●大学生活について
上智大学国際教養学部の特徴について教えてください。
■先生
国際教養学部の設立は1949年にさかのぼります。発足当時の名称は国際部で、日本で唯一、全授業が英語で行われ、なおかつ大学の学位が取得できる学部として誕生しました。というのも、第二次大戦終了直後の米軍統制下の時代において、米軍関係者や外交官らの子息などが通える大学・学部が必要である、という需要を反映して設立されたのが、本学部だったからです。
その後、1970年代に比較文化学部に、2006年に現在の国際教養学部という名称に変わりましたが、「すべての授業が英語」というスタイルは現在も変わっていません。これが一番大きな特徴です。
したがって、本学部に所属する約40名の教授陣の半数が外国人です。日本人の教授もほとんどが海外の大学・大学院での学位取得者です。しかも外国人教授たちも教授会に参加し、カリキュラム構成や授業内容などにも積極的に意見を出し、議論してくれますので、授業の質も含めて本当の意味でのグローバル教育が行える場となっています。
本学部は、発足当初からしばらくの間は米国人を中心に外国人学生の方が多かったのですが、現在は日本人学生が7〜8割を占めています。ただ、日本人学生の約8割は帰国生(帰国子女)や海外経験者で、国籍は日本であっても、育った環境や持っている文化的な背景は世界の様々な地域という、まさに多様性を持った学生たちが集まっています。海外経験のない学生も、そのような環境の中で、ぐんと英語力を伸ばすことができます。
また、世界各国からの留学生も多数います。これは交換留学の受け入れ先として、日本語ができない外国の学生には、本学部が最も学びやすいという理由があるからです。
このように教授・学生ともに、「国際色豊かである」ということが本学部の第二の特徴です。
第三の特徴は、日本の高校だけでなく欧米の学生にも対応できるように、「4月の春入学と9月の秋入学がある」ことです。最近、大学の秋入学が話題になっていますが、本学部はすでに1949年から秋入学制度を設置し、卒業も春・秋ともに行っています。
第四の特徴は、本学部では一般入試は行わず、「書類選考、もしくは推薦入試のみ」という点です。そのため、選考方法によって異なりますが、合否結果も10月、12月と早めに判明します。
学びの面での特徴も教えていただけますか?
■先生
本学部は「比較文化」、「社会科学」、「国際経営・経済」という3つの分野を柱とした、リベラル・アーツ教育を実践しています。一つの学部でありながら、分野横断的に様々な学問が学べるというのが学びの面での特徴です。
最終的には3年次よりゼミに所属して専攻・専門分野を作りますが、学生にはよく、それまでの間に様々な分野の学問を幅広く学び、総合的な知恵を身につけて卒業してほしい、と言っています。
すべての授業を英語で行いますので、グローバル化社会で生かせる英語のコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力は、当然ながらしっかりと身につきます。
加えてリベラル・アーツと聞くと、専門性が低いと思われがちですが、そんなことはまったくありません。本学部の各教科の教授陣は、海外でもトップクラスの大学で教えていた経験を持つ研究者たちですから、専門性を深めていくことも十分にできます。専門性をより高めるために大学院へ進学する学生も多く、ハーバードやスタンフォードなどの名門大学院へも多数輩出しています。
帰国生が多いとのことですが、お二人もそうですか?
■大学生
2歳から8歳まで、親の仕事の関係で米国のカリフォルニアで育ちました。
■卒業生
私も同じく親の仕事の関係で、4歳から7歳までを海外で過ごしました。
帰国後、どのようにして英語力を強化されましたか?
■卒業生
私は小学校までは日本の公立小学校に通い、中学から帰国子女クラスがある私立中学に通いました。その時のクラスメイトは、ほとんどが小学校高学年まで海外で過ごしていた人たちばかりで、私より英語のレベルが上でしたので、かなり勉強になりました。
■大学生
私の場合は親の意向もあり、英語を忘れないように個人経営塾に通いました。中学は、角谷さんと同じく私立の帰国子女クラスに進学しましたが、高校からは特別なクラスはなかったので、独自に勉強をするようにしました。
■先生
本学部の日本人学生には、日本のインターナショナルスクール出身の学生も多いですね。
お二人が「国際教養学部」を受験した理由を教えてください。
■大学生
高校ではあまり英語力が伸ばせなかったため、大学では英語力を伸ばしたいと考えていました。国際教養学部の授業がすべて英語で行われることを知り、まさに最適な環境に思えました。また、高校時代から美大進学も選択肢にあったほど美術に興味があり、美術史が学べるというのも大きな魅力でした。
■卒業生
高校の時にフランスのサマースクールに2週間ほど参加しました。そこには海外の様々な国から学生が集まりましたが、みんなフランス語はまだあまり話せないため、英語でコミュニケーションを取りました。その経験がとても楽しかったので、いろいろな国の人と関われる学部に入りたいと思うようになりました。加えて国際教養学部は、リベラル・アーツという形で幅広い分野が学べることが魅力に思えました。
また、大学附属高校だったため、内部進学する場合の関係から、12月中に合否が判明する学部を受験対象にしていたことも理由の一つです。
書類選考で提出する「出願理由エッセイ」とはどういうものですか? また書く際の注意点を教えてください。
■先生
なぜ本学部に入りたいのかを英語500ワード程度で書いてもらう理由書、パーソナルステイトメントです。
注意点としては、なぜ本学の国際教養学部で学びたいのかをしっかりと書いてほしいということですね。読んでいて、他大学にも同じようなものを提出しているなとわかってしまう内容のものがあったりするのです(笑)。
国際教養学部に入学してくる学生は、どのような志望動機が多いですか?
■先生
英語をより完璧なものにしたいという学生が多いですね。というのも、海外在住経験が長く、会話力がネイティブ並みの日本人であっても、論理的にしっかりとした英語が書けるまでになるには、多くの課題があるからです。
そうしたライティングのための授業を、本学部では1・2年次にしっかりと行いますので、最初はちょっとハードかもしれませんね。
とはいえ、一般レベルで考えれば英語のレベルはすでに高く、英語を使ってさらに関心のある学問分野のコンテンツ(科目)を学びたい、深めたい、と考えている学生がやはり多いです。
1・2年次はハードという先生のお話がありましたが、入学した感想はいかがでしたか?
■卒業生
1・2年次で必修の「哲学的人類学」という授業がすごく難しかったです。あまりにもわからなくて、一人で勉強していてもダメだと思い、グループで勉強するようになりました。今思うと、このグループスタディという勉強方法がとても良かったと思っています。
このほかにも難しい授業はありましたが、みんなでディスカッションなどをしながら勉強することで、理解できるようになりました。
それでも、勉強量はかなり一生懸命にやらざるを得なかったですね。
■大学生
私は「ミクロ経済」の授業が難しくてついていけませんでした。やはりみんなでカバーし合うようになり、何とか頑張ることができました。
また2年次必修の「シンキングプロセス」という英語の授業では、一番厳しいと噂の教授にあたり、本当に苦労しました(苦笑)。授業に出されている文章の意味も、先生が話している内容もまったくわからず、さらに毎回、レポートも書かなくてはいけないという状況でした。
厳しい先生ですと、質問などコミュニケーションも取りにくいのですか?
■大学生
いえ、そういうことはありません。授業が終わった後に「ここがわからない」と聞きに行くと、しっかり教えてくださいます。
■先生
学生も理解しようと必死ですので、よく質問をしに来ますね。
授業はどれくらいの人数で行われているのですか?
■先生
1・2年次の合同レクチャーなどは120名前後が集まりますが、それ以外の授業は30〜40名前後が中心ですね。ゼミともなれば、4〜5名からの少人数のものもあり、多くの授業が、教授と学生との距離が近いと言えます。
英語が得意で入学しても苦労してしまった場合、フォローしてくれるシステムは何かありますか?
■先生
はい、いろいろありますが、例えば「ライティング・センター」という部屋があります。ここには常時2名のネイティブの大学院生スタッフがチューターとしていて、学生がレポート作成その他の英語の記述においてわからないことを自由に質問できます。
クラス内では日本語で話すのですか?
■大学生
私は人によりですね(笑)。日本人でも英語の方が得意な人がいるので、その場合は英語で、日本語で話そうという雰囲気の場合は日本語で(笑)。
■先生
そのあたりが本学部独特の雰囲気ですね。私もそうですが、みんな日本語と英語がかなりチャンポンになっています(笑)。
■卒業生
そうですね。林先生とキャンパス外で会うと、「Oh、Hi、こんにちは」って言いますね(笑)。
■先生
そうなってしまいますよ(笑)。大学に一歩入ると英語をずっと使っていますが、一歩外に出ると、そこはもちろん日本ですからね。私の場合、帰宅時には四ツ谷駅あたりが日本語脳と英語脳の変換スポットになっています(笑)。
国際色豊かなクラスの特徴のようなものは何か感じましたか?
■卒業生
いろいろな国籍の学生がいると、宗教的なテーマに関してはリアルなものがありますね。かつて、宗教対立に関する話題が授業の中で出たのですが、そうした際には、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教など、学生の信仰も様々ですので、かなり白熱した議論になることもあります。みんなが信仰をいかに大事にしているのかを、肌で感じることができました。
クラスの雰囲気が国際社会情勢によって影響を受けたりすることはありますか?
■先生
時事的なトピックを扱うことはもちろんありますが、それによって大きく雰囲気が変わるということはあまりありませんね。むしろ私たちは学生に常にこんなメッセージを発信しています。「あなたたちは国際色豊かな環境の中で、みんなで一緒に学んできたのだから、社会に出てからも国と国、人と人をつなぐ架け橋にぜひなっていってください」と。
お二人が好きだった授業やカリキュラムを教えてください。
■卒業生
私は林先生の「美術史入門」の授業が好きでした。
私は社会学専攻でしたが、他の専門の講義も履修することが必修のため、先生の「美術史入門」を履修したらすごく面白かったので、専攻を「美術史」に転換しました。
作家の人となりではなく、作品が生まれた時代背景、社会の成り立ちなどに言及されている点が、これまで学んできた美術の授業とはまったく違うと新鮮に感じました。私は社会学に関心を持っていましたが、美術に対する先生の社会学的なアプローチが面白かったですね。
■大学生
私はサーラー教授の日本史の授業ですね。高校時代は世界史ばかり勉強していましたので、日本史はほとんど知りませんでした。そのため、日本史自体が新鮮でしたが、それを英語で学ぶということも新しい感覚でした。
■先生
サーラー先生はドイツ人教授ですが、日本史や日本語学のスペシャリストですからね。
国際教養学部ならではのカリキュラムにはどういうものがありますか?
■先生
本学には「グローバル・スタディーズ研究科」という国際関係、国際経済や国際社会学を学ぶ大学院があります。本学部の教授はそちらも担当している教員が多いため、質の高いグローバル教育を提供できているという点がまず一つあります。
また、日本研究を経済・文学・美術・哲学など、様々な分野で行っている優秀な外国人研究者も多数いますので、日本について外国人研究者という違った視点から学べるのも本学部ならではですね。
余談になりますが、『モニュメンタ・ニッポニカ』という日本研究の権威誌として世界の研究者たちに知られている刊行物がありますが、これを発刊させているのは実は本学で、本学部の教授陣がエディター(編集者)を担当しています。
|