親と子の本棚

家出と留守番

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

ぬいぐるみたち

『ピースケのいえで』より

たかどの ほうこ『ピースケのいえで』のとびらを開けて、最初の見開き、左ページには、女の子がどこかの家のドアを出てきたところが描かれている。ドアに吹き出しがあって、「ばいばい」。なかから、だれかが、そういっているのだ。

みどちゃんは、のぶちゃんの うちを でました。
あそんでいるうちに なんとなく のぶちゃんの きげんが わるくなったのです。
おなじ マンションに すむ みどちゃんと のぶちゃんは なかよしです。
でも のぶちゃんは ときどき ぷりっと するのです。
「ま、いいや、また こんど あそぼ」

右ページには、階段をおりて家に帰る、みどちゃんが描かれている。
家に帰った、みどちゃんが手さげをぽいっと置くと、2本の耳がとび出す。うさぎのピースケだ。ピースケは、のぶちゃんが大事にしているぬいぐるみだ。きょうは、ぬいぐるみで遊ばなかったのに、どうして手さげに入っていたのだろう。のぶちゃんのようすを思い出して、みどちゃんは、気もちが重くなる。
あした返しに行くことにして、みどちゃんは、ピースケを自分の部屋のぬいぐるみたちのカゴに入れた。「あら、ピースケ、どうしたの?」――たちまち、ぬいぐるみたちの会話がはじまる。みどちゃんのぬいぐるみたちは、のぶちゃんのぬいぐるみたちともよく遊ぶから、友だちなのだ。ピースケは、べそをかいている。――「ああ、きいてくれ きいてくれ」「おいら ひどいめに あったんだ」

確認する物語

「みんな、のぶちゃんちの ソファー しってるだろ? あそんでるとき、おいら いつのまにか ソファーの せなかのとこと、すわるとこのあいだに はさまっちゃったんだ」――ピースケが語り出す。しかも、その上にクッションが置かれ、のぶちゃんも、おかあさんも、おとうさんもそこにすわって、ピースケは、どんどん埋まっていったのだ。「のぶちゃん、おいらのこと すごく だいじって いったのに けろっと わすれて さがしてもくれない」――ピースケは、とうとう泣き出す。
泣きたいのは、ピースケばかりではない。つぎは、C・アネットS・ケロッグの絵本『アルフはひとりぼっち』の書き出しだ。

あるとき、ロバのアルフが、ぶつぶつ、もんくをいいはじめました。でも、それに気がついた人は、ひとりもいませんでした。いえ、だいたいが、アルフを気にかけてくれる人なんて、ぜんぜんいないのです。アルフのなやみというのも、じつは、それだったのです。

アルフは、毎日、おじいさんといっしょに畑仕事に精を出し、毎日、まぐさをもらう。それだけだ。一日中何もしないで歌っているだけのカナリヤや、遊んでいるだけのネコやイヌは、おじいさんと、おばあさんにかわいがられて、夜は居心地のいい家のなかで眠る。アルフを待っているのは、つめたい家畜小屋だ。
「いまのまんまじゃいやだっていうなら、いやじゃなくなるようにすればいいんだ。」――アルフは、そう考える。アルフは、カナリヤにかわって、「イーヨンク、イーヨンク!」と歌ったり、イヌのように、おじいさんにとびついたりする。おじいさんは、びっくりして、「あたまがおかしくなっちまったのか?」という。アルフは、「ロバは、あいすべき動物じゃないんだ。」と思う。もう、家出をするほかはない。
最初は、遠い遠いところへ行こうと思ったけれど、アルフは、家の屋根の上に家出する。これは、アルフがおじいさんやおばあさん、そして、ほかのみんなとの関係を確かめるまでの物語だ。

エプロンをつけると

森山京『おかあさんになったつもり』のうさぎのおかあさんが、おばあさんの病気見舞いに行くことになる。こうさぎは、ひとりで留守番だ。――「だいじょうぶ。きょうは わたし、おかあさんに なった つもりで、一日 おうちに いるわ」
おかあさんが出かけたあと、こうさぎは、棚の上のおかあさんの白いエプロンを見つける。おかあさんのように、おなかのあたりにつけると、エプロンが大きすぎて、すそを引きずってしまう。首からかけることにする。おかあさんの『にんじんの おりょうりの 本』もあったから、料理をすることにする。
やがて、こりすがたずねてくる。そして、きつねも。

「大きな エプロン つけて、なにを しているの?」
「きょうは 一日 おるすばんなの。だから、わたし、おかあさんに なったつもりでいるのよ」

今月ご紹介した本

『ピースケのいえで』
たかどの ほうこ
童心社、2023年
しばらくすると、玄関のインターホンが鳴って、突然、のぶちゃんがやってくる。――「さっきは ぷりぷりしちゃって ごめん! もうすこし あそぼうと おもって。」のぶちゃんは、みどちゃんの部屋へずんずん入っていく。カゴのぬいぐるみたちは、ピースケをかこんで、見えないようにするのだが……。

『アルフはひとりぼっち』
作 C・アネット、絵 S・ケロッグ、訳 掛川恭子
童話館出版、1998年
アルフは、どこからも見えないように、屋根のまん中にすわりこむ。――「とにかく、ぼくは、一生、ここにいるだけさ。」おじいさんとおばあさんは、魔女がアルフを連れ去ったと考えたようだ。

『おかあさんになったつもり』
森山 京・作、西川 おさむ・絵
フレーベル館、2002年
こうさぎも、こりすも、きつねも、料理の本に読めない字がたくさんある。それでも、3人で知恵を出し合って、にんじんスープをつくる。
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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