親と子の本棚

海賊のたからもの

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

下校のときの大雨

『ぼくんちの海賊トレジャ』より

柏葉幸子『ぼくんちの海賊トレジャ』の「ぼく」が、そうじ当番が終わって、下校しようとしたら、雨が降りそうな空模様だ。かさは、もっていない。家まで、もうすぐのところで、雨つぶが音を立てておちてきて、どっと降りはじめる。とっさに、「ぼく」は、もっていた本を頭にかざす。帰りぎわに、友だちが「わすれてた」といって返してきたマンガ『海賊飛び魚丸の大冒険』だ。
ドーン! ものすごい音がして、雨のなかから、何かがおちてきた。

 おとなりのチロがほえだした。ぼくんちの屋根をみあげて、うなっては、ほえる。
 おちてきたのは船だ。黒い帆船。どくろの旗つき。その船はぼくんちの屋根にドカッ! と、のっかってる。

どくろの旗が風にはためいている船の甲板に、男があらわれる。アイパッチの海賊だ。海賊は、あたりを見回して、「ここはどこだ? あ、そうか。ここが、この世の果てか!」といって、うなずく。そして、「ぼく」にむかっていう。――「それなら、おまえ、たからもの、もってるだろ?」「かくすなよ。もってるだろ。『この世の果てにあるという、青くて四角でうたうもの』だ。」

トレジャとオネション

突然、登場した男は「大海賊トレジャさま」だと名のるが、そのすがたは、「ぼく」と、となりの家の犬のチロにしか見えないらしい。
よく晴れた日曜日の朝、山下明生『かいぞくオネション』のヒロが、ひとりで、ごはんを食べていると、突然、窓ガラスをたたくものがある。手すりに、ヒロがおねしょをしたシーツが干してある、団地の5階の窓だ。

  とっく とっく とっく
 また、まどがらすが なった。
 はっきり 三かい なった。
 ヒロは、めを あげた。しんぞうが、のどから とびだしそうに なった。
 ぼわっと 白い ものが、まどに はなを くっつけて、へやの なかを のぞいている。
 さかなみたいだ。

ヒロが窓を開けると、大きな丸いさかなが、泳ぐように部屋に入ってくる。――「すみません。おみず いっぱい ください。」「しおを しょうしょう いれてください。」
さかなは、海のマンボウで、ヒロをむかえに来たという。ヒロは、パパが釣りにつれていってくれなかったものだから、海におしっこをする夢を見た。でも、それは、ふとんのなかだったのだ。ママとおねえちゃんも出かけてしまって、ひとりぼっちだったヒロは、マンボウの背中にのる。背中に、窓の手すりのシーツをかけて。
海に浮かんだマンボウとヒロを「ようこそ オネションさま。いそぎますので おさきに しつれい。」といいながら、トビウオやマグロの群れが追いこしていく。ヒロのシーツのしみは、どくろの形をしていて、さかなたちは、ヒロを伝説の海賊オネションとしてむかえるのだ。

馬のカードと蹄鉄

海賊トレジャは、「ぼく」にやっかいをかけながら、「青くて四角でうたうもの」という、たからものをさがしつづける。
ロビン・クライン『ペニーの日記 読んじゃだめ』のペニーは10歳の女の子で、たからものは350枚の馬のカードだ。学校には、大きな箱にぎっしりつまった、このカードを好きな子は、ひとりもいない。ペニーは、馬のことだけに関心があって、古い蹄鉄もあつめている。もう47個になった。
ペニーは、月曜日にクラスで老人ホームを訪問するのにも、全然興味がない。お年寄りにリコーダーや歌を聞かせてあげるのだが、ペニーは、こっそり舞台から降りて、老人ホームの庭に出る。庭には、籐いすにすわっている小さなおばあさんがいて、「わたしは、合唱ってものが大きらいなんですよ。」といい、ふたりは、少しずつ話しはじめる。おばあさんのベタニーさんは、子どものころは、いなかで暮らしていて、おとうさんは小さな農場をもっていた。「うわーっ、すごい!」――ペニーは、馬のカードと蹄鉄のコレクションの話をする。

今月ご紹介した本

『ぼくんちの海賊トレジャ』
柏葉幸子 作、野見山響子 絵
偕成社、2019年
もし、「青くて四角でうたうもの」が見つかったら……。トレジャはいう――「オレはきいた。マーメイドたちの歌声が海のかなたからきこえてきた。//この世の果てにあるという、/青くて四角でうたうもの。/手にしたとたんしあわせが/足のさきからはいあがる。/天使のラッパがなりひびく。」トレジャはひびわれた声で歌うが、トレジャと「ぼく」は、たからものをさがし出せただろうか。

『かいぞくオネション』
山下明生 さく、長 新太 え
偕成社、1970年(1988年改訂)
さかなたちは、「ときどき おねしょは するけれど/だれより つよい かいぞく オネション/さかなの みかた かいぞく オネション」と歌う。伝説の海賊オネションは、おねしょをしてしまった日は、いくさを休んで、さかなたちのお医者さんになったそうだ。ヒロも、ウミガメにいわれて、さかなたちの背中をかいてやる。山下明生のデビュー作。

『ペニーの日記 読んじゃだめ』
ロビン・クライン作、アン・ジェイムズ絵、安藤紀子訳
偕成社、1997年
水曜日、ペニーは、また老人ホームに行って、ベタニーさんに馬のカードを見せる。ベタニーさんが一番気に入ったのは、栗毛の馬だった。むかし、学校に行くときにのっていた馬に似ているという。
作者は、オーストラリアの農場で育った。続編に『ペニーの手紙 「みんな、元気?」』(偕成社、1998年)がある。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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