小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

“抽象”の世界に進むということ

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、オリンピックのチケットもちゃっかり申し込んでみた小田です。結果、フェンシングと射撃に当選しました。フェンシングも射撃も実はよく知らないのですが、いい機会なので普段見ない競技を見てみようかな、と思っていろいろ応募しました。フェンシングはとくに近年、競技を挙げて盛り上げていこうとしている雰囲気を感じるので、とても楽しみです。せっかくなので、来年までにもう少し勉強しておこうかと思います。
さて、今回のお悩みは「文章題」についての内容ですが、それを入り口にして「算数・数学」の学習の進め方のお話をしていきたいと思います。
それでは早速行ってみましょう。

お悩み16:“抽象”の世界に進むということ

算数全般が苦手なのですが、とくに文章から計算式を起こすことが不得意なようです。具体的には、かっこで計算をまとめる、かっこを外す、多項式において項を等号の左右に動かす(逆の符号になる)が、しっかりと理解できていないようです。リンゴやバナナで説明してみたりしたのですが、効果ありませんでした。どうしたら、腑に落ちてもらえるでしょうか。

(小学5年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

算数の問題でお子さまがつまずいたときには

お子さまが算数で困っている様子を見ると、やはり親御さんとしては、なんとか手助けしてあげたくなることでしょう。しかし、実際にお子さまにいろいろと説明してみても、なかなか納得してくれなかったりしますよね。そうすると、親御さんのほうも少しイライラしてきたりしますし、お子さまのほうもストレスを感じたり苦手意識を強めてしまったりします。そうやって親御さんがますます不安になる、というのは、実はよくあるパターンです。
文章題に限らず、算数・数学の学習を進めていく上で、子どもがつまずきやすいポイントはいくつかあります。そういった場面で子どもが実際につまずいてしまったとき、まず思い出してほしいことがあります。それは、2018年4月号でもお伝えしたように「算数・数学は、そもそもとても難しい」ということです。お子さまがつまずいてしまったとき、子どもの才能が足りないのか、子どもの努力が足りないのか、自分の教え方が悪いのか、今までの学習が悪かったのか、といろいろ考えてしまうかもしれません。しかし、そういった「犯人捜し」は、基本的にはすべて的外れです。的外れであるにもかかわらず、「犯人捜し」を強行してしまうと、お子さまが傷ついたり教える側が疲弊したりと、ろくなことが起こりません。
つまずきやすいポイントでお子さまがつまずくのは、それは単純に「算数・数学が難しい」からです。誰が悪くなくてもつまずいてしまう、というのは普通によくあることです。逆に、算数・数学は難しいので、つまずいてしまうのはむしろ当たり前なのです。だからこそ、お子さまが学習の途中でつまずいてしまった場合、不必要に不安になってしまうのではなく、「難しいのに頑張っているんだな」という目線でまずは温かく見守ってあげることが大事です。

分配法則を「腑に落ちる」まで理解するとは

実際に、今回のお悩みで出てくる中でも、「かっこで計算をまとめる」「かっこを外す」「多項式において項を等号の左右に動かす」というのは、それぞれ相当難しい内容です。正直な話、「しっかりと理解できていないようです」と言われたら、小学校高学年くらいならそれはそうですよね、というのが率直な答えですし、「どうしたら、腑に落ちてもらえるでしょうか」という部分については「すぐには無理です」と答えるしかありません。
「かっこで計算をまとめる」「かっこを外す」という部分は、「分配法則」のことでしょう。たとえば、「(10+2)×3」と「10×3+2×3」では、計算の結果は変わりません。そうやって個々の例を具体的に見ていくと、確かにそうなっていることはなんとなくわかりますが、しかしそれを「法則」と理解するまでには見た目以上の大きなギャップがあります。冷静に考えてみてください。本当にいつでもそういった関係が成り立つ、というのをうまく説明できますか。
実は、いろいろと「分配法則らしきもの」を考えていくと、「60÷(2+3)」は「60÷2+60÷3」にはなりません。「(20+40)÷5」は「20÷5+40÷5」にできるのに、です。もっと言うと、掛け算の場合は「(10+2)×3」と「10×3+2×3」が同じという話をしましたが、「3×(10+5)」と「3×10+3×5」でも同じになります。よく似た形をしていても、掛け算と割り算では同じように扱えないわけですね。分配法則を「腑に落ちる」まで理解する、というのは、こういった細かい場面場面で実際にどういう計算結果になるのかを正確に把握することです。相当ハードルが高いこと、ご理解いただけますか。
表面的に使えている・使えていない、というのは、個々人の算数に向き合うスタンスによります。いまいちわかっていない段階ではあまり使いたがらない人もいれば、あまりわかっていなくても気にせず使っていく人もいます。これはどちらが良いというわけではなく、その人の価値観の問題です。その意味で、しっかり分かっていない気がするからあまり使わない、という判断をする子がいたとしても、それは全然悪いことでもありませんし、「苦手」ということでもないでしょう。
(ついでに言えば、「多項式において項を等号の左右に動かす」というのは「移項」のことだと思いますが、こちらはさらに難しいです。本来は中学生になってから習うことですし、実際には中学生になっても“腑に落ちて”いない子がたくさんいます。小学生できちんと理解できていなくても、不自然な話ではありません。)

“抽象”の世界に進むということは

もちろん、ハードルが高いからといって、理解する努力をしなくていい、ということではありません。分配法則の場合は、上であげたようないろいろなパターンの計算を実際にやってみて、本当に計算結果が変わらないのはどういうときか、自分が納得するまで調べていけばいいでしょう。しかし、その過程には時間も労力もかかります。だからこそ、その過程で心折れてしまわないように、周りの“温かい見守り”が何よりも大事なのです。
算数の学習には、「具体的なものの中から抽象的な法則を見つけ出す」という部分があります。その抽象的な法則は、一度理解できてしまった人にとっては当たり前に感じることでもあり、逆に理解できていない人の状態がわからなくなってしまうでしょう。しかし、これから学習する人の視点に立ってみれば、それらはいきなり与えられてしまうと唐突な印象があり、聞いただけではなかなか自分の中に取り込んでいけるものでもありませんお子さまが学習の途中でつまずいているときは、まず「算数・数学の学習は難しい」ということを再度思い出してあげてください。そして、温かく見守ってあげてください。そうやって見守られている中で、実際にいろいろな経験を積んでいけば、いずれ腑に落ちるタイミングが来ることでしょう。

 


  いかがでしょうか。

気候が安定しない時期に突入してしまいましたね。暑くなったり寒くなったり、というのも面倒ですが、雨になるのも個人的にはあまりうれしくありません。こういった時期は体調も崩しやすい時期ですので、お子さまだけでなく、ご家族の皆さまもどうぞご自愛ください。ちなみに、私はこの季節に備えて、そうめんを買い込みました。さっぱりしていて、体調が思わしくなくても気軽に食べられるところが魅力ですよね。あと、準備にそれほど手間がかからないところもいいです。ついでにいえば、買い込んでけば、雨が降ったときに外に買い物に行かなくていい、というメリットもあります。そしてなにより「つゆ」つながり!……ということで、最近はそうめんばかり食べている毎日です。美味しいからいいですよね。

それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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