親と子の本棚

新聞はおもしろい。

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

かけだしの新聞記者

『こちらムシムシ新聞社~カタツムリはどこにいる?~』より

 「おっ、七星っ。部長がさがしてるよ。」
 「は、はいっ。」

三輪一雄の絵本『こちらムシムシ新聞社~カタツムリはどこにいる?~』のはじまりだ。――「ぼくは、ムシムシ新聞社の自然科学部記者七星あまみち。入社2年目のかけだし記者だけど、毎日取材におわれるいそがしい日々をすごしている。」
先輩記者のバッタに声をかけられて、カブトムシの部長のところへ行ってみると、読者からの手紙をわたされる。

はいけいムシムシしんぶんしゃさま
わたしは、カタツムリが大すきな小2の白山まいといいます。
さいきん、わたしがくらす町でカタツムリをさがしていますが、ぜんぜん見つかりません。
父さんにきくと、むかしはたくさんいたんだけどなあーといいました。
どうしてカタツムリはいなくなったのですか?
また、どこに行くと、カタツムリを見つけることができますか?

部長は、小学生の疑問にこたえて、たしかに近ごろ見かけなくなったカタツムリを取材するようにという。七星記者が調べてみると、都会にカタツムリがいなくなったのは、地面がアスファルトに舗装されて、土がなくなったことが原因だった。アスファルトにふった雨は、土にしみこまずに下水道へと流れていく。しめった状態が好きなカタツムリは、土がないところには住みにくい。土と樹木の多い田舎なら、まだまだカタツムリがたんさんいるのではないか。七星は、さっそく取材に出かける。途中でオニヤンマに出会ったから、ヒッチハイクさせてもらった。
空から見た景色が都会のグレーから緑にかわったとき、七星記者は、おろしてもらう。最初に行き会ったのは、イノシシだった。イノシシは、カタツムリをさがしている。――「もちろん食うさ。とくに冬がくると、冬眠しない野生のほ乳類にとって、落ち葉の下で冬眠するカタツムリは非常食になるのさ。10匹も見つけりゃ~、なんとか腹の虫もおさまるってもんよ。カタツムリさまさまだぜ。」

十五分のチャンス

かた山小学校の白山まいさんが『ムシムシ新聞』の読者であるように、メーガン・マクドナルド『ジュディ・モード、有名になる!』の主人公ジュディも、新聞記事を気にしている。
いつもとかわらない木曜日、ジュディが、いつもの「どうってことないモード」で3年生の教室に入っていくと、ジェシカが、かんむりではなくて「ティアラ」をかぶって、すわっていた。「単語つづりバチ大会」で優勝したのだという。「カリフラワー」のつづりが言えたのが決め手になったらしい。
ジェシカの優勝は、新聞でも大きく報じられた。「地元の少女 今年の女王バチに!」という見出しで、彼女の写真ものっている。ジェシカが小さい声でいう。――「一生のうち十五分くらいは、だれでも有名になるチャンスがあるっていうじゃない? お父さんがいってたけど、あたしは今回、その十五分を手に入れたんだって」
ジュディは、あこがれの気もちでいっぱいになる。ジュディにも、その十五分のチャンスはおとずれるだろうか。自分も、英語の辞書を丸ごとおぼえようとしたり、ガレージセールに1743年にジョージ・ワシントンのサクラの木からとったという貴重なサクランボの種を出品して、有名になろうとしたり……。「新聞記者の人たち、いつあたしの写真をとりにくるかな。」

新聞の知らせ

リリアン・ムーア『ネズの木通りの がらくたさわぎ』の巻頭は、本と同じタイトルの話。
その朝、新聞を読んでいたデイビーのお父さんがお母さんに「ちょっと、これを 見てごらん!」という。

 おたくに、がらくたは ありませんか?
 家の中を さがしてみましょう。
 いまこそ、きれいにするときです!

新聞を見た、ネズの木通りのどの家でも、大そうじがはじまった。「これ、もう いらないんじゃない? あれ、まだ いるかしら?」――みんな、がらくたを運び出す。古いいす、古いテーブル、古いおもちゃ、古い絵、古い本……。
ネズの木通りのどの家の前にも、がらくたの山ができて、ベニーのお父さんが、がらくたやさんに電話をする。――「でっかいトラックで とりにきてくれないか」でっかいトラックが来るのは、あしたの朝になるという。あしたの朝までに、ネズの木通りでは、何が起きたか。

今月ご紹介した本

『こちらムシムシ新聞社~カタツムリはどこにいる?~』
三輪一雄 作・絵
偕成社、2018年
イノシシだけでなく、タヌキやアナグマ、ハクビシン、イタチ、ネズミ、タイワンリスも、カタツムリを食べる。カラスも、アカショウビンという鳥も、イワサキセダカヘビも、マイマイカブリも、ヒメボタルという陸生ホタルの幼虫も、カタツムリを食べる。七星記者の取材はつづく。絵本の見返しには、「カタツムリのひみつ」として、さまざまなことが記されている。

ジュディ・モードとなかまたち・2
『ジュディ・モード、有名になる!』

メーガン・マクドナルド 作、ピーター・レイノルズ 絵、宮坂宏美 訳
小峰書店、2005年
『ジュディ・モードはごきげんななめ』(2004年)にはじまるシリーズの2冊め。シリーズ最新刊は、12冊めの『ジュディ・モードは宇宙人?』(2018年)だ。

『ネズの木通りの がらくたさわぎ』
作 リリアン・ムーア、絵 アーノルド・ローベル、訳 山下明生
童話館出版、1998年
このほかに、「あかちゃんアヒル 5ばんちゃん」など6編をおさめる。絵は、小学1、2年生の国語教科書にものっている「お手紙」の作者、アーノルド・ローベルだ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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