小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

分数・小数は難しい(小数編)

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどく、かつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、最近運動不足を痛感している小田です。先日、急に思い立って筋トレを始めてみたのですが、いきなり腹筋をつりました。初心者向けの10分くらいのコースだったはずなのですが(動画サイトで見つけました)。一応これでも昔は運動部だったこともあり、それくらいならできるだろう、と思っていたのでショックでした。少し鍛え直していきたいと思います。

 さて、今回は“小数”についてのお悩みです。小学校高学年の算数の内容で、やはりひとつの大きな山場となるのが「小数・分数」でしょう。今回は小数、次回で分数、という形で、2回に分けてそのあたりのお悩みにお答えしてきたいと思います。

 それでは早速行ってみましょう。

お悩み3:分数・小数は難しい(小数編)

整数の計算は得意なのですが、分数や小数の計算でつまずくことがあるようです。学年が上がるにつれて、分数や小数の計算が増えてくるので、算数が苦手にならないか不安です。(小3保護者)

さんすう力UPのポイント

小学算数で立ちはだかる高いカベ「分数・小数」

 小学校の算数も、高学年になると次々と“難しい単元”が立ちはだかってきます。そのなかでもとくに高いカベとなる単元のひとつは、やはり「分数・小数」でしょう。保護者の皆さまのなかにも、この「分数・小数」あたりから算数がよくわからなくなってきた、という苦い記憶をおもちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。実際のところ、(わたし個人の見解ではありますが)この「分数・小数」を“ある程度よくわかっている”という人は、大人も含めてそれほど多くありません。

 なぜ「分数・小数」の単元はこれほど難しいのでしょうか。結論から言ってしまえば、それは「新しい世界に飛び出す」からです。わたしたちが最初に出合う「1、2、3、……」という数は、「自然数」と呼ばれる数です。自然数は確かに最も身近な数ですが、しかしそれによって扱える世界はある程度限られています。そこで、数の世界を一段階拡げて、「有理数」と呼ばれる数の世界を探検しよう、というのが、分数・小数学習の本質です。「有理数」というのは、(厳密には少し違いますが)ざっくり言ってしまえば分数や小数を使って表すことのできる数の世界です。自然数の世界もそのなかに含まれてはいますが、全体として見たとき、その“数の世界”の構造は、まったく違う姿をしています。これもあまり詳しくは説明せず、ざっくりとした話にはなりますが、「自然数」の世界が図1のような“石ころがごろごろと転がっている世界”だとすると、「有理数」の世界は図2のように“砂粒が敷き詰められた世界”です。

 ずいぶんと違った構造をしている、というのが伝わりますか。扱っている数の特徴が違えば、その世界のなかで起きることも少し変わってきます。つまり、「自然数の世界で通用していた認識」が「有理数の世界」では通用しない、ということがよくあるのです。

「有理数の世界」へと進む難しさ

 最初に驚くのは、「1/2」と「0.5」のように、“同じ数”を表す表現が複数出てくる、ということかもしれません。自然数のなかでは、「1」という数は「1」という表現しかできませんでした。見た目が違えばそれは別の数であり、別々の表現で表された数が同じなのか違うのか、考える必要はありませんでした。しかし有理数の世界では、見た目が違っても“同じ数”ということがあるかもしれないのです。

 ほかにも、「隣の数」という概念がなくなる、ということにとまどうかもしれません。自然数の世界では1の次は2でしたが、有理数の世界では、1の次は2でもなければ1.1でもなく、1.01でもありません。どれだけ間を狭くしても、その間に“数”を挟むことができるので、「隣(次)の数」というのが考えられなくなるのです。

 分数・小数の難しさは、その“新しい世界へと進む”難しさです。例えるなら、日本から世界に出ると“日本の常識”が通用しないときがある、というのと、よく似ていますね。そういうふうに言ってしまえば、“分数や小数でつまずく”というのは、いわばあたりまえのことだと感じませんか。

 新しい世界へ入っていくとき、「最初からスムーズにわかる」ということはあまりありません。むしろ、「最初はわからないことばかり」というのがあたりまえです。大事なことは、そこで「わからないからその先に進まない」としてしまうのではなく、新しい世界で起きていることをよく見て、そこで見たことをもとに、自分のなかの“理解”を修正していくことです。そうして自分の“理解”を、より広い世界に対応できるように修正していくことができれば、より広い世界を探検することができるようになるでしょう。

 その意味で、冒頭の“お悩み”に答えるのであれば、「分数・小数の計算で最初つまずくのはあたりまえ。そして、それを乗り越えていくのは難しい。でも、それを乗り越えていけば新しい世界が広がるので、温かく見守り、やさしく応援してあげてください」ということになります。

 それでは、今回は小数のつまずきやすいポイントとその乗り越え方について、次の章以降で触れていきたいと思います。

小数の掛け算で重要なのは「倍率」のイメージをもつこと

小数の掛け算で、元の数より答えが小さくなるのがよくわからないようです。これまで九九などで、掛け算をすると答えが必ず大きくなったのに、1より小さい数を掛けると元の数よりも小さくなってしまうことに違和感を覚えるようです。どういう事例で説明すれば、掛けているのに小さくなる、ということがわかりますか?(小4保護者)

 「小数の掛け算をすると、もとの答えよりも小さくなることがある」というのも、「自然数の世界では起きないけど、有理数の世界では起きることがあること」のひとつですね。その意味では、「わかる・わからない」の話ではなく「受け入れる・受け入れない」の話ではあるので、本質的には、今までの「自然数」の世界ではそういうことは起きなかったけど、新しく「有理数」の世界に進むとそういうこともあるんだな、と“受け入れる”しかありません。

 しかしそうはいっても、実際に受け入れるのをためらっている子どもにとっては、外から「受け入れろ」と言われても、なかなか納得しないでしょう。そんなときに大事なことは、「今までもっていた理解」を少し深めていくことです。たとえば、今回のような事例であれば、「掛け算」についてもう少し深く考え、その捉え方を見直していくのです。

 掛け算を最初に学習するとき、「繰り返し同じ数を足したもの(累加)」として習うことが多いでしょう。しかし掛け算について、その「累加」のイメージしかない状態では、「足していくんだから、もとの数より大きいはず」と思ってしまうのは当然です。もちろん、掛け算に「累加」の意味があるのはまちがいではないのですが、それは「掛け算」というものの“正しい理解”ではありません。あくまでも掛け算のひとつの面を捉えただけ、ということに注意する必要があるのです。

 それでは、「掛け算をしたときに小さくなることもある」ことを受け入れるために必要な“理解”とはなんでしょうか。それは、「比・倍率」のイメージです。たとえば、3×2」という計算を「32回足したもの」と捉えるだけでなく、「32倍」として捉えるのです。

 しかし、単に「2倍」というものを考えるだけでは、「2つ分」として足し算でできてしまうのではないか、と思うかもしれません。それは確かにそうでしょう。そこでキーになってくるのが、「半分」という概念です。「半分」を数字にすると、「0.5倍」ですね。「1÷2」という割り算を考えなくても、「0.5を2個集めれば1になる(0.5+0.5=1)」と考えれば、「半分」が「0.5倍」ということは比較的スムーズに納得できるでしょう。そうして、「半分」を小数で表すと「0.5倍」なんだ、ということが納得できれば、「小数の掛け算をすると、もとの答えよりも小さくなることがある」ということを受け入れるための、まずは取っ掛かりになるはずです。

小数の足し算、引き算は、自然数の足し算、引き算の延長上にある

娘は今、小数の足し算、引き算で、混乱しています。とくに、引き算が整数-小数の場合、小数点以下をそのままの数字で下ろしてしまいます。(例:5-2.13=3.13)整数+小数の足し算の場合と混同しているようですが、どうしたら、5が5.00である、という理解になるのでしょうか。説明の仕方を教えてください。(小4保護者)

 こちらについても、「小数の足し算・引き算」をいきなり理解しよう、とするのではなく、まずは「自然数の足し算・引き算」についての理解をもっと深めていこう、と考えていくのがいいでしょう。そういうふうに考えていくと、そもそも自然数のときでさえ、足し算や引き算の筆算が何をやっているか、意外にわかっていないことに気づきます。

 「23+14」という計算は図3のような筆算で計算することができますが、なぜこの筆算で答えが求められるのでしょうか。そこでは実は、図4のようなことをやっています。

 つまり、23は「10が2個、1が3個」、14は「10が1個、1が4個」なので、合わせて「10が3個、1が7個(で37)」ということです。このイメージをもっていれば、小数の足し算・引き算を理解する助けになります。たとえば、「2.3+14」みたいな計算であっても、「1が2個、0.1が3個」と「10が1個、1が4個」をあわせるので、「10が1個、1が6個、0.1が3個(で16.3)」とできます(図5)。

 こういうふうに見ることができれば、筆算のときに「小数点をそろえる」理由も納得しやすいはずです。「5-2.13」のような引き算にしても、筆算で機械的にやるだけではなく、安定するまでは、下記のような図(図6)を書いて考えるといいでしょう(書いたり消したりするのが面倒であれば、おはじきなどを使ってもかまいません)。

 今まで“わかっていた”つもりのことを、再度見つめ直して深めていく、というのは、時間も労力もかかります。しかし、算数との向き合い方の記事でも書いたように、算数の学習を進めていく、というのは、本来とても難しいことだ、というのを忘れないでほしいと思います。そして、その難しさに立ち向かい、カベを乗り越えることができれば、そこには新しい世界が広がっています。

 ずっと算数・数学の学習を進めていけば、“カベ”が次々と現れてくるでしょう。しかし、「分数・小数」という“最初のカベ”をがんばって乗り越え、その乗り越え方と乗り越える喜びを知ることができれば、その経験はそのあとの“カベ”を乗り越えていくための、心の拠り所になるでしょう。難しいことと向き合って、それを克服してきた、という経験だけが、先へ進むための原動力となるのです。


 いかがでしょうか。

 季節の変わり目ということもあり、気温の安定しない日々が続きますね。そういえば、「気温が安定しないと体調を崩しやすい」というのは、長い間「昨日は暑かったから上着いらないや、と思って上着を持たずに家を出たら、実は気温の低い日で、そのまま過ごして風邪をひいてしまった」みたいなことだと思っていました。天気予報をしっかり確認したり、暑い日でも念のために上着を持って出かけたりすればだいじょうぶ、と正直思っていました。まあ、それでも体調を崩すときは崩すので、どうしたものやら、と。寒暖差が激しいと自律神経が乱れやすくなる、というのを最近知って、ひとつ賢くなった次第です。皆さまも、体調にはくれぐれもお気を付けください。

 それではまた来月!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

 

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