●プロフィール
先生の研究テーマを、高校生にもわかりやすく教えていただけますか?
■先生
私の専門は、社会的選択理論と厚生経済学です。この2つは密接に関係している分野なのですが、大きく言うと、社会的に何かを決めることに伴うさまざまな問題を研究する分野です。例えば、消費税を上げるべきか、都知事を誰にするか、年金制度をどうするか、地球環境問題をどうするか、オリンピック開催地をどこにするかなど、社会的に決めていかなければならない問題はたくさんありますよね。それらを決める時に、どのような評価軸で判断するべきか、また、人々のさまざまな意見をどのようにまとめればよいのか、そういった問題を研究する分野です。大きく3つの論点がありますので、簡単に説明しましょう。
1つ目は、望ましい社会とは何だろうという「基準」や「規範」を考えること。経済が問題になっているのならば、望ましい社会のためのあるべき経済システムとは何か、を考える必要があります。
私は、経済というのは、人の幸せを高めるためのシステムだと思います。人は、一人ではできないことを協力し合うことで達成し、その成果を分配することができます。もともと狩猟や農耕で生活をしていた時代から、社会(人の集団)が形成されたのはそういう目的があったからだと考えています。経済という言葉からは「お金」や「株」が連想されますが、それは、経済のシステムの中でいちばん表面に出てくる部分であって、もともとはこのように、人を幸せにするためのシステムであるわけです。ですから、社会が望ましいかどうかを考える時には、そもそもの目的は何かという観点から、そのシステムを評価するにはどうしたらいいかと考えていきます。
その評価の「基準」なり「規範」を研究するのが、厚生経済学と社会的選択理論という学問なのですね。
■先生
そういうことです。
2つ目に考えないといけないのが、何が望ましいのかは、人によって意見が対立することが大いにあり得るということ。「経済とは何か」についても、私と異なる意見の方もいるかもしれません。また例えば、高福祉高負担が良いと思っている人もいれば、小さな政府で福祉は最低限でいいと思っている人もいます。さまざまな意見対立がある場合に、どうやって社会的に決めていくか。異なる意見を集約して1つの社会的な判断を形成していくシステムとルールを考える必要があります。
3つ目に、個人の情報は操作可能だという問題があります。例えば、選挙で誰に当選してほしいかという意見は、個人の情報です。自分はAという候補がいちばん良いと思うけれども、A候補はとても勝ち目がないという話を聞いて、勝てそうなBという候補に投票する。これも一種の情報の操作です。そうすると、人々の本当の評価が社会に反映されないことになってしまうので、望ましいことではありません。真の評価で良い社会状態を作るためには、Aが良いと思うならAと、誰もが自発的に本当の情報を伝えるようなメカニズムを作らないといけません。この3点目はインセンティブの問題と言いまして、経済学の中では、今非常に広がりを持っている分野です。
都築さんのお仕事の内容を教えてください。
■卒業生
私は、地方公務員として東京都に勤務しており、福祉保健局という、医療・保健分野、福祉分野と多岐にわたる仕事をしている部署にいます。医療制度のあり方の検討、救急医療体制の仕組み作りのほか、インフルエンザの予防をどうすればいいかという情報を発信したり、予防のために行政として何ができるかを考えたりします。福祉分野では、待機児童対策や高齢者の住まい整備などに取り組んでいます。このように生活に密着した問題を扱っているのが福祉保健局です。
私はその中で、総務部総務課の広報係を担当しています。「広報」という名前ですが、業務としては広報と広聴の大きく2つの業務があります。
広報の部分では、東京都として取り組んでいる、医療助成や子育て支援などの制度を利用いただけるよう、広報誌やTwitterなどのソーシャルメディアも利用して、しっかり情報をお伝えしています。他方で、発信ばかりですと、受け手側がどんなことを求めているかがわからず独りよがりになってしまいます。都民の方がどんな情報を望んでいるか、何に困っているのかという声を伺う広聴もとても大切な仕事なのです。
都築さんの大学時代の研究テーマは何だったのでしょうか?
■卒業生
卒業論文では、障害者雇用を経済学的に分析しました。福祉保健局は、障害者の分野にも関わりを持っていますので、とても関連のある進路を歩んでいることになりますね。
田中さんの研究テーマについて教えてください。
■大学生
卒業論文では、バブル経済の理論に関する研究をしています。
僕自身が経済に興味を持ったのは、中学生くらいの頃でした。ずっと不思議だなと思っていたのが、例えば、千円札で千円の商品が買えます。でも、実際に千円札という紙切れにはおそらく実質的に千円の価値はありません。それでも、商品と紙切れは交換することができます。つまり、物の価値と流通している価格には乖離が発生している、ということをなんとなく感じていて、その乖離を埋めるには、何かロジックがあるんだろうと、中学生ながらに考えをめぐらせていました。
すごい中学生ですね。
■大学生
その頃は、不思議に思っていただけでしたけど、高校生になってもやっぱり同じように興味が続いていたので、大学で経済学を勉強してみようと思いました。大学でいろいろ勉強していく中で、バブルという現象が自分の興味のあるところに近い、不思議な感覚を現実的に表現しているような現象だと知ることができたので、卒業論文ではそのテーマで研究してみようと思いました。
早い段階で卒業論文に取り組めて、先生にも指導いただけるゼミということで、蓼沼先生のゼミを希望しました。
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