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CONTENTS

●プロフィール    ●大学生活について     ●就職活動、仕事について
●5年後に向けて    ●高校生へのアドバイス
 


●大学生活について




東京大学教育学部を志望した理由を教えてください。


大学生
「カルチュラル・スタディーズ」に関心があったとお話しましたが、もともとは教育学部で文化人類学の研究をされていた白石さや先生(2014年現在は東京大学名誉教授)の研究に興味を持ったことがきっかけでした。「情報学環」に入ったのも同様で、吉見俊哉先生(2014年現在は東京大学副学長)というカルチュラル・スタディーズの大家の先生が在籍されていたことを高校時代から知っていたからでした。つまり教育自体に興味があった、というより、先生ベース、先生の研究テーマに惹かれたんです。そのモチベーションが大きかったですね。


先生
初めて知りました! どの先生に学ぶのか、教員を進学理由に大学やコースを目指す学生は多いのですか?

大学生
「この先生に付きたいから」という志望動機は、珍しいのではないかと思います。高校の友達にはいましたが、少なくとも大学の同級生の中にはいなかったですね。理系の方だとそういう人がいるかもしれないですが。

卒業生
私の場合は、大学に入る前から教育学部に行きたいと、思っていました。ただ、学校の先生になろうというのではなかったので「教員養成系ではない教育学部」に行きたいというのが志望動機です。
そのきっかけは、小中学生時代まで遡ります。当時通っていたのが研究指定校で、「総合的な学習」などを、新しい制度が生まれる以前に実験的に取り入れていた学校だったんですね。新しい教育政策について、いろいろなことが言われ、政策もころころ変わるように見えていました。いったい教育を決めているのは誰なんだ?という疑問が子供心に湧いたのです。

先生
珍しい中学生よね(笑)。何か印象的な経験があったの?

卒業生
いえ、その時の教育に特に不満があったわけではなかったですし、学校生活はすごく楽しかったんですよ。良い授業にするための、先生方の試行錯誤、工夫も知っていましたから。でも何をするにも推進派、反対派がいる。そんなに悪いものではないと思うのに、なぜそういう議論になるのかな?と不思議に思ったのです。
よく言われていたのは、研究指定校にはそれなりに経験や実力のある先生が集まり、生徒の学力水準的にも揃っている。そういう学校だからこそできるんだ、ということです。ああそうか、日本全部に広げるのは難しいのか、先生の能力に左右されない教育というのは果たしてあり得るのかな?などと考えていました。

先生はなぜ教育社会学の道を歩まれたのでしょうか?


先生
私の場合は大学受験での経験が大きな影響を与えています。大学受験というと、期末試験と違って範囲が膨大ですが、私はそれを全部覚える形で対処しようとするような、要領の悪い勉強の仕方をしていたんですね。大学受験直前には、頭の中が記憶でいっぱいで、感情もだんだんなくなっていくような状況に陥っていたことを覚えています。
進路は、親の薦めもあり医学部を志望していたのですが、学年が上がるにつれ、人の命を預かることができるのか、それに耐える自信がなくなりました。一方で文学と英語が好きでしたし、翻訳家になれないかなと考え、最終的には東大の文Vを受験しました。大学2年生で進路を選ぶにあたり、私はなぜ高校生の時にあんなに辛いところに追い込まれたんだろう?と自分自身の大学受験を振り返りました。それを考え直せるのが教育学部ではないかなと考えたのです。ですから、辛かったことの裏返しが勉強の原動力になったようなところがありますね。

キャンパスのお気に入りのスポットを教えてください。


卒業生
学生時代に一番滞在時間が多かったのは学生ラウンジでしょうか。教育学部っぽいなあといつも思う場所です。落ち着けますし、同級生、先輩後輩を問わず、いろいろな人が集う場所でした。


大学生
僕は書籍部がけっこう好きです。駒場キャンパスの書籍部は広々とした感じで、今風の書店なんですが、本郷の書籍部は妙に入り口から奥が見渡せない、広いけれど広さが感じられない、昔ながらの本屋さんらしいところでしょうか。まわりの視線が気にならず、そういう意味で落ち着けますし、本を選びやすい場所です。

イベントはどうですか?


大学生
学生生活の楽しい面、遊びの面を見るなら「駒場祭」がよいですね。1・2年生主体で飲食店を出しますし、サークルがメインなので、講演などに呼ぶゲストもキャッチーな人が多く、それは面白いです。でも、勉強面で僕らがどういうことをやっているのかを知るという点では、「五月祭」の方がお勧めです。研究室単位でブースを出していまして、学科、ゼミ、研究室の出し物がメインです。面白いですよ。

先生
これはうちのコースができて以来の伝統なのですが、「五月祭」では4年生がシンポジウムを開きます。3年生が1年間かけて勉強する「教育社会学調査実習」の成果発表の場となっています。発表するのは代表となる数人ですが、全員が何らかの役割を受け持ってスタッフを務めます。
もちろん研究の水準としては学会には及びませんが、形式はそれに準じています。ゲストの先生もお招きして、かなり厳しいコメントをいただく。学生にとって試練の場でもありますね。一般の方も来ていただくのですが、思いがけない質問も飛んだりして、汗をいっぱいかきながら応答します。
高校生にも見てもらえるとよいですね。オープンキャンパスよりも、教育学部また私の所属する比較教育学コースに対しての興味を持っていただきやすいかと思います。

特色あるカリキュラムを教えてください。


先生
まさに、この「五月祭」で発表する「教育社会学調査実習」がそれにあたると思います。本格的な社会調査として、何千という対象者にアンケート調査を行い、仮説に基づくデータ分析の結果とそれを踏まえた提言を、報告書として書き上げます。3年生が1年以上かけて取り組む必修科目です。これはアンケートの回答結果を、統計分析手法を用いて数値的に考察する訓練です。社会調査というものの手法をきちんと教えたいというのが、このコースのアイデンティティになっていますので、かなり力を入れています。社会調査士という資格を取得することができます。

大学生
日本一の授業だと思います。この点において。

 

 

●就職活動、仕事について




卒業生はどのような分野に就職していますか?


先生
中央や地方自治体の官公庁もいますし、民間企業も、商社、金融、JR、製造業と本当に様々です。従事している仕事内容は、あくまで印象ですが、何らかの形で教育や研修、採用や人事など、人に関わること、つまり広い意味で教育学部が対象にしている、「人を育てる」仕事に携わっている場合がかなりあると思います。
それと、「社会調査」そのものの仕事は少ないですが、情報を集めて分析してまとめるという作業は、結局どの仕事分野でも必要なことなんですね。卒業生がたまに連絡をくれますが、入社何年目かでレポート作成を任された時に、五月祭の発表や卒業論文の経験が生きたという。それは嬉しいですね。


卒業生
学術的に問題のないアンケート調査を一般の民間企業で行うのは難しいですが、先生のおっしゃるとおり、仕事をする上では不可欠な要素を学ぶことができたと感じています。就職活動では、あまり業界を絞らずに、社会との関わりですとか、教育制度に一番関われる場所はどこだろうと考えました。公務員試験の勉強もしたこともありますし、あとは報道関係で新聞社、そして教育系の会社を受けました。

今の仕事でどのようなやりがいを感じますか?


卒業生
わかりやすい話ですと、やはり志望校に受かったという声を聞くことですね。また、私は添削者の先生と関わることが多いので、先生方が工夫して生徒の個に応じた指導をされる、それが垣間見られた時に、自分の仕事の意義を感じます。今の私は受験生とその保護者の方だけでなく、教える立場の人とも関われる、そういう関係がよいなと感じています。
結局、私が教師を目指さなかった理由につながりますが、教師は年に40人ぐらいと濃密にかかわります。そうでなく、私は密度は多少薄くても、より広く関われるところに興味があったんですね。

大学生
このコースでは、そういう理由で「敢えて教師にならない」という人が多いです。自分ひとりが教師になるよりも、もっと政策的なレベルで関わる方が、多くの人に良い影響を与えられるのでは?という考え方が強いのだと思います。

先生
「俯瞰したい」という志向を持つ人が集まるんでしょうね。見渡しているんですよね。

卒業生
逆に言うと、私自身は学校の先生というのは本当にすごいな、と思うんです。自分ではとてもできない、尊いことだなという気持ちがあります。

先生
私も同じです。例えば、研究を進める中で、貧困対策などに取り組んでいるNPOの方々と接することもあるのですが、すごいな、自分に同じことはできないな、と引け目を感じることもあります。でも、できないからこそ、自分ならではのやり方でできることを私はきちんとやろう、っていう思考も大事だと思いますね。

就職して、悩みにぶつかったことはありますか?


卒業生
学校時代というのは、6、3、3、4年が区切りですね。つまり同じ環境下に長くいることがあまりなかった訳です。それが就職してみると、40年以上の時間がある。なんて未来が長いんだろう、と思います。今までのような区切りが全くなくなるので、区切りを自分でつける必要もでてきます。これまでは、高校では大学に入るためだけに暮らす、という感じでしたし、大学に入ってからも教育学部にいくぞ、と段階的な目標がありましたが、さあこれからどうしよう?となる。それが就職して、仕事に慣れた頃に直面したことでした。

 

 


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