小田先生のさんすう力UP教室
同じ模様を書いてみよう
2020.4.23
14.3K
さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)
こんにちは、最近またトレーニング用の道具を買い足した小田です。やはり運動不足がどうしても気になります。今までの経験上、買ったもののうちの大半は、買って満足して数回だけ使われて終わる気がしないでもないですが。しかし今のところ、ゴムチューブは結構使っていて、デスクワーク中にぐにぐに伸ばしたりして、肩周りの運動にかなり役立っています。あと気になるのはお腹周りですね。
さて、今回は図形の問題です。図形というと、センスがないと解けない・センスがないから解けない、と思っている方も多いかもしれません。確かに、センスはセンスで大事な場面は確かにあるのですが、図形の学習において重要な要素はほかにもあるよ、というのが今回のお話です。
それでは早速行ってみましょう。
Stage2:同じ模様を書いてみよう
例題
右の四角のなかに、左と同じ模様を書いてください。ただし、なるべくフリーハンドで (定規などを使わずに)書いてみてください。正確でなくても構いません。
例題の答え
略
問題の意味は大丈夫でしょう。まずは温かく見守ってあげてください。
この問題は、もちろん「子どもの学習のための教材」という要素はありますが、それに加えて、保護者の方々をはじめとするオトナの方々に「子どもが見ている世界はどうなっているか」を知ってもらうための教材でもあります。あまりうまくなくても、というより、もっと端的に言って、オトナの目から見てまったく別の形を書いているように見えたとしても、まずは「子どもにはそう見えているのか」と納得してあげてください。
大事なことは、うまく書くことではありません。うまく書こうとすることそれ自体です。あまりうまく書けていなくても、お子さんが一生懸命書いたのであれば、それは正解にしてあげてください。
解いてみよう
Level 1
(イ)の四角のなかに、(ア)と同じ模様をそれぞれ書いてください。ただし、なるべくフリーハンドで (定規などを使わずに)書いてみてください。正確でなくても構いません。
Level 2
(イ)の四角のなかに、(ア)の模様の左右を逆にしたものを、それぞれ書いてください。ただし、なるべくフリーハンドで (定規などを使わずに)書いてみてください。正確でなくても構いません。
Level 3
(イ)の四角のなかに、(ア)の模様の上下を逆にしたものを、それぞれ書いてください。ただし、なるべくフリーハンドで (定規などを使わずに)書いてみてください。正確でなくても構いません。
解答
Level 1
※例題と同様、お子さんが一生懸命書いていれば、上手く書けていなくても正解にしてあげてください。
Level 2
参考:(ア)の模様の左右を逆にした図
Level 3
参考:(ア)の模様の上下を逆にした図
さんすう力UPのポイント
たくさんの子どもたちを見ていると、「図形」を感覚的にとらえることは、本当に難しいことなのだな、と感じます。端的に言えば、人間はそもそもそんなにしっかり「物の形」を見ていない、ということです。
ただこれは、それほど不自然な話ではなく、むしろ考えてみれば当たり前の話ではあります。デジタルデータでイメージしてもらえると、わかりやすいかもしれません。たとえば、写真のデータは、細かいところまでしっかり見えるようにしようとすると、データのサイズがとても大きくなりますよね。それと同じで、物の形をうまくとらえるためには、とても多くの情報を取り扱う必要があるのです。しかし、人間の脳が同時に扱うことのできる情報量は、それほど多くありません。そのため、たとえ目で直接見ていたとしても、脳が「見て」いるのはそのうちの一部でしかないのです。
「図形」にはセンスが必要と感じてしまう原因も、おそらくはそのあたりにあるのでしょう。なんとなく、「図形」を「きちんと見ることができていない」と感じている人が多いのだと思います。しかし、だからといって「センスがないから図形が苦手」で終わってしまうと、それは少しもったいないかな、とも感じます。確かに、図形を感覚的にとらえるのは難しいでしょう。しかしその「感覚的に扱うのが難しいもの」を機械的に扱えるようにするための技術こそ、算数・数学のひとつの重要な役割だからです。
もっと図形をうまく扱えるようになりたいと思ったとき、考えられるアプローチの方向性は大きく分けて2つあります。1つは、単純に「扱える情報の量」を増やすトレーニングをすることでしょう。それはそれで意味がありますが、個人差も大きく、そもそも人間である以上どこかに限界はあります。もう1つは、形を見る“技術”を身につけることです。その初歩の初歩は、まず「図形を言葉にしてみる」ことです。
たとえば、例題の形について、下の図のように外枠の正方形の4つの頂点に名前をつけてみます(〇や□などの記号でも構いません)。さらに、それぞれの線が出ている点にも、名前をつけていきます(E、F、G、H)。そうすると、たとえば赤い色をつけた線は「辺ADのちょうど真ん中に点Hをとり、そこから頂点Cに向かって引く」ととらえることができますね。そうやって言葉で認識できるようになれば、書き写すのもずいぶん楽になりませんか。左右や上下を逆にした形でも、点を一つひとつきちんと写していけば、手間はかかっても書けないということはないでしょう。そうやって「図形を言葉でとらえる」ことの恩恵を、存分に感じ取ってほしい、というのが今回の問題の狙いです。
さて、課題に実際に取り組む子どもたちに学んでほしいことは前述の通りなのですが、この問題では、子どもを見守るオトナの方々にもひとつ感じてほしいことがあります。
それは、「例題の解説」にも書いた、「子どもが見ている世界はどうなっているか」ということです。
「算数を教える」というと、「正しい答えを伝える」「効率的な方法を伝える」ことだと思っている方も多いかもしれません。しかしそれだけでは、子どもたちは算数ができるようにはならないでしょう。2020年4月号でお伝えしたように、その「正しい答え」「うまい方法」を、子どもが自分の「数学の庭」に置いていけるとは限らないからです。むしろ、その子の庭に縁の薄いものは、まずそもそも置けないことのほうが多いでしょう。その意味では、子どもたちの算数の学習をサポートする上で一番重要になるのは、実は「その子の“庭”の様子を知る」、つまり「その子が見えている・感じている世界を知る」ことだということもできます。
その子が見えている・感じている世界をしっかり見極め、それより少し広い世界をそっと提示してあげることで、自然にその子の「世界」が広がっていくのをサポートする、というのが「算数を教える」ということなのです。しかし、難しいのはその見極めです。一度その「世界」が広がってしまったオトナには、それ以前の状態が思い出せなくなってしまうからです。そうすると、「まだできない」子どもを見て「そんなこともできないのか」と思ってしまうでしょう。それは、家庭での算数の指導がうまくいかない大きな原因のひとつでもあります。
今回の問題ではとくに、まず「子どもの見えている世界」をじっくりと見てあげてください。そして、「今自分が見えるようになった世界」との違いを、保護者の方自身が楽しんでください。そうやって、「算数の難しさ」を周りのオトナが理解することこそ、実は子どもの算数の学習にとって一番大事なことなのです。
いかがでしょうか。
情勢はますますよくない方向に向かい、落ち着かない日々が続きますね。生活面での不安に加えて、お子さんの学習面での不安も感じていることでしょう。さまざまな状況があると思いますので、漠然としたことしか言えませんが、こういうときだからこそより一層、「勉強をさせる」「何かを学ばせる」ことよりも、「子どもの感じていること、考えていることをじっくり観察し、理解し、受け入れてあげる」ことが重要になってくるでしょう。
本文でも触れましたが、子どもの見えている世界は、よくよく知っていくと新鮮で興味深いものでもあります。「へぇ、そういうふうに見えている・考えているのか」というのを、ぜひ楽しんでみてください。
それではまた来月!
文:小田 敏弘(おだ・としひろ)
数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。 公式サイト:http://kurotake.net/ 主な著書
|