ブックトーク

『おもしろ荘のリサベット』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

一本気で逞しい姉妹のお話『おもしろ荘のリサベット』

アストリッド・リンドグレーン作/石井 登志子訳/イロン・ヴィークランド絵/岩波書店/本体価格1,600円(税別)※版元品切れ重版未定

『長くつ下のピッピ』や『やかましむらの子どもたち』の作者、リンドグレーンの作品です。マディケンとリサベットという姉妹の日常を描いた『おもしろ荘の子どもたち』の中の一編“鼻にエンドウ豆を押しこんだリサベット”にカラーの挿絵を加えて一冊にしたものですが、初めてこの本で姉妹と出会う読者も、きっとすぐに彼女たちに親しみを覚えるでしょう。大人が考えもつかないことを平然とやってのける二人(とその仲間たち)。イロン・ヴィークランドの挿絵も、登場人物の健気さを明るく伝えています。

題名のとおり、主人公は「リサベット」なのでしょうが、彼女の姉「マディケン」の無敵な頼もしさが私には印象的でした。妹のリサベットが急場に臨んだと知るや否や、「スズメバチが巣からとびたつようないきおいで、ドアからとびだして」いく勇ましい姉マディケン。けんかを売られればすぐに飛びつくし、その上、めっぽう強いのです。

マディケンがおこると、しかもすぐにおこりだすのですが、自分でもなにをしているのか、よくわからなくなります。
―中略―
けんかをしないでと、おかあさんはいつもいっているのですが、けんかのまえにそんな注意を思いだすひまなんてありません。

しかし、組み合って格闘した相手の少女ミイアの口から「あくまの子!」という暴言が飛び出したとき、マディケンは、ミイアが「かわいそうに」なって、彼女をつかんでいた手を思わず緩めてしまいます。「あくま」などとののしれば、その当人が地獄へ落ちるからです。一瞬の相手の隙を、地面に押さえつけられていたミイアが逃すはずがありません。たちまちミイアは、マディケンの鼻をめがけて「げんこつを一発おみまい」するのでしたが……。
感じやすさと真っ直ぐな逞しさを兼ね備えた女の子マディケンは、魅力的な女の子です。もともとは、自分の鼻の穴にエンドウ豆を押しこんで取り出せなくなったリサベット(お話冒頭のこの騒動もなかなかに愉快です)を連れて、医者へ行く途中だったのでしたし、先にけんかを始めたのもリサベットでした。その相手は、ミイアの妹のマティス。結局、妹同士のいさかいが、それを看過できない姉たちを巻き込んだのでした。いいえ、もちろん、マディケンもミイアも率先して踊り込んだのですけれど。

リサベットにはリサベットの、マディケンにはマディケンの、そして、詳細は語られないものの、けんか相手の姉妹ミイアとマティスにだって、それぞれが信じる世界があり、それらは、成長とともに静かに膨らんでいるのでしょう。リンドグレーンの作品では、新しいものに触れた時の子どもたちのわくわくした気持ちが、間断なく描かれます。彼らが、幼いからこそ無為に保持できる、思いやりや想像力という素朴なアビリティー。頭と心を健やかに働かせて、とにかく前を向こうとする幼い人たちを、危なげないその筆で作家は爽快に語ります。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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