小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

ミスは減らせるか

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、この秋は健康的に過ごせたらいいな、と思っている小田です。この夏、暑さで寝苦しくて夜中に目が覚めてしまうことが多かったこともあり、睡眠時間が結構不規則になっている気がします。あとは、布団に入ってからタブレットを使って電子書籍で読書をしていたりするのも、たぶんよくない気がします。そのあたり、いろいろと気をつけて、良質な睡眠時間を確保したいところです。
 さて、今回は「ミス」についてのお悩みです。ミスを減らしたい、減らしてほしい、というのは、誰でも一度は思うことでしょう。一方で、これをこうしたからミスが激減した、とはなかなかならないのも、現実として感じていると思います。今回は、そのあたりの“お悩み”に応えていけたらな、と思います。
 それでは早速行ってみましょう。

お悩み8:ミスは減らせるか

わたしの子どもは算数はわりと得意な方なんですが、ケアレスミスをよくします。たとえば、問題の読み飛ばし、単純な計算間違い、単位の付け忘れ、小数点の位置見誤りなどです。時間が足らないわけではなく、「一応見直しはしている」と言いますが、詰めが甘いです。ひっかけ問題などには、めったにひっかかりません。難しい問題は、解き方を理解していても「わかった!」と思った瞬間に間違ったりするようです。どうすればケアレスミスが減るでしょうか。 

(小6保護者)

さんすう力UPのポイント

ミスをする自分と向き合う

 いきなりそもそも論から入りますが、そもそも、ミスをする最大の原因は何だと思いますか。
 こういうふうに聞くと、「集中力が足りていないから」とか、「性格的にそうだから」とか、いろいろと思い浮かぶかもしれません。しかし、それらは“ミス”に関する表面的なテーマであり、根本的な「ミスの原因」は、たった一つ、もっと違ったところにあります。
 なぜミスをしてしまうのか。それは、わたしたちが「人間だから」です。もう少し親切に言えば、「人間は機械ではないから」ということでしょうか。人間は機械と違って、同じことを毎回同じようにやるようにはできていません。同じことをやるにしても、その都度細かい状況を判断しながら行動を起こしています。それはそれである面では機械より優れているところでもあるのですが、一方で、ふだんできるようなことでも時に失敗してしまう、というリスクがあります。ミス、というのは、人間が人間である以上、完全に避けて通ることはできないのです。
 この「人間はミスをするものである」という大前提に立たなければ、“ミス”に関する議論はすべて無意味になってしまうでしょう。たとえば、もしまったく逆の「ミスはなくてあたりまえ」という視点に立ってしまうと、「ミスから目を背ける」ということにしかなりません。ミスを周りから責められたり、「自分はミスなんかしない」と思い込んだりしてしまうと、「ミスをしてしまう自分」とのギャップに苦しむことになります。「ミスをなくす」というのは人間には不可能なことである以上、向かう先は、ミスを認めなかったり、隠ぺいしたり、という道しかありません。そうやって「ミスをする自分」から目を背けてしまうと、もちろんミスは減りません。ごまかし方だけがうまくなる一方です(このあたりは、大人でも同じですよね)。
 「ミスを減らす」ための第一歩は、まず本人が、そして周りも、「人間なのだから、ある程度ミスをするのはあたりまえ」という視点に立ち、「ミスをする(人間としての)自分」と向き合うことだ、と言えるでしょう。

ミスを減らすために必要なのは、具体的な“技術”

 「ミスを減らす」ためにもう一つ重要な視点として、「ミスを減らす、というのは、技術的なものであって、精神的なものではない」ということも挙げられます。ミスをしてしまったあと、「もっと集中しよう」「次からは気をつけよう」と思うかもしれません。しかし、よくよく考えてみてください。ミスをしたときは、本当に「集中していなかった」のでしょうか。「気をつけていなかった」のでしょうか。多くの場合、そんなことはないでしょう。集中していても、気をつけていても、ミスをするときにはミスをしてしまう、というのが、“ミス”の厄介なところなのです。
 「集中しよう」「気をつけよう」と思うだけでは、ミスは減りません。ミスを減らすために必要なのは、具体的な“技術”です。その意味では、「性格的にミスをしやすい」というのも、あまり正しいとは言えません。もちろん、性格的にうっかりしやすい人というのは確かにいますが、それを技術によってカバーすることは可能です。むしろ、もともとうっかりしやすい人のほうが、ミスを防ぐ技術の習得に対して真剣に取り組めて、逆にミスを出しにくくなる、ということもよくあるのです。

ミスの種類を分析する

 人間はミスをするものであり、それを防ぐには技術を習得しなければいけない、ということを納得できれば、ようやくその技術を具体的に習得していく段階に入ります。この段階でまず必要なことは、やはり「ミスの種類を分析すること」でしょう。たとえば、「問題文を読みとばす」というのは、「問題を読む技術が足りていない」ということですし、「小数点の位置の見誤り」は「数の大きさに対するイメージの弱さ」が原因であることが多いです。一口に「単純な計算ミス」と言っても、一桁の足し算引き算が不安定なのか、繰り上がり・繰り下がりでまちがえるのか、九九があいまいなのか、十進法(数字の構造)の理解がまだ弱いのか、というように、さまざまな種類のミスがあり、それによって“習得するべき技術”も違ってきます。そこを見極めていく、というのがミスを減らしていく上では重要でしょう。厳しい言い方かもしれませんが、「ケアレスミス」という種類のミスは、基本的に存在しません。逆に言えば、さまざまな種類のミスを「ケアレスミス」とひとくくりにしてしまうからこそ、なかなか“ミスを減らす技術”を習得できない、という面もあるのです。

問題を解くスピードをコントロールする

 もうひとつ、ミスを減らす技術として重要なものは、スピードのコントロールです。問題文を読む速度から、考える速度、計算する速度などを全部ひっくるめて、「問題を解くスピード」をうまくコントロールするのです。これは単純に、スピードを上げればミスが増え、スピードを落とすとミスが減る、ということではありません。それぞれの段階に応じて、最適なスピードがあり、そのスピードより速すぎても遅すぎても、ミスは出やすくなってしまうのです。ちょうど、車の運転を思い浮かべるといいかもしれません。スピードを出しすぎても事故の確率は上がりますが、一方で、スピードを出さな過ぎてもやはり事故の確率は上がってしまうでしょう。その「最適なスピード」を自覚し、意識してそのスピードをコントロールできるようになれば、ミスを減らすことができるようになります。
 ただもちろん、これは簡単なことではありません。「最適なスピード」というのは、人によって違いますし、「何をやるか」によっても違います。ふだんの学習から、「何をするときには、どれくらいのスピードだとミスが出にくいのか」を意識し、スピードを出せるところと出さないほうがいいところを把握し、実際に問題を解いていく中で、メリハリをつけてスピードをコントロールする、というトレーニングが必要になるでしょう。

ミスを減らす技術の習得には、本人の強い意志が前提となる

 いずれにしても、“ミスを減らす技術”を習得するためには、本人の強い意志が前提です。そういうふうに言うと、先ほどお伝えした「ミスは精神的なものではない」という話と矛盾するように聞こえるかもしれません。「ミスが減らない子は意思が足りていない」というふうにも聞こえるかもしれません。しかし、わたしが言いたいことは、そういうことではありません。
 ミスを減らす技術の習得は、とても厳しい道のりになります。ミスの分析にしてもスピードのコントロールの習得にしても、その過程はとても地味で、しかもその地味なトレーニングを積み重ねたとしても、その効果が目に見えにくいです(「3回に1回」ミスしていたのが「4回に1回」に減った、となっても、なかなか実感ができないでしょう)。
 まともにやれば心が折れそうな作業でもあるのですが、よくよく冷静に考えてみたとき、ふだんのテストや勉強の中で、そこまでして「どうしても1点でも多く取りたい」「どうしてもこの問題に正解したい」と思う場面が、実際にどれくらい存在するでしょうか。学校のテストくらいで、もしくは、宿題で問題集の問題を解いているくらいでは、そこまで本気になれないのが普通ではないでしょうか(もちろん、ふだんのテストや勉強であっても、「どうしても正解したい」と思う子もいないではないですが、かなり珍しい存在でしょう。余談ではありますが、そういう子は算数オリンピックなどのような「競技としての算数」に向いています)。
 その意味では、受験などの本当に差し迫った目的がない限りは、「ミスを減らすのは根本的に難しい」というのが、身もふたもない結論です。
 大事なことは、ミスに対してあまりシビアになりすぎないことでしょう。「人間はミスをするもの」というのを認めることが第一で、ミスを減らすことに対するポジティブなモチベーションを少しでも持ってもらうことがその次です。ミスを責めるのではなく、「ミスを減らせばもっと点数が取れるのに、もったいないね」というような声掛けをしていくのがいいでしょう。そうやって、ミスから逃げずに向き合える下地を作りながら、受験などで「どうしてもミスを出したくない」と本人が思うタイミングをひたすら待つ、というのが、遠回りのように見えて実は「ミスを減らす」ためのいちばんの近道なのです。


  いかがでしょうか。
  今年も、例年参加している数学の大会に参加してきました。3年目にしてようやくチームを組めたのですが、チームを組めたからと言って簡単に勝てるほど、世の中そんなに甘くありませんでした。本記事で散々偉そうなことを書いておいて何なのですが、ミスが多かった、というのが敗因の一つとしてあるでしょう。やはり“現役”だった受験生のころと比べると、技術的な部分がずいぶん鈍ってしまっているように感じます。来年に向けて、鍛えなおしていきたいところですね。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

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文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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