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CONTENTS

●プロフィール    ●大学生活について     ●就職活動、仕事について
●5年後に向けて    ●高校生へのアドバイス
 


●大学生活について




一橋大学における経済学部の位置づけを教えていただけますか?


先生
一橋大学はもともと東京商科大学として出発した、商学と経済学を中心とした大学です。もちろん、それだけではなく、哲学、法学、社会学、歴史学などを含めた総合的な社会科学の大学となっていますが、経済学部は、創立以来の中心的な学部として位置づけられています。
大学の中だけではありません。都留重人先生や中山伊知郎先生は、戦後復興に中心的な役割を果たし、その後も、経済政策の策定などに関わってきました。石弘光元学長は、私の指導教員でしたが、税調(政府税制調査会)会長を長く務められ、日本の税制改革に尽くされています。日本の経済においても、重要な役割を果たしてきた大学であると思っています。

他大学の経済学部とは違った特長などはありますか?


先生
一橋大学には、体系的なカリキュラムと、ゼミ制度、学部と大学院が一貫しているという3つの特長があります。
まずはカリキュラムですが、学部1年生から大学院の修士課程まで、一貫したプログラムになっており、それぞれの科目に100番台から500番台までの番号が振られています。100番台が入門科目、200番台が基礎科目、300番台が学部の発展科目、400番台が大学院の基礎科目、500番台が大学院の発展科目にナンバリングされています。欧米の大学ではわりと一般的に行われてきたことですが、日本の大学、特に経済学部で導入したのは、本学が初めてだと思います。番号によってレベルがはっきりしているので、学生は自分の関心に従って、勉強を深めていくことができます。学部生であっても、400番台という大学院の講義を取ることができます。
田中君は今4年生ですが、「5年一貫教育システム」を使って、修士課程に行くことになっているので、400番台をもうずいぶん取っているよね?

大学生
はい。入学前から大学院進学を意識していましたし、先ほどお話したようにバブル経済など、具体的に興味のある分野がありましたので、1・2年の頃から大学院の科目かどうかは意識せずに受講していました。


先生
学年の垣根が一切なく、自分のレベルに合わせて講義を取っていけます。逆に言うと、ちょっとわからなくなってしまった時は、100番台や200番台の基礎に戻って勉強することもできるという、非常に有効なカリキュラムなので、これからは他大学の経済学部でも導入されていくと思います。
2つ目のゼミ制度は、東京商科大学として発足した頃から重要視してきたものです。ゼミナールというのは、もともとドイツの教育制度で、教員に対して学生が少人数ついて、親密に交流しながら勉強を深めていくというものです。基本的に教員1名に対して学生が10人前後と、少人数制という特徴もあります。
3つ目は、田中君も利用している「学部・大学院5年一貫教育システム」というものです。先ほど言ったように、学部生の時から大学院の科目を取れるので、その単位を持ち込んで、1年間で修士号を取得するというプログラムです。結構忙しくはなりますが、能力があって充分準備してきた学生なら、こなしていけます。学部を卒業してから2年間大学院に行くというのは、文系の学生にとっては就職の障害になりやすいので、1年勉強したら修士号を取れるというのは、かなり魅力がありますね。

お二人の入学のきっかけを教えてください。


卒業生
高校生の頃は、自分がどのような仕事に就くかということを考えることができませんでした。私は勉強では理系科目のほうが好きで、国語、日本史、世界史が苦手でした(笑)。でも、身近には文系出身の両親の仕事のイメージしかありませんでした。ですから文理選択でも文系を選んだのですが、先生に、「どうした? お前は絶対理系だろ?」と言われました(苦笑)。それから、大学や学問を調べる中で、経済学なら好きな数学を活かせると考えました。
大学を選ぶ時には、まだ将来のイメージが曖昧でしたので、入学後の選択の幅が広い大学を探しました。一橋大学は、学部の垣根が低いという特徴もあり、一橋の経済学部に行けば、最終的に経済分野に興味を失っても、ほかのことを選び直せるかなという考えもありました。まあ、そうならなくてよかったです(笑)。

大学生
僕も都築さんと同じように、理系科目のほうが強かったので、高校で文系を選んだ時には、先生に、「どうして理系にしないの」と、何度も言われました(笑)。

卒業生
あれは、もうちょっと気を遣ってほしいよね。得意かそうじゃないかで文系理系を選んでいるわけじゃないのだから。

大学生
本当に(笑)。僕の場合は経済に興味がありましたので、文系を選びました。大学については、この大学でないといけない、という強い思いはなく、国公立大学でかつ東京に行きたい、という2点くらいでした。僕は愛知県出身なのですが、人、物、情報があふれる東京という日本の中心地に自分の身を置くことで、自分の可能性を知りたいと考えたのです。絶対に若いうちに東京に行かないといけない、とだけ思っていました。

先生
でも、国立(くにたち)じゃあね(笑)。キャンパスにタヌキが出てくるようなところだから。

大学生
そうですね。入学後の印象という意味では、思ったより田舎でした(笑)。
国公立大学に行きたかった理由は、高校生の段階からなんとなく、大学院への進学を考えていまして、それなら国公立に行ったほうが学費の面でもいいと考えました。その2つを基準に、あとは自分が得意な科目などを考えて、一橋を選びました。

都築さんは、実際に入学してみての印象はいかがでしたか? 入る前とイメージが違ったところなどはありましたか?


卒業生
入学してみてイメージが違ったというより、より自由だったな、と(笑)。自由な校風というのは聞いていましたけど、それ以上に学生がいろいろなことに興味を持って活動していますし、それを妨げる人が誰もいません。
学問の面でも自由だと思います。蓼沼先生のゼミでは、卒業論文のテーマに関して強制されることはないですし、同期の卒業論文もそれぞれの興味の持ったことを経済学の観点から研究していました。

先生
私のゼミでは、卒論のテーマは、ミクロ経済理論の分析を入れることと、英語の文献を資料として使うことという2つだけが要件で、それ以外は全部自由にしています。テーマを自由にしているのは、問題を見つけることのほうが、実は難しいからです。テーマを与えてやらせるなら、講義と同じですよね。そうではなく、社会の中で問題を見つけたり、自分の興味のあることをテーマとして作り上げていくというのは、実はとても大変なことで、ぱっとできるわけではありません。良いテーマが見つかったら、研究は半分ぐらい終わっているようなものです。なぜなら、良いテーマを見つけるためには、自分の中にある程度知識がなければいけないからです。何もないところからは何も見つけられないので、テーマを見つけるために自分でも一所懸命勉強することになります。

自由であることは、逆に学生自身が責任を問われることになるのですね。


卒業生
そうですね。私は、障害者雇用というテーマを最終的に選びましたが、最初は、漠然と障害者分野に興味があるという段階でしかなかったので、先生がおっしゃったように、何が問題なのかを考えるのにとても時間がかかりました。社会学の本を読むとか、経済学を一旦離れて、障害者の分野の問題とは何かを考えることから始めました。
その後あらためて経済学の枠組みで考えてみて、経済学の中には制度設計というものもあるということがわかりました。先生に出会えなかったら、それを見つけられないまま、別の道にずれていたかもしれません。

大学生活で、力を注いだことは何でしょうか?


卒業生
1・2年生の時に、学園祭の実行委員に打ち込んでいました。一橋大学には、11月に1年生から4年生までが参加する一橋(いっきょう)祭と、6月に1・2年生中心で開催するKODAIRA祭という2つの学園祭がありまして、私はそのKODAIRA祭に携わっていました。
受験生の時にKODAIRA祭に行ったら、受験生を応援する企画をやっていたんです。大学1年生が自分の受験体験記を書いた冊子を配って、相談にも乗ってくれました。その相談を受けてくれた方がとてもかっこよく見えたので、入学できたら、今度はかっこいいと思ってもらえる側になりたいなと思って(笑)、入学後すぐに、実行委員会に入りました。1年生の時の準備期間は6月までの2ヶ月間だけですが、その後翌年の6月に向けて、来る日も来る日も、こういう企画をやろうとか、講演会に誰を呼ぼうとか、話し合いながら準備をしました。
2年生の学園祭が終わった時に、「先輩の下でやっていけてよかった」と1年生に言ってもらえたのが、すごく思い出に残っています。

そのころ経験したことが、今の仕事にも役立っているという実感はありますか?


卒業生
そうですね。実行委員会は学生の団体ですけど組織は組織なので、どうやって結論を出すかは会議で決めますし、それぞれ役割を与えられてやっているので、立場によって、意見が対立することもあります。例えば企画部門にいる人間は、学園祭にどれだけ人を集められるかということを至上命題としているので、どんな楽しいことができるのかを第一に考えますが、会場を管理監督する立場からすれば、できるだけ安全にやりたいというのが第一にあるので、結構対立しやすいんです。「それは楽しいかもしれないけど、人が無秩序に来ちゃうと、安全面が担保できないよ」「いやいや、こういうふうにケアできるから、やろうよ」という話し合いの経験は、今、総務部にいて、部門ごとの利害調整をしていく中で、活きているなと感じます。

田中さんは、アカペラサークルに所属しているそうですね。


大学生
今は5年一貫教育で大学院の勉強をして就職活動もあるので、ちょっとお休みしていますが、3年生までは本格的に活動していました。学内でライブをしたり、一橋祭やKODAIRA祭ではストリートイベントを行って、一日中ずっと歌っていました。いまも研究の合間を見て、参加できる時はしています。

卒業生
にぎやかにしてもらってありがとうございます(笑)。学園祭の会場に音が流れるというのはすごくいいことなんですよ。ストリートイベントをやっていると、来た人が「あ、学園祭だな」と感じてくれるので、こういう団体がいてくれると、運営側としては非常にありがたいです。

大学生
うちの大学の中では、アカペラサークルは非常に大きい団体で、僕は運営もやっていたので、大きなライブに向けてみんなで1つのものを作り上げていくというのが楽しかったです。

 

 

●就職活動、仕事について




卒業後の進路はどういうところでしょう?やはり金融関係がかなり多いのでしょうか?


先生
それほど偏ってはいないですよ。銀行・保険・証券など、金融関係は多いですが、メーカー系や公務員、国土交通省や厚生労働省などの国家公務員になる人もいます。

卒業生
変わった進路としては、同期には、卒業してから音楽大学の大学院に入り直した人がいますよ。卒論のテーマは「音楽業界の経済分析」で、もともと音楽を本格的にやっていた方でした。やっぱりその道に進みたいと言って、それを誰も止めませんでした(笑)。

先生
ディーラーをしている人もいますね。商事会社で商品取引を担当していて、そこで、証券会社で働いている同窓生と会うなんていうこともあるそうです。

大学生
ちょっと調べたことがあるんですけど、経済学部全体で言うと、銀行・証券・保険などの金融関係が4割ぐらいで、メーカーが2〜3割、1割ぐらいが大学院に進学しているようです。

田中さんは、どういう進路を目指しているのですか?


大学生
僕は民間の金融機関を目指しています。いま学んでいる経済理論がすぐに役立つわけではないと思いますが、考えなければいけないロジックなり今持っている知識が、自分のやりたいことにつながればいいなと思っています。それを活かせるのがおそらく金融業界だろうと思います。

先生
知識だけじゃなくて、「知恵」を活かしていければいいのかもしれないですね。
文系の学部では、人の根本の考え方や、論理的に考える力、考えたことを分かりやすく人に説明する力などを養っていくものだと思います。文系のどの学問分野も、職業との結びつきが理系よりも薄いと思われがちですが、何かを直接生産するのとは別の能力を養っており、それは就職後にも必ず役立つものなのです。有用ではないということでは決してありません。

大学生
僕も高校生の時には、「文系は手に職がつくわけではないが、広い意味の人間力がつく」と言われても、「そんなの信じられるか!」と思っていましたけど(笑)、実際、きちんと与えられた課題を吸収し、自分で問題点を探して、解決する方向に向けていくというプロセスを4年間踏むことで、確実に人は成長すると考えています。高校生の皆さんには、人はきちんと成長できるということを伝えたいと思います。それは、どの学部でも同じですね。

現在の仕事のやりがいを教えてください。


卒業生
生活に密着している部門にいると、たくさんの声をいただきます。特に、広聴という立場にいるので、直接都民の方からお電話やお手紙やメールをいただいて、問題や苦しみを抱えている人が多くいるということを知りますし、時折感謝のお手紙をいただくことがあります。「この部署の○○さんに親身に相談に乗ってもらって無事に解決できました」という話を聞く時は、行政が都民の方に対してできることがあるんだということに気づける瞬間でもあり、やりがいを感じます。今の部署では、私自身が直接都民の方に何かを行えるわけではありませんが、広報で伝えた結果、何かのイベントで良い経験ができた、イベントが好評で人がにぎわっていたなどと見聞きすると、良かったなと思います。このような経験を糧に仕事をしています。


 

 


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