親と子の本棚

森の奥の家

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

木々のむこうに

ジュリー・フォリアーノレイン・スミス『このいえも むかしは』は、色彩あふれる絵本だ。
表紙には、男の子ふたりの立っている腰から下が描かれ、むこうには、もうかたむいた古い家がある。表紙をひらいた見返しいっぱいに、赤く紅葉した木々が描かれている。とびらのページにも紅葉の枝が描かれ、そのとびらを開けると……。

森のおくふかくに いえが いっけん。
むかしは ひとがすんでいましたが いまは だれもいません。

木々のむこうに、小さく、その家が見える。順々にページをめくっていくと……。
丘の上の家の青いペンキは、はがれている。家にむかう道は、すっかり草木におおわれている。

いえは みんなを まっています。
げんかんのドアは ちゃんとあいてはいませんが ちょっとあいています。
しまってはいますが しっかりしまってはいません。
あいているのか しまっているのか どっちつかず。
むかしは しろいペンキがぬってありました。

ふたりの男の子は、そのドアからではなく、わきにまわって、窓から家に入り込む。いまは、窓にはガラスもなくて、ふたりを呼んでいたのだ。

お菓子でできた家

『ヘンゼルとグレーテル』より

『このいえも むかしは』の男の子たちは、だれもいない家のなかを歩きまわって、だんろのそばの壁の鏡や写真やキッチンや、いろいろを見たり、さわったりする。そして、この家で暮らしていた、だれかのことを、いろいろ想像してみる。
グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」も、森の奥の家の物語だ。那須田淳訳、北見葉胡絵の絵本で見てみよう。
ヘンゼルとグレーテルの兄妹は、深い森のはずれに住む、まずしい木こりの子どもだ。国中をおそろしい飢饉がおそったとき、継母(ままはは)は、子どもたちを森の奥にすてようと考える。――「そんな、かわいそうなこと、おれには、とてもできん」「じゃ、あんた、このまま 一家四人で うえ死にしてもいいんだね」
翌朝、まだ暗いうちに、ヘンゼルとグレーテルは、父親と継母につれられて、森のまん中まで行く。継母は、にたにたと笑いながら、「おまえたちは ここをうごくんじゃねえぞ、あとで むかえにきてやるからな」というけれど、ふたりは、すてられたのだ。それでも、ヘンゼルの知恵で、ふたりは、何とか家にもどる。
飢饉は、もっとひどくなる。継母がいう。――「やっぱり 子どもたちを やっかいばらいするしかないよ」ヘンゼルとグレーテルは、また森につれていかれて、今度は帰れない。森のなかを3日迷い歩いて見つけたのは、菓子パンでできた家だった。屋根はクッキーで、丸い窓ガラスは、透きとおる氷砂糖だ。しかし、その家に住む、ばあさんは、おそろしい魔女で、パンの家で子どもたちをおびきよせ、殺して食べてしまおうとしていた。

もうひとりのおばあさん

むかしむかし、おすのつぼの家に、おばあさんがすんでいました。
一階には、まるいへやが、ひとつだけありました。二階にも、いくらかせまいまるいへやが、ひとつだけありました。やねは、つぼの口のようです。まどは小さくて、ドアもせまいのがひとつだけ。それが、げんかんでした。

ルーマー・ゴッデン『おすのつぼにすんでいたおばあさん』のはじまりだ。
このおばあさんは、まずしいけれど、一匹のネコといっしょに、つつましく暮らしていた。
ところが、ひろった6ペンス銀貨で買った、銀色の小さなさかなを湖に逃がしてやったところから、おばあさんのようすが変わりはじめる。おばあさんが逃がしたのは、実は、さかなの王様で、「やさしいおばあさんよ、あなたののぞみを、すべてかなえてあげましょう」というのだ。

今月ご紹介した本

『このいえも むかしは』
文 ジュリー・フォリアーノ、絵 レイン・スミス、訳 青山南
BL出版、2018年
絵のレイン・スミスは、『くさいくさいチーズぼうや&たくさんのおとぼけ話』(ジョン・シェスカ文、青山南訳、ほるぷ出版、1995年)でコールデコット賞を受賞した絵本作家だ。

絵本・グリム童話1『ヘンゼルとグレーテル』
訳 那須田淳、絵 北見葉胡、岩崎書店、2009年
グリム童話は、グリム兄弟がドイツのおばあさんたちなどから聞き集めた昔話を文字にしたもの。『子どもと家庭のための童話集』として、初版は、1812年に刊行された。

『おすのつぼにすんでいたおばあさん』
ルーマー・ゴッデン 文、なかがわちひろ 訳・絵
徳間書店、2001年
本のとびらの裏には、「お酢のつぼの家とはたぶん、ビールをつくる材料のホップをかわかすための古い乾燥所のことでしょう。」と記されている。
これも、グリム童話のような昔話をもとにした物語だ。まえがきには、「このお話が、いったいどこでつくられたのかはわかりません。わたしの母は、夜、髪をあらってもらうときに、乳母に話してもらったそうです。」とある。
作者は、1907年、イギリス生まれ。1998年没。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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