますが、この問題の条件である「位置関係」を正確に把握できていないので、やはり「正しく解けた」とは言いがたいでしょう。

 要するに、論理的に正しくなければそれは「正しくない解き方」であり、逆に論理的に正しければ、どんな解き方でも「正しい解き方」ということなのです。たとえ“模範解答”と違っていても、「論理的に正しく解けている」と判断できれば、大きく○をつけてあげてください。

子どもの解答が論理的に正しいかどうかを確かめるには

 さて、じゃあ“模範解答”と違っても論理的に正しければ○をあげよう、と思ったとき、次に気になるのはやはり「実際に子どもが書いた“解き方”が、本当に論理的に正しいのかどうか」ですよね。それを判断するためにいちばん重要なことは、しっかりと子どもの話を聞くことです。

 先にも書きましたが、「式」は解き方の一部でしかありません。そこに書かれたことだけで、「子どもが考えていることが正しいかどうか」を判断する、というのは、無理のある話でしょう。だからまず、子どもに「どういうふうに考えたの?」と聞いてみてあげてください。

 もちろん、子どもが自分の考えをスムーズに説明できるとは限りません。子どもは子どもなりに一生懸命考えていたとしても、それを表現するのが下手なことは多いです。子どもがうまく解き方を説明できないからといって、「正しく考えられていない」わけではありません。それも踏まえて、まずは子どもの話を聞く、というのが大事なのです。

 そうして、子どもの考えていることを可能なかぎり聞き取って、それでもどう解いたかわからないとき、もしくは、子どもの考えていることはわかったけど、それが論理的に正しいかわからないとき、そういうときは、「とりあえず○にしておく」のがいいでしょう。子どもに納得のできる形で“論理的なまちがい”を提示できないときは、「とりあえず○」にするのです。

「根本的に理解する」ことを目ざすよりも「自分なりの理解」をもつことが大切

文章題の式を立てるときに、それらしい答えが出るように計算をしているだけで、根本的に理解ができているのか疑問です(とくに割合や単位量あたり)。根本的に理解しているかどうか確認する方法ってありますか? 仮に理解していなかった場合、どうしたらいいですか。親もそんなに算数が得意ではないので、うまく説明できるか不安です……。

(小5保護者)

 正しいかどうかわからなかったらとりあえず○、というと、本当にそんなのでいいの、と不安になる方も多いでしょう。こちらのようなお悩みもいただきましたが、要するに「“きちんと”理解できてないと先に進んだときに困るかも」ということですね。そのご心配も、至極もっともです。

 しかし、誤解を恐れずに言えば、実は算数・数学の学習において、「“きちんと”理解する」必要はまったくありません。なぜなら、「正しく理解する」「根本的に理解する」というのは、そもそも不可能なことだからです。

 算数・数学はとても奥が深く、「1たす1が2になる」という、一見すると簡単に見えるようなことでさえ、掘り下げればたくさんの“わからない”ことを見つけることができます。その意味で、「根本的にわかった」ように見える理解は、実はただの「わかったつもり」でしかありません。学習を進めていくと、遅かれ早かれその理解が通用しない世界にぶつかるでしょう。そこで「わかったつもり」に気づけなければ、人はそこから先を「自分では進んでいけない世界」だと思ってしまうのです。つまり、人が数学の学習をやめてしまう最大の原因は、その「わかっていたはず」という思い込みだ、と言うことができるでしょう。

 算数・数学を学習していくうえで、大事なことはまず「自分なりの理解」をもつことと、それを適宜修正していく姿勢をもつことです。だからこそ、「“きちんとした”理解」を得られるまで足止めさせるのではなく、その子なりの足場が作れているようであれば、遠慮なく○をあげればいいのです。

 もちろん、現在の学習内容について、すでにある程度足場が固められているようならば、さらに理解を深めるよう促していくことは大事です。その際は、少し条件を変えた問題を解いてみたり、あるいは自分で問題を作ってみたりすると、とてもいい勉強になるでしょう。

いろんなアプローチをもっていると、臨機応変な対応が可能

現在小6ですが、すでに中学で習う解法を子どもが独学で勉強しています。そのためか、独自の解法で問題を解く傾向にあり、オーソドックスな解法を使おうとしません。今はそれでもよいのですが、将来的に数学が苦手になる可能性もあるのではないかと心配です。どうすればオーソドックスな解法を使うように意識づけられるか教えてほしいです。

(小6保護者)

 最後にこちらのお悩みです。先のことを独学で勉強して、さらにそれに基づいて自分なりの解法で問題を解ける、というのはとても素晴らしいことですね。その姿勢があるかぎり、将来的に数学が苦手になることはあり得ない(ので、大丈夫ですよ)、というのはまずお伝えしておきたいところです。

 それはそれとして、子どもが「正しい解き方」では一応解けているときに、その先の指導をどうするか、という話ですね。これについては、「いろんな解き方ができるほうがいい」ということは、ぜひ伝えてあげてほしいな、とは思います。目の前の問題を解くだけであれば、解けてそれでおしまい、でもいいのですが、少し条件が変わると同じようには解けない、ということが、算数・数学ではよくあります。そのため、いろんなアプローチをもっておいて、その場その場で問題に応じて解き方を使い分けていく、というのも、重要な姿勢です(まあ、この場合も、条件を変えた問題を自分で解いてみたり作ってみたりするのが、いちばんいい学習方法ではあるのですが)。

 もちろん、最終的にどの解き方を選ぶか、というのは、本人の自由です。とくに、小学校レベルでの“オーソドックス”な解法、というのは、多くの場合「限定された場面でしか使えない」、いわば使い勝手の悪い解法でもあるので、本人が中学で習う“より一般的な解法”を使いこなせていて、そちらのほうが使いやすい、と感じているようであれば、わざわざ“オーソドックス”な(だけの)解法を無理強いする必要はありません。

 いずれにしても、問題をどう解くか、というのは、解く人の自由です。自分なりにいろいろと考えてみて、その結果として答えが合う・合わないを繰り返しながら、「論理のルール」の線引きを自分なりに体得していく、というのが算数・数学の学習を進めていくのにひとつ重要なポイントになります。


 いかがでしょうか。

 いよいよ新学期が始まって、新しい学年がスタートしましたね。数理学習研究所は、受験指導もある程度していますが、本来は“算数・数学を勉強するところ”であるため、中学受験を終えても、引き続き“数学”を勉強しに来てくれる子が多いです。そうすると、付き合いの長い子も結構いるのですが、そういう子たちがいつのまにか大きくなっていくのを見るのは、とても楽しいですね。昔は正直「この子本当に大丈夫かな」と思っていた子でも、大きくなるにつれて立派にしっかりしていきますので、世のなかの保護者の皆さまも、安心してお子さまを見守っていただければ大丈夫ですよ。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

 

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