子どもと楽しむ料理の科学
酵素でお肉がやわらかくなる! パイナップルポークソテー
2020.3.26
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「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
いつものお肉を果物でおいしく!
タンパク質を分解する酵素のはたらき
肉料理をほめるとき「やわらかくておいしい!」という言い方をすることがあります。適度なかみごたえも必要ですが、歯でさっくりとかみ切れる程度の硬さ、やわらかさが好まれる傾向があるからでしょう。
肉の主な成分は水とタンパク質、脂質です。なかでもタンパク質は肉の繊維や、それを束ねる膜の材料となっていて、この繊維が加熱によってぎゅっと縮んで硬くなっていたり、繊維を束ねている膜が硬く分厚かったりすると、かみ切りにくく硬い肉になってしまいます。この問題を解決する方法として今回紹介するのが、果物の酵素を使った裏技です。
パイナップル、メロン、パパイヤ、キウイフルーツ、イチジクなどの果物にはタンパク質を分解する酵素が含まれています。そのため、これらの果物をすりおろしたものやしぼった汁に肉を浸しておくと、肉の繊維やそれを包む膜が部分的に分解され、もろくなるため、食べたときにかみ切りやすいやわらかい肉になります。
分解にかかる時間は果物の種類や熟し加減によって変わりますが、手に入れやすいものでは、1cmの厚さの豚肉に対して、キウイフルーツは常温で20分程度、パイナップルは1時間程度が目安です。漬け過ぎると肉がぼろぼろのそぼろになってしまうので、注意しましょう。
温度で酵素のはたらき方が変わる
酵素を活用するうえで重要なポイントは「温度によって分解の早さが変わること」と「高温で壊れてはたらかなくなること」です。
果物のタンパク質分解酵素は温度が高くなるほど分解が早くなります。目安としては、同じ厚さのお肉をやわらかくするのに冷蔵庫では室温の3〜4倍の時間がかかると考えると良いでしょう。
今回紹介するレシピでは「冷蔵庫で1.5〜2時間、常温で30分」としていますが、時間がないときは冷蔵庫に置かず常温で1時間ほど置いたり(夏など気温の高い時期は避けましょう)、逆に、漬け込んだものの予定通りに調理できそうにない場合は、冷蔵庫に長く置いて常温に置く時間を短くしたりといった調整が可能です。なお、冷蔵庫から出してすぐにお肉を焼く場合は、中まで火が通りにくいので注意してください。

また、果物のタンパク質分解酵素は、ある一定の温度に達すると壊れてはたらかなくなってしまいます。果物の種類にもよりますが60〜80℃程度で壊れてしまうものが多いようです。
したがって、パイナップルの缶詰やイチジクのジャムなど、一度火を通したものにはお肉をやわらかくする効果がないので、必ず生の果物を使うようにしましょう。
果物でお肉をやわらかくしたいときには…… 酵素が壊れていない生の果物を使い、調理までの時間によって、漬けておく時間や温度を調節すること! |
作り方/レシピ
3.焼く
フライパンにサラダ油小さじ1を入れて熱する。
肉を漬けダレから取り出し、表面をキッチンペーパーでさっと拭いてからフライパンに並べる。中火で1分半程度焼き、半分ほどの厚さまで色が変わったら裏返し、弱火で1分半焼いて取り出す。
4.ソースをつくる
フライパンに、残った漬けダレと醤油を入れて火にかけ、一煮立ちしたら火を止める。お皿に付け合わせを盛り、焼いた豚肉をのせ、ソースをかけてできあがり。
プラス知識! ハムを使って観察してみよう
4/23(木)更新の次回では、「出汁いらずのトマト味噌汁&アスパラの塩びたし」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!
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プロフィール
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。