<前へ 1 2 3

CONTENTS

●プロフィール    ●大学生活について     ●就職活動、仕事について
●5年後に向けて    ●高校生へのアドバイス
 

●5年後に向けて




皆さんの将来の夢・目標を教えてください。


大学生
今年休学し、1年間、ロンドンのアートスクールに進学を予定しています。そこは完成形のアート作品よりも、制作過程やコンセプトづくりを重視して評価してくれるスクールです。そこでアート制作だけでなく考え方を学び、その後の仕事にも生かしたいと考えています。


卒業生
仕事とは別の目標で、また何年後かはわかりませんが、大学院でポップアートや日本の1960年代のアーティスト、芸術運動をさらに詳しく勉強したいと思っています。

先生の研究で達成したい目標はありますか?


先生
私は2013年に大きな目標を一つ達成させたばかりです。ニューヨーク近代美術館(MoMA)とのコラボレーション企画で、日本の戦後の重要な美術批評のアンソロジー(過去の重要な批評文を編集したもの)を作ったのです。選者は4人いて、私はその一人でしたが、日本の1945年から1989年ぐらいまでの重要な美術批評のテクストを選び、英語に翻訳しました。完成までに3年越しの企画でした。このアンソロジーはこれまで日本語しかなかった美術批評が英語で読めるということで、日本研究者たちからすごく評価され、喜ばれましたね。
この本と似たコンセプトの日本語版プロジェクトも進めています。スケールをさらに大きくして、批評の収録本数は1巻につき150〜200本で全4巻にする予定です。国内の出版社も決まりましたので、研究者のための土台づくりとなるこうした重要なプロジェクトを5年以内に完成させるのが現在の目標ですね。

先生の研究の面白さ、やりがいはどういうところにありますか?


先生
美術・視覚文化が好き、という出発点がありますので、研究活動はとても楽しいですね。ただし、思考して文章を書いてアウトプットしていくという作業に関しては、常に産みの苦しみも伴います。思考が迷路にはまり込んで筆が進まない、ということはよくあります。その時は本当に苦しくて七転八倒するのですが、それを乗り越えて原稿が完成した時には、とても達成感を感じますね。
美術批評家としての醍醐味は、やはり多くの作家たちと出会い、つき合えることにあります。作家たちとのやり取りはすごく刺激になりますし、また私の書いた批評が彼らの刺激剤になってくれた際にはとても嬉しいですね。
私は、学会に論文を出すことも重要ですが、その中だけの活動には、あまり興味はありません。それよりもこれからの美術・視覚文化を担う作家たちとのギブアンドテイク、フィフティ・フィフティのやり取りを大切にして、関係性を持つ中で仕事をしていきたいと思っています。

研究の社会的な意義はどのようなところにありますか?


先生
一つには国内外の研究者に向けた土台作りという意味合いがあります。この点では、美術史という学問においての貢献が多少なりともできるかと思います。
また、美術や視覚文化を通して「社会や時代を読むこと」が、多くの人にとっても意義のあることだと信じて研究をしています。しかし、書店の美術書の棚を見ても、作家や作品研究書や美術投資の本ばかりです。そこで、自分たちで雑誌などを作っていくということも考えています。すでに『ART TRACE PRESS』という美術批評誌を年に1回刊行し、3号目を制作中です。
もう一つには、美術大学だけに依存する日本の美術教育の在り方を変えたいと思っています。日本には美大以外にも美術教育を行っている機関は多くありますが、小規模で長続きしないという現状があります。美大ではなく、独立系の美術教育の場所をもっと作るにはどうしたらよいか、といったことも研究しています。

先生の研究を学んでみたいと思う高校生にアドバイスをお願いします。


先生
美術の中には現代美術やコンセプチュアル・アートのように、「理解するのが難しい」作風もあります。そうした場合、多くの人は作家の人となりを学び、作家の作品に対する意図などを知ることで、作品を理解していくことが多いです。ただ、このように作品を理解すると、自分の目で作品を見て、どう感じたのかなどを考える作業をさぼりがちになります。美術や視覚文化作品と接する中で大切なことは、自分の目で作品を見てどう思ったかをしっかり感じ取ることだと、私は思います。「好きだ」や「嫌いだ」とはっきり言うことには責任の感覚がともないますが、それを重く感じる必要はまったくありませんし、自由に感性を使って感じてほしいのです。誰がどう評価しているかは気にせず、自分の目で作品を見てどう思ったのかを大切にして、様々な美術や視覚文化と触れ合ってほしいと思います。

 


●高校生へのアドバイス




大学・学部・学科選びなど進路選択はどのように決めていきましたか?


大学生
進学に関してしっかりと指導してくれる高校で、一般入試を受けることが義務のようになっていましたが、私は「どうしても上智の国際教養学部を受けたい」と嘆願して、英語を中心にした書類審査用の受験対策を自分で行いました。
英語以外では、世界史は好きだったのでしっかり勉強しましたが、実は一般入試用の勉強はほとんどしていなくて、上智の国際教養学部に賭けていた、という感じです(笑)。

卒業生
私の中では初め、上智の外国語学部が受験候補でした。しかし、父が国際教養学部のことを知っていて、英語ばかりを学ぶよりいろいろな教科が学べた方がよいと、国際教養学部を薦めてくれたことが大きかったと思います。

先生は東大を卒業された後にコロンビア大学院へ進まれましたが、どのように英語力を高められたのですか?


先生
私はクリスチャン系の中高一貫校でしたので、カナダの神父さんたちが多数いて、英語に接する機会は多くありました。ただ、これだけでは英語力の向上には結びついていません。また東大時代、私はバンド活動ばかり一生懸命やっている学生で、私の存在すら知らないクラスメイトも多数いるという状況でした(苦笑)。
その後、大学を卒業してコロンビア大学院に入る前に、私はまず西武百貨店に就職しました。当時の西武は勢いがあり、ファッション、アートやカルチャー事業にも力を入れていました。そこで1985年からニューヨークに滞在し、アメリカで起こっている面白い出来事やファッション、ショップ、カルチャー情報などを収集してマンスリーレポートを制作して提出することが私の仕事になりました。
例えばマーク・ジェイコブズという新進のファッションデザイナーが面白いなどとレポートとすると、「そのファッションを紹介しよう」となるわけですね。

卒業生
面白そうな仕事ですね(笑)。

先生
そうなんですよ。ですから、日本に最初にマーク・ジェイコブズを紹介したのは西武ですが、それはさておき、一番の問題は、とにかく英語がわからないということだったのです(笑)。
それまでろくに勉強をしないままでしたので、いざニューヨークに行っても英語がわからないという状況でした。そこで毎日、テレビでCNNやABC放送のニュースを見て発音に慣れるようにしました。ニュース番組でアンカーマンと呼ばれるキャスターたちは、すごく聞き取り易いきれいな英語をしゃべりますから、ヒアリングの勉強になるのです。
その後、次第に大学時代にあまりやらなかった美術史の勉強を、大学院でやり直そうという気持ちが強くなり、会社を辞めて大学院へ進むことを決めました。 目標はコロンビア大学でしたが、入学金や授業料が高かったため、まずは東大の大学院へ入学し、フルブライト奨学金に応募して合格した後、コロンビア大学大学院へ留学できることになったのです。

日常的な英語力とコロンビア大学院で必要となる英語力はまた違いますよね?


先生
そうですね、まったく別物です。日常会話ではテーマに関して深くディスカッションすることはしませんから。コロンビア大学の1年目は死ぬほど勉強をして、3日間ほどめまいで起きられないということもありました(苦笑)。

お二人も、英語の学び方のコツやアドバイスをお願いします。


卒業生
語学を学ぶコツとして、映画や音楽など、自分が好きだと思えるものや楽しめるものと結びつけて学ぶという方法があると思います。
私の友人で、海外留学や海外滞在経験はないのに、すごく英語力のある人がいました。その人は、ハリウッド系の映画が大好きで、将来は映画関係の仕事をしたいと考えていました。その人は、とにかく英語の映画を観る、という方法を取っていました。 私もフランス語を勉強する場合、映画をよく観るようにしています。映画を1本でも真剣に観ると、リスニング力がかなり向上すると思います。 英語自体を好きな人はあまり多くないと思いますので、楽しく学ばないと長続きはしませんね。

大学生
私も似ていまして、よく聴く洋楽を英語の教材にしていました。あるバンドは、ネイティブが聴いても「何を歌っているのかよくわからない」というほど、すごく早口で社会的なテーマを歌うのです。当然私も、最初はまったく理解できないのですが、そういうバンドの歌を聴くことでボキャブラリーを増やしたり、リスニング力を鍛えたり、時に歌詞を口ずさむことでスピーキング力の訓練をしました。

先生
読解力はボキャブラリーを増やすことで向上しますが、本学部の場合、まず授業に対応できるヒアリング力が求められます。先ほどニュースの例を挙げましたが、ネイティブの発音をニュースや音楽、映画など何でもよいので、とにかく触れて耳を慣らしていくしかないですね。
DVDで映画を観る際には、英語字幕を出せるシステムもありますから、それを活用して俳優が話している英語を耳だけでなく、文字情報でも確認して、表現を覚えるという方法もあります。

卒業生
私はその方法を実践しました。家に『アリー my Love』という海外ドラマのDVDがあり、それを英語字幕にして鑑賞しました。このドラマは主人公が女性弁護士で、法律用語が早口でどんどん出てくるので字幕鑑賞が役立ちました。
また、家でCNNニュースが見られるので、ニュースを聞きながらその要約記事をまとめるといった訓練も役に立ったと思います。もちろん、しっかり理解できていないのですが、わかった部分だけでもメモしていくことで少しは違うかなと思います。

ではスピーキング力はどのように向上させたらよいのでしょうか?


先生
スピーキング力は、英語がわかる・わからないという以前に、「間違いや失敗を恐れない」というメンタリティを持つ必要があると思います。留学生の中には、母国語が英語圏以外の学生も多くいます。そうした学生と日本人学生との大きな違いは、多少間違った英語でもものおじせず自分の言いたいことを英語で話す、という点ですね。 日本人の場合、「間違った英語を話すと恥ずかしい」という気持ちが働くのか、入学当初はあまり口数が多くありませんが、留学生たちの度胸に刺激を受けて、「これでもいいのだ」と話し出す傾向がありますね(笑)。また、「自分の主張をしっかり持ちなさい」というカルチャーの中で育ちませんから、そういう文化的な背景もあるのかもしれません。
スピーキング力は、恥をかいてでも積極的に話すというのが一番の上達法ですね。

ほかに英語学習のアドバイスはありますか?


卒業生
無理に難しい英語を覚えようとせず、基礎英語をしっかりと身につける方法も役に立つと思います。例えばNHKの基礎英語や初歩的な番組を見て、そこに出てくる表現などをしっかりと覚えていくのです。こうした基礎教材は実際に高校時代にも使いましたが、とても役立っています。英語以外の外国語を学ぶ際にも、初歩講座をしっかりとマスターすることは大切です。かつてアルバイト先にイタリアの方がいらしたことがあって、その際に基礎講座で覚えた「いつまで滞在しているの?」という表現を実践で使うことができ、すごくうれしかったのを覚えています(笑)。

高校と大学の学びの関係に関してのアドバイスをお願いします。


先生
高校での学びは、大学で学ぶ専門分野のベースとして生きてきますので、学科を問わず、しっかりと勉強してほしいと思います。例えば、世界史という教科も、現在のグローバル社会に出た際に、世界史の素養があるのとないのとでは、いろいろな面で違ってきます。美術史においても、フランス革命時代には美術のスタイルが大きく変わるのですが、それを知るにはまず「フランス革命って何?」がわからないといけません。
高校卒業後に使った教科書をすぐに捨てたりせずに、大学に入った後もしばらくは取っておくことをお薦めします。私自身、大学受験期に使った世界史の参考書をいまだに持っていて活用しています。

最後に改めて上智大学国際教養学部の素晴らしさを教えてください。


大学生
やはりこの学部の魅力は、国際色豊かな先生・学生が集まっているところだと思います。ものの考え方や価値観の多様性が学べますね。

卒業生
同感です。とにかく刺激的ですね。例えば同級生が夏休みに旅行してきた国や場所などが、例えばアフリカの小国だったり、中国の奥地だったり、それまでに聞いたことがなく、当然行ったことがない国や場所だったりします。中には政情不安の場所もあり、そうした国々の状況を教えてもらえたりするメリットがあるのも、この学部ならではだと思います。専攻として学ぶテーマが興味に応じて選べるのも良いですね。

先生
二人と同じ意見ですが、やはり多様性のある学部だというのが一番の魅力ですね。そして、英語の力を伸ばすだけではなく、さらにプラスαの専門性を身につけていくという点も、本学部の大きな魅力だと思います。
実はこの学部は、授業料が取得単位で換算して発生するシステムになっています。つまり、学生の方も授業に対してシビアですので、不満が出ないよう教授陣もしっかりと授業に取り組んでいることも、この学部ならではでしょうね。

大学構内のお気に入りスポット
先生
美術系の本が山積みになっている自分の研究室が居心地も良くて好きですね(笑)。

卒業生
在学中は図書館が好きで活用していました。あと、植込みが迷路のようになっている中庭も好きな場所です。

大学生
私は2号館の5階にあるテラスです。机も置かれていて素敵な場所ですね。

 

 

<前へ 1 2 3