親と子の本棚

名前のゆくえ

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

苦労する名前

『ぼくのなまえはへいたろう』より

 ぼくは、おこってる。

「むらしげ へいたろうくん」
「うふふ、へーたろうだって!」
「むかしの人みたい」
「うまれるとき、おならしたんだよ。そうだよね、へーたろう」
「やだあ。くさそう」

灰島かり・殿内真帆の絵本『ぼくのなまえはへいたろう』のはじまりである。「へいたろう」と呼ばれるたびに笑われてきた「ぼく」が主人公だ。
「べつに、いいじゃない」「そうだよ。おさむらいみたいで、つよそうだよ」――あすかちゃんと、しんじくんは、なぐさめてくれる。しんじくんは、ほかにも名前で苦労している子がいることも教えてくれる。
「裕(ひろ)」という名前の女の子は、「裕(ひろし)」という男の子だと、いつもまちがわれる。身体測定のときに、男の子の列に入れられそうになった。
同じクラスに、「佐藤有希」と「佐藤由紀」がいる。小柄なほうの「あたし」は、「ちーゆき」と呼ばれている。先生も、そう呼ぶ。
などなどだけれど、あすかちゃんは、「じゃあ、へいたろうくん、なまえをかえちゃえば」と言い出す。名前は、かえられるのだろうか。

ぜつぼうだ

石井睦美『すみれちゃん』のすみれちゃんは、日曜日のおそい朝に歌っている。

 いやになっちゃう いやになっちゃう
 あたしは こんなに おしゃれなこなのに
 あたしの なまえは おしゃれじゃないの
 いったい あたしは どうすればいいの
 ああ でもきっと どうにもならない
 ぜつぼうだ

「ぜつぼうだ」といいながら、機嫌のよい歌声は、まだねていたパパの目をさまさせる。ようやく起き出してきたパパは、歌のことばまでは、よく聞いていなかったから、すみれちゃんは、「ぜつぼうだ、って、うたってたのよ。」という。――「ぜつぼうっていうのは、ぜつのぼうのことよ。」「ぜつでできたぼうは、すごくかたくてね。もういや、もうだめっていうものを、ぱんぱんってたたくのよ。」すみれちゃんが、そのぜつのぼうでたたいていたのは、気に入らない自分の名前だ。すみれちゃんは、絵本で読んだ「フローレンス」という名前だとよかったと考えているのだ。
おどろいたパパは、すみれちゃんに「すみれ」と名づけたときのことを話しはじめる。――「おまえは四月にうまれた。きれいなはるの日にやってきた、きれいなあかんぼうがおまえだった。」
すみれちゃんの家には、もうすぐまた、赤ちゃんが生まれる。赤ちゃんの名前は、何になるのか。
『ぼくのなまえはへいたろう』の「ぼく」も、「つばさ」とか「りょう」とか短くてかっこいい名前、そうでなければ、せめて、笑われない名前ならよかったと思う。「ぼく」は、へいたろうという名前をつけた「犯人のお父さん」に文句をいうことにする。すると、お父さんは、「そうかあ、わらわれるっていうのは、いやだろうなあ。/でもお父さんは、へいたろうっていうなまえが、大すきなんだ。/いいかい、……」と語り出す。

ぼうしのゆくえ

あまんきみこ「名前を見てちょうだい」のえっちゃんは、お母さんから赤いぼうしをもらう。ぼうしの裏には、青い糸で名前が刺繍してある。――「う、め、だ、え、つ、こ。うふっ。ありがとう。」
えっちゃんは、ぼうしをぎゅうっとかぶって、遊びに出かけたけれど、強い風が吹いてきて、いきなり、ぼうしをさらっていく。ぼうしは、野原のきつねの手にわたる。――「それ、あたしのぼうしよ。」「あたしの名前がかいてあるわ。名前を見てちょうだい。」きつねは、ぼうしをぬいで、名前を見せる。――「ほうら、ぼくの名前だよ。の、は、ら、こ、ん、き、ち。」えっちゃんが、よくよく確かめようとしたとき、また強い風が吹いてきて、ぼうしは、畑の牛の「はたなかもうこ」のところに……。

今月ご紹介した本

ランドセルブックス『ぼくのなまえはへいたろう』
灰島かり 文、殿内真帆 絵
福音館書店、2018年
名前が長くてこまるので、改名した人のことを書いた新聞記事が紹介されている。
「大阪に住む九十二歳の女性で、もとのなまえは「沢井 麻呂女鬼久壽老八重千代子(さわい まろめきくすろやえちよこ)」さん。お父さんが、えんぎのいいなまえをつけたいと、すすめられた文字をみんな入れたために、長くなってしまったそうです。ふだんから「千代子」さんとよばれていましたが、正式に改名がみとめられて、「千代子」になりました。(朝日新聞二〇〇三年八月二十日より)」
まるで、落語の「寿限無」みたいな話だ。

『すみれちゃん』
石井睦美 作、黒井健 絵
偕成社、2005年
『すみれちゃん』は、シリーズになっていて(すみれちゃんクロニクル)、『すみれちゃんは一年生』『すみれちゃんのあついなつ』『すみれちゃんのすてきなプレゼント』とつづく。光村図書発行の国語教科書2年生に掲載されている「わたしはおねえさん」もすみれちゃんの話だが、これは、教科書書きおろし。

はじめてよむ日本の名作絵どうわ6『名前を見てちょうだい・白いぼうし』
あまんきみこ・作、阪口笑子・絵、宮川健郎・編
岩崎書店、2016年
「名前を見てちょうだい」のぼうしは、やがて、大男の手にわたる。はじめは、東京書籍発行の国語教科書2年生のために書かれた作品。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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