子どもと楽しむ料理の科学

ひな祭りのお祝いに 手作り甘酒

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

家族みんなで飲める! 手作り甘酒でお祝いしよう

もうすぐ桃の節句。ひな人形を飾り、ひなあられや桃の花などをお供えするひな祭りの日です。ひな祭りのお祝いに、手作りの甘酒作りに挑戦してみるのはいかがでしょうか。

ひな祭りの歌の3番に「少し白酒召されたか、赤いお顔の右大臣」という歌詞がありますが、もともと桃の節句には、桃花酒や白酒を飲んで邪気を払うという風習があります。しかし、ひな祭りは子どものための行事でもあります。そのため、近年では白酒に似ていて子どもでも安心して飲めるノンアルコールの飲み物として、甘酒を用いることも多いようです。

甘酒の作り方はとてもシンプルで、お米を炊いたおかゆに米こうじを混ぜ合わせて6〜8時間保温するだけ。おかゆの代わりにお餅を使っても作れるので、お正月用に買って余ったお餅の使い切りにもおすすめです。

米麹には、デンプンを分解する酵素が含まれているため、酵素が働きやすい温度で保温しておくと、お米のデンプンが糖に変わり、おかゆが甘い液体へと変化していきます。昔は鍋を布団でくるんだり、こたつに入れたりして保温していましたが、炊飯器の保温モードを使うと温度の管理が簡単で、失敗しにくいです。ときどき様子を見て、質感や味が変化していくのを観察するのも面白いですよ。

また、少量だけ作ってみたい場合には米麹とお湯を保温水筒に入れて作る方法もあります。炊飯器ほどしっかり甘くならないこともありますが、より手軽に作れるのが利点です。

米麹とおかゆで作る炊飯器甘酒

材料(作りやすい分量)

  • お米(もち米またはうるち米) 1合(150g)

  • 水 600ml

  • 米麹(乾燥麹) 200g

※米麹はスーパーの漬物材料などのコーナーやネット通販で購入することができます。生麹と乾燥麹とがありますが、スーパーでは乾燥麹を取り扱っていることが多いです。板状に固められた「板麹」の場合は、バラバラにほぐしてから使いましょう。粒状になっている「バラ麹」はそのまま使用できます。

1.おかゆを炊く

お米を洗い、水を加えて30分以上浸しておく。炊飯器のおかゆモードで炊く。
(前日のうちに洗って予約炊飯し、朝、米麹を加えると夕方には仕上がります)

2.おかゆを冷ます

おかゆが炊けたら、蓋を開けて混ぜながら65℃まで冷ます。
冷めたら米麹を加え、混ぜ合わせる。

ポイント

米麹は蒸したお米に麹菌というカビの仲間を繁殖させたものです。麹菌が繁殖する際に作り出すさまざまな酵素が含まれるため、清酒や醤油、味噌など発酵食品の原料として用いられています。甘酒はこの酵素のうち、デンプンを分解して糖に変える「デンプン分解酵素」の働きを利用したものです。お米の主成分であるデンプンが分解されてブドウ糖などの糖に変わるため、もっちりとして粘り気のある状態からサラッとした液体に変化し、甘味が出ます。

酵素は一般的に温度が高いほどよく働きますが、温度が高くなりすぎると壊れて効果がなくなります。麹菌のデンプン分解酵素の場合、適温は55〜60℃程度。70℃を超えると酵素が壊れやすくなります。

逆に、温度が低くなりすぎると、デンプンの分解速度が遅くなるので、甘さが出にくくなります。また、50℃を下回ると乳酸菌や雑菌が繁殖しやすくなるため、酸味が出たり傷んだりする原因となります。

65℃以上、50℃以下にならないように注意し、なるべく55〜60℃を保つように保温する、という温度管理が成功のコツです。

3.保温する

炊飯器の保温モードで6〜8時間保温する。

 

ポイント

炊飯器の保温モードは、一般的に60〜70℃程度に設定されています。炊飯器の機種によって温度設定が異なるので、ときどき温度計で確認して55〜60℃を維持するように調節してください。

・温度が高いとき(60℃以上)…蓋を開けてヘラなどで混ぜて熱を逃す。60℃以上になる場合、保温の設定温度が高いので、濡れ布巾をかけて蓋を開けたまま保温しておくとよい。

・温度が低いとき(55℃以下)…熱が逃げないように蓋をしておく。

一時的に適温を上回ったり下回ったりしても、さほど問題はないので神経質にならなくても大丈夫です。はじめは30分〜1時間毎に確認し、様子がつかめてきたら1〜2時間毎に確認するくらいが目安です。

温度を確認するついでに、質感の変化を観察したり、清潔なスプーンでひと口取り出して味見をしてみたりするのも良いですね。はじめはもっちりとしていたのが徐々にサラサラしてきて、甘味が増してくるのがわかるはずです。

保温して2時間後の様子

 

 

4.完成

とろりとして、しっかり甘味が出ていれば完成。炊飯器から取り出し、保存容器に移す。冷めたら冷蔵庫で保存する。

・飲む際は、適宜水を加えて薄め、小鍋や電子レンジで温めて飲んでください。お好みで、塩ひとつまみやおろし生姜を少量加えると味が引き締まります。
・夏は氷を入れて冷やして飲んでもおいしいです。レモン汁を少量絞るとさっぱりします。

・粒が気になる場合は、ミキサーやハンドブレンダーなどでなめらかにするのもおすすめです。
・白玉団子を入れてお汁粉のように食べたり、果物と合わせてスムージーにしたり、砂糖の代わりに料理の甘味付けにも使えます。
・清潔な容器に入れれば冷蔵庫で1週間ほど持ちますが、すぐに飲まない分は冷凍保存しておくと安心です。

ポイント

甘酒には栄養分が多く含まれるため、雑菌も繁殖しやすいです。20〜40℃は雑菌が増えやすいので、保温が終わったらすぐに保存容器に取り出して冷まし、粗熱が取れたら冷蔵庫で保存しましょう。

米麹とお湯だけ!保温水筒で作る簡単甘酒

材料

  • 米麹(乾燥タイプ) 100g

  • お湯 200ml

※米麹とお湯を1:2の割合で合わせます。水筒の容量に合わせて量を増減してください。

ポイント

米麹自体にも原料であるお米のデンプンが含まれるので、米麹だけでも甘酒を作ることができます。

1.65℃のお湯を用意する

沸騰したお湯200mlを計量カップにとり、70℃くらいまで冷ます。
これを保温水筒に入れると、水筒に熱を奪われて温度が下がるため、だいたい65℃くらいになる。

2.米麹を加えて保温する

お湯が65℃まで下がったら、米麹を入れてすぐに蓋をする。2〜3回上下を返して中身を混ぜ合わせる。コンロや暖房器具の近くなど、暖かいところに置いて6〜8時間ほど保温しておく。

途中、3〜4時間経ったところで、いったんボウルなどに取り出し、湯煎で65℃くらいまで温度を上げ直すと失敗しにくく、しっかり甘くなる。ボウルから水筒に戻す際は、スプーンなどを使うとよい。

ポイント

65℃のお湯に米麹を入れるとだいたい60℃くらいまで温度が下がります。この状態で保温しておきましょう。水筒の保温性能にもよりますが、3〜4時間で50℃くらいまで温度が下がってくるので、一度65℃まで温めなおすと良いでしょう。鍋に入れて直接火にかけると温度が高くなりすぎて酵素が壊れてしまうことがあるので、湯煎でゆっくり温めると安心です。

3.完成

水筒から取り出し、保存容器に移す。冷めたら冷蔵庫で保存する。

甘酒はもち米で作る? うるち米で作る?

 

うるち米とは、私たちがふだん、ごはんとして食べているお米のこと。もち米はお餅を作るときに使うお米で、もちもちとして粘り気が強いのが特徴です。甘酒作りにはどちらも使われることがありますが、もち米を使うと糖がより多く作られるため甘味が強く、コクのある仕上がりで、うるち米の方がややさっぱりとします。

 

お正月に買ったお餅が残っていたら、お餅を材料にして甘酒を作ることもできます。小鍋にお餅200gと水500mlを入れて火にかけ、沸騰したら弱火にして10〜15分ほど加熱します。5分ほど経つとお餅がふやけてくるので、ヘラなどで混ぜながら煮ていくと、水とお餅が混ざってとろとろになります。これを炊飯器の内釜に入れて、65℃まで冷ましたら、米麹200gを加えて混ぜ込み、後は「米麹とおかゆで作る炊飯器甘酒」の手順3〜4と同様です。

デンプンが多く含まれていれば、お米以外の材料でも甘酒にすることができます。玄米や雑穀でおかゆを炊いたり、カボチャやさつまいもを柔らかく煮て潰したりしたものに米麹を混ぜて保温すると、お米の甘酒と同様にデンプンが糖に変わり、甘くなります。

<お知らせ>

「子どもと楽しむ料理の科学」は、次回からリニューアル!料理のなかの科学的な要素に焦点を絞った回もまじえ、「料理の科学」をさらに深堀りしていきます。
次回は「膨らむ仕組みいろいろ! ドーナツ生地を比べてみよう」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!
なお、次回以降は新サイト「Z会おうち学習ナビ」(https://www.zkai.co.jp/z-navi/)内の「子育て・教育情報」にて記事をアップしていきます!
ぜひご覧ください。

まだZ会員ではない方へ

プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

関連リンク

おすすめ記事

電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚

子どもと楽しむ料理の科学

電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚

ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?

子どもと楽しむ料理の科学

ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?

うま味の相乗効果でさらにおいしい けんちん汁うま味の相乗効果でさらにおいしい けんちん汁

子どもと楽しむ料理の科学

うま味の相乗効果でさらにおいしい けんちん汁


Back to TOP

Back to
TOP