親と子の本棚

引かれ合うふたり、のがれようとする影

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

ビーとサン

『まいごのビーチサンダル』より

村椿菜文(なあや)・チャンキー松本『まいごのビーチサンダル』の最初の見開きには、あざやかな切り絵で、オレンジ色にそまった夕方の空と海と砂浜の上の左足だけのサンダルの片っぽが描かれている。ビーチサンダルのサンは、砂の上で目をさます。波の音がしている。ビーチサンダルのもちぬしのコウくんもいない。
つぎの見開きは……。

 サンが ひとりぼっちになったのは はじめてです。
 いままでは コウくんの足が ムギュッ、ムギュッと のっかって ビーが 一歩まえに 出れば つぎは サンが まえに 出て、サンが まえに 出たあとは ビーが まえに。
 ビー、サン、ビー、サン、と あるいていれば こわいものなどなく、コウくんが いきたいところへ どこへでも いけたのに。

やがて、月が空にのぼり、潮が満ちてきて、ビーチサンダルの片っぽのサンは、海にうかび、沖へ流されていく。月の光がまぶしい。月は、海の中まで明るく照らし、サンは、海の中を見る。見たことのない生きものや草がゆれている。サンは、月をあおぐ。――「お月さま、お月さま、ぼく、ともだちと はぐれちゃったんだよ」月は、だまって光って、海に光の道をつくってくれる。

7年半の退屈

ひとりぼっちになったサンダルの片っぽは、もう片っぽをさがして旅をする。サンには、ビーにとても悪いことをした、もう一度会ってあやまらなければならないという気もちもあるのだ。
サンとはちがって、相棒のもとをはなれてみたいと考えているのが、ミシェル・クエヴァスシドニー・スミスの絵本『スム―ト かたやぶりな かげの おはなし』の影だ。最初の画面で、男の子がソファーにすわって本を読んでいる。スタンドのあかりが男の子を照らし、ソファーに影がうつる。

 スム―トは この おとこのこの かげ。
 7ねんはん ずっと たいくつ している。
 つまらない ほんの ような まいにち。

「スム―トと おとこのこは、ほんの みぎと ひだりの ページみたいに はなれられない。」――男の子は、あまり笑わないし、元気にとんだりはねたりもしないから、スム―トもできない。だけど、影だって楽しい世界に出て行きたいのだ。ある日、スム―トが青い空のことを考えていると、急に男の子からはなれてしまう。「チャンスだ!」スム―トは、外へとび出す。――「やりたい ことは たくさん。あれも これも!」

読者自身の旅

影は、ひとりでとび出し、『まいごのビーチサンダル』では、月の光が海を照らし、サンダルの左足が旅をする。アン・ジョナス『光の旅 かげの旅』も、旅の絵本だ。
『光の旅 かげの旅』はモノクロの絵本で、はじまりの画面では、まだ暗い街並みが描かれる。――「明け方、家を出発した。」ページをめくると、「あたりはひっそりとして、家なみも暗い。太陽が池の上にさしそめた。」この旅は、車でのドライブだ。
明け方、家を出たのが「わたし」なのか「彼」なのか、特に示されないから、絵本のページをめくる読者自身が旅をすることになる。人通りのない町を行き、谷間の農場を過ぎ、麦畑に出て……、おしまいには、別の町にたどり着く。一番高いビルにのぼって、下を見下ろす。最後の見開きはこうだ。――「太陽がしずんだ。本をさかさまにしてごらん!」

今月ご紹介した本

『まいごのビーチサンダル』
村椿菜文・作、チャンキー松本・絵
あかね書房、2018年
夜が明けて、サンは、息を大きくすいこみ、体中に力をこめて呼ぶ。――「ビ――――――!」サンの体がぐーんとまがって、きれいにジャンプしたところをトンビの大きなツメがつかまえた。――「おねがい。ぼくを すなはまへ つれていって!/ともだちに あいたいんだ!」

『スム―ト かたやぶりな かげの おはなし』
文 ミシェル・クエヴァス、絵 シドニー・スミス、訳 いわじょう よしひと
BL出版、2018年
ビーチサンダルのサンは、右足のビーをもとめて大冒険をし、ビーとサンは引かれ合う。ところが、男の子の影のスム―トは、その男の子をのがれて、とび出す。男の子は、いたずらなんてしないのに、スム―トは、いたずら好きだ。でも、スム―トは、男の子の影で、男の子のかくされた一面でもあったことがわかっていく。

『光の旅 かげの旅』
アン・ジョナス、訳・内海まお
評論社、1984年
1983年にアメリカで刊行された絵本。読者がたどり着くのは、ニューヨークを思わせる町だ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

関連リンク

おすすめ記事

「ぜったいぜつめい」を抜け出すには……「ぜったいぜつめい」を抜け出すには……

親と子の本棚

「ぜったいぜつめい」を抜け出すには……

「きょう」のむこうの過去「きょう」のむこうの過去

親と子の本棚

「きょう」のむこうの過去

森を抜けていく者森を抜けていく者

親と子の本棚

森を抜けていく者

Back to TOP

Back to
TOP