親と子の本棚

つぎつぎと、おつかい

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

おとうふ、もう1ちょう

『おとうふ 2ちょう』より

家の前で、エプロンすがたのおかあさんが、さいふからお金を出して、赤いぼうしの男の子にわたしている。くろだかおる・たけがみたえの絵本『おとうふ 2ちょう』のとびらだ。――「ケンちゃんは、おかあさんに おつかいを たのまれました。なにを たのまれたのかというと、しょうゆと ごまあぶらと おとうふ 1ちょうです。」
ケンちゃんが無事に買い物をすませた帰り道、おかあさんからケータイに電話がかかってくる。――「あのね、おとうふ もう1ちょう かってきて」でも、もう家が近い。いまからスーパーに引き返したら、友だちと遊ぶ約束におくれてしまう。

そこで おかあさんに 「えー、おとうふ 1ちょうなら いいけど、2ちょうは おもたすぎて もてないよ」と ウソを いいました。
おかあさんは 「しかたないわね」と いって、ケンちゃんの ふたごの いもうと ふたりに おつかいを たのみました。
「あのね、おとうふが 1ちょう たりないから、もう1ちょう かってきて」
「はーい」 

ふたごは、よい返事で、はりきって出かけ、スーパーではなくて、少し遠いおとうふやさんまで行く。そして、なかなか帰ってこない。
家で待っているおかあさんは、とうとう、しびれをきらして、ふたごの下のみつごの弟たちにを頼む。――「あのね、おとうふが 1ちょう たりないから もう1ちょう かってきて」みつごも、はりきって走り出す。

命がけのおつかい

むかし、たろう、じろう、さぶろうという三人の兄弟がありました。
ある日、おばあさんがびょうきになり、「たろう、たろう、やまなしが食べたいから、山へいって、ひろってきておくれ」といいました。
たろうは、かますをしょって、でかけていきました。

おざわとしお・うちだなつかによる昔話の再話の絵本『やまなしとり』の語り出しだ。これも、おつかいの話だろうか。
たろうは、山へ行って、小さな家のばあさんに「やまなしは、どこにあるだろう」とたずねる。ばあさんが「やまなしは、このおくだ。いけやたんたん、といったらいけ。もどれやたんたん、といったらもどれ」と教えてくれたのに、たろうは、「いけやたんたん」でも「もどれやたんたん」でも行ってしまう。やまなしの落ちている場所にたどり着いたけれど、夜になって、もぐりこんだ小屋で、何者かとすもうをとって負けて、何者かに呑まれる。
たろうは、何日たっても帰らない。今度は、じろうが出かける。じろうも、山の家のばあさんのいうことを聞かずに、夜の小屋で何者かに呑まれてしまう。
たろうも、じろうも帰らない。おばあさんは、「さぶろう、さぶろう、こんどは、おまえ山へ行って、やまなしをひろってきておくれ」という。そこで、さぶろうは、かますをしょって家を出る。

山猫からの招待状

宮沢賢治・田島征三の絵本『どんぐりと山猫』の表紙には、山猫の顔が大きく描かれ、そのうしろには、たくさんのどんぐりたちだ。どんぐりは、みんな赤いずぼんをはいている。
そして、つぎが書き出し。

おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。
 かねた一郎さま 九月十九日
 あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
 あした、めんどなさいばんしますから、おいで
 んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
                    山ねこ 拝

山猫は、どこにいるのか。翌朝、一郎は、すきとおった風が吹くと実をばらばらと落とす栗の木に聞く。――「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」一郎は、笛ふきの滝やきのこ、りすにもたずねる。
先ほどの絵本『やまなしとり』の奥付のページには、「この昔ばなしは、岩手県で語りつがれてきた「なら梨取り」(中略)をもとに再話しました。」と記されている。宮沢賢治は、岩手の作家だが、「どんぐりと山猫」で一郎が自然界と対話しながら山のなかに入っていくのは、『やまなしとり』と同じ展開だ。しかし、これは、おつかいの話ではない。一郎は、山猫に正式に招待されて、めんどうだという裁判に出かけるのだ。

今月ご紹介した本

『おとうふ 2ちょう』
くろだ かおる・さく、たけがみ たえ・え
ポプラ社、2020年
ケンちゃん、ふたごの妹たち、みつごの弟たちは、おかあさんに、つぎつぎ、おとうふのおつかいを頼まれるが、いったい、どうなっていくのだろう。ふたごも、みつごも、みんな、おかあさんに頼まれた以上のおつかいをしてしまうのだが……。

子どもとよむ日本の昔ばなし
『やまなしとり』

さいわ◎おざわとしお・うちだなつか、え◎ひらのみどり
くもん出版、2008年
やまなしは、山に生える野生のなし。果実は小さい。かますは、むしろを二つに折って作った袋。再話というのは、子ども読者を意識して原話を書きかえる仕事のことだ。

『どんぐりと山猫』
宮沢賢治・作、田島征三・絵
三起商行、2006年
「どんぐりと山猫」だけでなく、宮沢賢治の童話には、昔話の語りを下敷きにしているものが、いくつもある。繰り返しが多く、オノマトペ(擬声語、擬態語)が豊かという賢治童話の特色も、昔話とかかわりがあるだろう。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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