親と子の本棚

がんばりやのおねえちゃん

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

五七五七七と五七五

『毎日新聞』3月20日付朝刊の「今週の本棚」で、枡野浩一文、内田かずひろ絵の『みんなふつうで、みんなへん。』が紹介されていた。この「親と子の本棚」の前々回(「待ちうけているもの」)でも取りあげた1冊だ。『毎日新聞』のほうには、こう書かれている。

さあ、どこかで気づく人がいるかもしれない。十五のお話のタイトルはすべて短歌(五七五七七)になっている。たとえば、「どのように数えることが正しいかよくわからない電車の話」。この本のお話を書いた枡野浩一さんは、作家であり歌人でもある。(カッコ内原文)

ああ、気がつかなかった。私は、「15編のタイトルは、みんな長い。」と記しただけだった。新聞の記事を書いたのは、やはり、歌人の小島ゆかりさんだ。そういえば、『みんなふつうで、みんなへん。』の作者紹介には、枡野さんの短歌の代表作として「毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである」があげられていた。小島ゆかりさんの作品も書いておこう。――「団栗(どんぐり)はまあるい実だよ樫(かし)の実は帽子があるよ大事なことだよ」子どものつぶやきをそのまま詠んだような一首で、心引かれる。

『俳句ステップ!』より

五七五七七ではなくて、小学3年生たちが五七五に挑戦するのが、おおぎやなぎ ちか『俳句ステップだ。物語は、朝の教室からはじまる。担任の外山先生が「今朝は、うれしいニュースがあります」「じつはこのクラスから、市の新緑まつり俳句大会で大賞にえらばれた人が出ました」といい出す。ことしから、俳句大会に子ども部門ができて、そこでえらばれた一句が披露される。先生が黒板に書いたのは、「さる山のさるにとられた春ぼうし」。え? えええ? これは、七実が遠足のときに作った俳句だ。だけど、七実は、俳句大会に応募などしていない。

ふたりの語り手

『俳句ステップ』は全部で4章、第一章「はじまりは、五七五(七実)」は、七実によって語られる。まだ桜が咲いていたころ、見つけた子猫を追いかけて入った公園で、すべり台の下をくぐり抜けたら、そこに、おばあさんがいて、「すべり台から子どもと春のねこ」「ああー、五七五になっていない」とつぶやく。この出会いがきっかけで、七実は、その薫子さんというおばあさんといっしょに俳句を作りはじめる。
さて、「さる山のさるにとられた春ぼうし」だが、先生が明かした作者の名前は、早知恵さんだった。どうして、そんなことになったのか。いきさつは、第二章「だめだとわかっているのに(早知恵)」で、早知恵自身が語ることになる。物語は、内気で友だちともうまくしゃべれない七実と、クラス一の優等生の早知恵の交互の語りで進行する。
いとうみく『つくしちゃんとおねえちゃん』を語るのは、小学2年生のつくしだ。――「おねえちゃんは、あたしより二つ年上の四年生です。/とっても頭がよくて、ものしりです。」

ピアノだって、モーツァルトもひけるし、三年生のときは、学校の音楽会でがっそうのばんそうもしました。
「ピアノひいてるの、あたしのおねえちゃんだよ」
となりにすわっている、みつきちゃんにこっそりいったら、みつきちゃんは、「すごーい」といいました。
ちょっとおこりっぽくて、いばりんぼうだけど、おねえちゃんは、あたしのじまんです。

おばあちゃんの家からの帰り道、屋根つきのバス停での雨やどりのあと、歩くとき少し右足を引きずる、おねえちゃんは、それでも速足で歩き出す。おばあちゃんにもらったジャガイモも、つくしが持つといったのに、「むり」「ちびだから」と、ひとりで持って帰ったのだ。これは、一つめの話「いばりんぼう」。
つぎの「あと五分」は、登校する途中、ランドセルのなかみを、ばさばさっと道路に散らばしてしまったつくしに「グズなんだから」と怒りながら、しかし、精いっぱい面倒を見てくれる、おねえちゃんの話だ。五つの小さな物語のなかで、がんばりやのおねえちゃんがかかえているナイーブなところがだんだんに描かれていく。

アンディには、おばあさんがいない

おねえちゃんのがんばりやは、『俳句ステップ』の早知恵にも少し似ている。ずいぶんタイプのちがう七実と早知恵のかかわりを取り持ってくれたのは、薫子さんだった。薫子さんは、クラスの裕太のおばあさんなのだが、七美と早知恵、裕太、薫子さんは、句会をすることになる。
「その通りにすんでいる子どもたちには、みんなおばあさんがいました。なかには、ふたりもいる子もいました。ひとりもいないのは、アンディだけです。」――これは、ミラ・ローベ『リンゴの木の上のおばあさん』の書き出しだ。
きょうは、どの友だちも、おばあさんと遊びに行ったり、家におばあさんが来たりで、だれもアンディと付き合ってくれない。アンディは、くやしい思いをするけれど、突然、アンディの前に、写真で見ただけの、亡くなったはずのおばあさんが現れるのだ。

今月ご紹介した本

『俳句ステップ
おおぎやなぎ ちか・作、イシヤマ アズサ・絵
佼成出版社、2020年
「ホームランうったぞやった夏の空」――これは、裕太が薫子さんに無理やり作らされて、でも、ほめられた一句。裕太は、この1年間、ホームランを打っていないのだけれど、こう詠んだのだ。

『つくしちゃんとおねえちゃん』
いとうみく 作、丹地陽子 絵
福音館書店、2021年
丹地陽子の挿絵も、物語を語る。第一話「いばりんぼう」は、水色が基調になっている。おしまいの話「ごめんなさい」でひとりぼっちになってしまった、つくしを寒色で、そこから抜け出した場面は暖色で描く。

岩波少年文庫
『リンゴの木の上のおばあさん』

ミラ・ローベ作、塩谷太郎訳
岩波書店、2013年
おばあさんが現れたのは、アンディのお気に入りの場所、庭のリンゴの木の上だった。
おばあさんは、「ハロー、アンディ。」という。そして、おばあさんは、遊園地の乗り物のきっぷを持っていた。
ミラ・ローベは、オーストリアの児童文学作家。この本は、現在、品切れだから、図書館でさがしてください。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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