ブックトーク

『ロージーちゃんのひみつ』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

何にだってなれるよ、想像のなかでならね。

モーリス・センダック 作・絵/中村妙子 訳/偕成社

『かいじゅうたちのいるところ』でも、『まよなかのだいどころ』でも、センダックは幼い人たちを最強な存在として描いています。彼らが最強、つまり無敵なのは、彼らが何も持っていないからです。実体験は未だ僅か。だから反省やしがらみから離れていられます。とくに、“想像力”を身につけた子どものエネルギーは盤石で、その堂々たる挙動には見惚れてしまうこともしばしばです。

センダックの作品では、時間も空間も自在に飛び越えて、くるくると舞うように生きることを楽しむ子どもたちの姿が見られます。前述の二冊はファンタジーですが、この『ロージーちゃんのひみつ』の舞台は現実世界。だからこそ想像力が際立ち、自らの“最強の”時代を謳歌(おうか)する幼い人たちのたくましさは鮮やかに目に焼きつけられるのでしょう。

原題は“THE SIGN ON ROSIE’S DOOR”。“SIGN”とは、ある日ふいにロージーの家の玄関にかけられた《ひみつを おしえてほしい ひとは、この とを 三ど たたくこと》と書かれた札です。遊びに来たキャシーが、その言葉どおりに「トン トン トン!」ドアをノックすると、ドアを開けたのはもちろんロージーでした。でも、「あたしね、もう ロージーじゃないの。ひみつってそのことよ」とロージー。「じゃあ あなた だあれ?」とキャシーが問えば、「アリンダって いう、すてきな かしゅよ」とロージーは応えます。すぐさま自分も「だれか」になってみたくなったキャシーでしたが、だれになるかは、すぐに決まりました。ロージーが決めたのです。「そうね――、じゃあ あなた、チャチャルーになるといいわ。アラビアの おどりこよ。」

大人が読めば、その延々と続く“ごっこ遊び”に少々げんなりするでしょうか。でも、ここに描かれる子どもたち――主人公のロージーやキャシー、パッジ―やレニー――は、まじりっけなし等身大の子どもたちです。舞台はニューヨークの下町、主人公を“ちゃん”づけした『ロージーちゃんのひみつ』という邦題さえ、少々まどろこしく感じてしまうほど、彼らは開放的です。わたしは、先日、学校帰りの小学生が同級生(らしい友人)に向かって、「さては、おれさまが何をやっても半人前だということをさとったようだな、わははは」と大声で叫んでいるのを見かけ、なんと奇妙でエキサイティングな幼い人たちの遊びの世界よ、と感心しました。その前後のいきさつを知りたくなったのは言うまでもありません。内容が何であれ、宣言してしまえば演説になるし、落ちている棒きれ一本を何にだって変えられる子どもたち。センダックは、ブルックリンの自宅の窓から通りで遊ぶ子どもたちを眺め、その様子をこの物語として描いたそうですが、なにより、子どもたちのタフで柔軟な心身が、そこに偽りのないことを体現しているかのようではありませんか。

このすがすがしいブルーの表紙をみるたびに、どんな(荒唐無稽な)願いだってかなえられた万能感を思い出します。そして、空想と現実をあいまいにする頑健な想像力に羨望するのです。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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