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CONTENTS

●プロフィール    ●大学生活について     ●就職活動、仕事について
●5年後に向けて    ●高校生へのアドバイス
 

●5年後に向けて




先生の研究は5年後には、どのように発展されているでしょうか?


先生
人工光合成は、今世界中で注目されています。
太陽電池と同じように感じる方も多いかも知れませんが、太陽電池は太陽エネルギーを電気エネルギーに変えるもの、つまり電気を作り出す考え方です。我々の研究は、冒頭でも申し上げたとおり、太陽エネルギーを化学エネルギーに変換する、石油を人工的に作ろうとするものです。
石油などの化石資源には枯渇の問題があります。とくに石油は、燃料として使われるだけでなく、化学原料としても多く使われます。ですから、化石資源がなくなるということは、プラスチック等の化学製品の原料が枯渇する面でも影響が大きいのです。
もちろん、5年後に石油がなくなる話ではありませんが、50年、100年という遠い将来においては、危機的状況になっているでしょう。ですから、それまでに、実用化されていないと、人類の生存が危うくなるというのは、決して大げさな話ではありません。とくにエネルギー資源に乏しい日本は、人工光合成の実用化がエネルギー問題の鍵となります。
ですから5年後までには、この研究に一定の道筋を示したいと思っています。そして、20年後には、これでいけるぞという、計画(スキーム)をきちんと示せるレベルまで、研究レベルを上げたいと考えています。


お二人は、5年後、どのような将来を思い浮かべることできるでしょうか?
今後どのような仕事を目指していますか?


卒業生
これまで、いろいろと勉強してきたという自負がありますから、それをどう社会へ還元していくかが将来の課題になると思います。たとえ博士課程へ進んだとしても、5年後であれば、社会に出て行くわけですから、その具体的な課題を見つけて、実現へと歩み始める頃だと思います。もちろん、それまでには、今の研究に一応の成果を出して、無事、卒業したいと考えています。

大学生
私は、修士課程まで修了したら、就職したいと考えています。もちろん、院での研究を続けたいと思えば、博士課程に進む道もあるかとは思います。専門を活かして社会に貢献できる仕事がしたいと思っていますので、この先が楽しみです。

 


●高校生へのアドバイス




もし、高校1年に戻れたら何をやりたいですか?


大学生
もう少し、高校生らしく学校生活を楽しみたかったですね(笑)。中高一貫校で、高校に上がると受験勉強を始める雰囲気があり、毎日、勉強に追われていたという感じでしたから。

卒業生
私も勉強が大変でしたし、戻りたくないというのが本音です(笑)。今考えてみると、もう少し本を読んでおけばよかったかなとは思います。推理小説が好きでしたが、文学とか社会的センスが磨かれるものも読んでおけばよかったです。

先生
東工大の学生さんは、とにかく理数系の勉強はよくしています。でも、大学に入った途端に文章を書かされたり、外国人と英語でしゃべらされたりしますので、文学などの必要性を感じられるのかもしれません。
先ほど新聞を読みなさいと申し上げましたが、その理由のもう一つは、自分の研究を人に正確に伝えるには、新聞に書かれているようなきちんとした文章が必要だからです。

先生の研究を将来行おうと思えば、今の高校生はどのような勉強が必要ですか?


先生
専門の勉強は大学へ入ってから十分することができます。私は化学は大好きだったのですが、なかなか点が取れず、高校時代は一番苦手でした。むしろ文系の世界史と国語が得意でしたね。でも、今化学の専門家として仕事についています。
大切なのは意欲です。これをやりたいという強い思いをもった学生さんに来てほしいと思っています。
研究に興味のある方は講談社の『二重らせん』を読んでみてください。これは、DNAの二重らせん構造を発見して、1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞したジェームズ・ワトソンが二重らせんについて著した本です。研究とはどういうものかということがよくわかります。

皆さんは高校の時の勉強が今役に立っているということがありますか?


大学生
英語はかなり役立っていますね。もちろん、理科系の分野の教科は、ベースとして役に立っているとは思います。また漢字が書けないと恥ずかしいですし、国語の力もいろいろな勉強の土台となっているはずです。社会科の分野も大人として、社会人として身につけておくべき教養かなと思っています。ですから、高校の時にしっかり勉強しておくと後で苦労が少ないと思います。

卒業生
高校までの勉強は、内容がどうのというより、勉強するという過程が重要なのではないでしょうか。与えられたことをどうこなすか、高校とは、そういうことを学ぶ場だったのではないかと思います。もちろん、数学の計算をするとか、そういうことは大学でも使いますが、物理や化学の基礎知識がそのまま使えているかというとそうでもありません。むしろ大学で学ぶことは別のものと考えた方がいいかもしれません。

先生
それでも、物理や化学を高校で学んでこなかったら、大学の授業にはついてこられないでしょう。ちんぷんかんぷんのはずです。裏田さんも馬ノ段さんもそういう知識を完全に身につけているから、とくに使っているという意識がないだけです。
大学1年では、文科系の授業もありますし、数学、物理、化学、生物、地学など幅広く勉強しなければなりません。それが2年、3年、4年と進級するにつれて、専門分野に特化して勉強するわけですが、たとえ、将来は狭い分野での専門家になるにしても、大学1年の幅広い勉強が何かの形で役立つから、そうしているのです。そうでなければ、本当の意味での専門家にはなれないと思います。高校での勉強は、そのベースを学ぶというところでしょうか。
大学で専門的な研究をしていると、学生の時勉強したことや、ましてや高校で勉強したことなど忘れてしまいます。しかし、勉強していない人とは大きな違いがあります。昔、勉強したなという意識があれば、すぐに思い出せます。必要な知識を思い出すには、どこを見ればいいのかがわかっているからです。ですから、高校で幅広く勉強するということは、とても大事なことで、今は、これがなんの役に立つのかと思うかもしれませんが、将来必ずどこかで必要になるでしょう。
ただし、英語は、必須です。研究の世界は、国内だけで済む話ではないためです。とくに東工大では将来指導的立場に立つ人が多いので、英語ができなければどうにもなりません。英語はマスターするのに時間がかかりますから、得意でなくとも高校の時からこつこつと勉強してほしいです。

受験生へのアドバイス

東工大を目指す人にアドバイスをお願いします。


大学生
国語とか英語が苦手ですと苦労しますので、高校の時からおろそかにしないで、勉強してほしいと思います。また、東工大に限らず、理系、文系の進路は早めに決めておくと、受験勉強する科目を絞れると思います。いずれにしろ、早くから準備をしておくことをお勧めします。


卒業生
私は、反対に、進路を早く決めるよりも、全部の科目を一生懸命勉強してみて、そのうえで、自分が好きな科目や自分に合う分野を決めていければ、その方がいいのかなと思います。逆説的になりますが、自分が本当に好きになれる分野や見つかるまで、全部の勉強をやってみるのがいいのではないでしょうか。

先生
今の話は理学部のシステムに似ていますね。
東工大の理学部は、第1類として、数学科、物理学科、化学科、情報化学科、地球惑星科学科のすべての学生を取ります。まず1年間、幅広くしっかり勉強をしてもらい、そのうえで、数学科に進むのか、化学科に行くのか、決めてもらうわけです。ですから、理科系ということは決めなければなりませんが、どの学科へ行くかは、入学してから決められます。これは高校の時、何を勉強したいのか、将来どういう方向に進みたいのか、自分でもよくわからないという人にとっては、いい制度だと思います。

卒業生
実は、私も、物理学科へ行くつもりで東工大を選びましたが、この制度のおかげで、化学の道へ進むことができました。

 

 

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