ブックトーク

『ヘルガの持参金』 

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

待ってるだけじゃない?! ヒロインだって行動する『ヘルガの持参金』

トミー・デ・パオラ作/ゆあさ ふみえ訳/ほるぷ出版/本体価格1,500円(税別)

 「白雪姫」も「眠り姫」も、そして「シンデレラ」も、みな生まれつきたぐいまれな美しさを備えていて、その美しさの前では、もはや本人の思慮分別など不要なのでしょう。彼女たちは、その身に課せられた運命に翻弄されることはあっても、自らの行動力で未来を切り拓(ひら)いたりはしないのです。なにしろ、「眠り姫」なぞは、眠りについたまま、本人は何もせず幸せを手に入れた(と語られている)のですから、怠け者のわたしとしてはうらやましい限りです。

 『ヘルガの持参金』は、そんなおとぎ話の筋を踏襲しつつ、しかしひと味違った展開です。もちろん、結末は、主人公と王様の結婚という至極まっとうなハッピーエンド。舞台はトロールの世界ですが、主人公のヘルガは「このあたりじゃ、だれよりもきりょうのよいトロール」として登場しています。そして、おとぎ話のお姫さまが生まれつき悲運を背負っているのと同様に、この尻尾のはえた小太りの主人公も、身寄りをもたず、貧しい暮らしを強いられていました。「花よめが持参金をもっていくのは、トロールのきまり」なのに、それが用意できないヘルガは、ハンサムなラースと結婚することができないのです。これがほかのヒロインだったら、泣き濡(そぼ)つ彼女のそばに魔法使いや妖精が現れ、“おまえは心根がよい娘だから”という理由で主人公をサポートするでしょうが、この物語はそううまくはいきません。ましてや、ヘルガはめそめそ泣いたりしないのです。

「ふん! なぜ このあたしが こんなところにすわりこんで、ふくれっつらしてなくちゃならないのさ? あたしは いちにんまえのトロールだし、しかも なかまうちじゃ ちょいとしたものよ。さっそくでかけてって、じぶんで持参金ぐらい かせいでみせるわ」

 ここからのヘルガの活躍は、まさに破竹の勢い。体力知力ともにフル回転で商売に励みます。美しいけれど貧乏なヘルガ、恋のライバルとなるインジは、大変な富豪の娘ですが、残念なことに「おへちゃ」でした。ヘルガと結婚するはずだったラースは、インジの持参金に目がくらんでやすやすと心変わりしながら、ヘルガがたいそうなお金を手にしたと聞けば、大慌てでヘルガに求婚するあきれた男です。そんな登場人物たちが織りなす物語は、ドタバタ劇の様相を呈しながら進行しますが、絵を丹念に観察すると、大団円に向かってある伏線が描きこまれているのにも気づくでしょう。ロマンティックな要素はほとんどなくとも、これは、副題のとおり、正真正銘「愛のものがたり」。幼い人には勇気を与え、大人にとっては寓話(ぐうわ)的な側面ももっているかもしれません。“自分らしく生きる”ことがもてはやされる昨今。ヘルガが幸せを掴(つか)んだのは、しかし、彼女が“自分らしく”生きたからではなく、ただひたすら一生懸命に生きたからではなかったか、と思うのです。

『にんじんケーキ』[改訂版]

ナニー・ホグローギアン作/乾 侑美子訳/評論社/本体価格1,300円(税別)

 さて、たいていのおとぎ話は、“こうして二人はいつまでも幸せに暮らしました”と結ばれますが、はたしてその後どうなっていくのか。結婚に関するお話をもう一つ紹介します。『にんじんケーキ』は、ハネムーンから帰宅したばかりの若夫婦(うさぎですが……)のお話です。かみあわない二人の会話――思い通りの相槌(あいづち)を求めるだんなさんと、その一方的な要求を何も考えず受け容(い)れるおくさんの姿――には苦笑してしまいます。野の花で画面を飾った愛らしい絵本ですが、イソップのそれに似た風諭的な読了感もあり、大人の読者にこそすすめたい一冊です。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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