親と子の本棚

変身の大冒険

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

ライオンはパパ、ママは……

『ぶぅぶぅママ』より

前回紹介したハイロ・ブイトラゴラファエル・ジョクテングの絵本『いっしょにかえろう』では、大きなライオンが、女の子といっしょに学校から帰り、ママが工場からもどってくるまで、いっしょにいてくれる。
おしまいの場面で、ママと弟がもう寝ているベッドにもぐりこんだ女の子は、枕元の写真に「よんだら またきてね。」と話しかける。写真には、いまより幼かった女の子と弟、それにパパとママがうつっている。パパは、ライオンのたてがみのような髪だ。パパは、もう亡くなってしまったのか。それとも、遠いところで働いているのか。それは、わからないけれど、ここで、大きなライオンはパパだったことに気づく。
ライオンがパパなら、ママはブタである。
小路智子『ぶぅぶぅママ』の「ぼく」が家に帰ると、ブタがいる。

ママの服を着て、ママみたいにげんかんまで出むかえてくれたけど、ブタだ。
少し首をかしげて照れ笑いしているみたい。
でもかわいらしい感じじゃなくて、ずんぐりしたリアルなブタ。
二本足で立っているのがすごくへんな感じ。
「ママ?」と聞くと、ちょっとこまったように体をくねらせてから、「ぶぅ」とうなずく。
やれやれ。
「ぼくの日記読んだんでしょう」

ぶぅぶぅママは、「ぶひぃ?」と両手も短い首もふるけれど、「ぼく」には、わかっている。「ぼく」は、日記に魔法をかけておいたのだ。日記を勝手に読んだ人は、ブタになっちゃうように。日記には、「ぼく」の秘密が書いてあるのだから。
「ぼく」があすの調理実習の用意がまだだったことを思い出すと、ぶぅぶぅママは、財布をもって出かけようとする。でも、くつがはけないし、カギもあけられない。ママと「ぼく」の新しいつきあいは、いったい、どうなっていくのだろう。

命がけの旅

ママはブタになってしまったけれど、犬になってしまったのは、チベットの王子だ。君島久子・後藤仁の絵本『犬になった王子 チベットの民話』のプラ国のアチョ王子である。
プラ国の食べ物は、ヤクやヒツジの乳と肉だけで、穀物ができない。けれども、山の神のリウダさまのもとには穀物のタネがあるという言い伝えがあった。アチョ王子は、山の神のところへ行こうと決心する。
山の神のところへ行くには、九十九の山をこえ、九十九の川をわたらなければならない。王子は、よりぬきの家来たちとともに出発する。しかし、山はけわしく、川はさかまく。猛獣や毒蛇もおそってくる。家来はみんな死んで、九十八の山と川をこえたときには、王子ひとりになっていた。
九十九番めの川のみなもとをたずねて、九十九番めの山の頂上から落ちてくる滝にむかって呼びかけると、ようやく、山の神のリウダさまがあらわれる。さっそく、王子は、穀物のタネをわけてほしいとたのむが、山の神は、「そりゃあ、人ちがいじゃ。」という。

「タネをもっているのは、蛇王だ。だが、人間にはぜったいにくれぬ。
まえに、やってきたものはみな、犬にされて、くわれてしまったぞ。
それでもおまえは、ゆく気があるか。」
「あります。たとえ犬にされても、タネをもってかえります。」

山の神は、さらにいう。――「いざというときには、この『風の玉』を口にいれよ。それから、なにがおこっても、けっして気をおとさずに、まっすぐ東へむかってすすむがよい。こころから愛してくれるむすめにであったとき、おまえはすくわれるだろう。」
王子は、蛇王が出かけた洞穴にしのびこみ、金色の見事な大麦のタネをぬすみ出す。ところが、番兵たちに気づかれ、蛇王も帰ってくる。王子は、山の神がくれた豆つぶほどの「風の玉」を口にふくむ。そのとき、蛇王が王子を指さすと、いなずまが王子を照らし、王子は、金色の犬になる。犬になった王子は、東へむかって走り出す。風のようにはやく、いくつもの山をこえて。

「みんなまとめてかっちまおう。」

アニタ・ローベルアーノルド・ローベルの絵本『りんごのきにこぶたがなったら』のお百姓とおかみさんが市場へ行くと、ころころと太った、こぶたたちが売られている。お百姓は、こぶたを全部買って、農場へ帰る。おかみさんが「せわをするのがたいへん」といったけれど、お百姓が「おまえとおれとふたりでめんどうをみれば、どうってことはないさ。」といったのだ。
ところが、お百姓は、たいへんな、なまけもので、おかみさんが、こぶたたちのめんどうを見ようとしても、寝てばかりだ。

今月ご紹介した本

『ぶぅぶぅママ』
作 小路智子、絵 はらだゆうこ
BL出版、2018年
私も審査委員をつとめた「第34回 日産 童話と絵本のグランプリ」童話部門に応募された2508編のなかから大賞にえらばれた作品だ。
はだしで家を出た、ぶぅぶぅママと「ぼく」は、スーパーマーケットにむかう。これもまた大冒険なのだ。

『犬になった王子 チベットの民話』
君島久子 文、後藤 仁 絵
岩波書店、2013年
君島久子の「あとがき」には、「チベット人の主食ツァンパの原料となる大切な青稞(チンコウ)(大麦の一種、裸麦(はだかむぎ))の来歴を物語るこの話は、チベット文学史の中でも、天地創造につぐ重要な神話として位置づけられています。」とある。

『りんごのきにこぶたがなったら』
アニタ・ローベルえ、アーノルド・ローベルぶん、佐藤凉子やく
評論社、1980年
「きょうはおまえひとりでやってくれよ。こんどてつだうから。」とお百姓はいう。おかみさんが「こんどっていつ?」ときくと、「にわにこぶたがさいたらな。」というのだ。翌朝、庭に、こぶたがまるまるとさく。それでも、お百姓は、ベッドで寝ている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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