親と子の本棚

青で描かれた絵本

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

牧草地の父とむすめ

『青のなかの青 アンナ・アトキンスと世界で最初の青い写真集』より

フィオナ・ロビンソン『青のなかの青 アンナ・アトキンスと世界で最初の青い写真集』は、まったく美しい絵本だ。青を基調とする。
サブタイトルに名前のある、アンナ・アトキンス(1799~1871年)は、「植物学者、写真家として知られています。世界ではじめて写真の本を出版し、「最初の女性写真家」とよばれています。アンナは、カメラで写真を撮影するのではなく、印画紙の上に、植物や海藻をおいて日光にさらすことで画像をつくりました。サイアノタイプというこの技法を、ジョン・ハーシェル(イギリスの天文学者・数学者)から学びました」(巻末「アンナ・アトキンスについて」、カッコ内原文)。サイアノタイプは「日光写真」「青写真」のことで、それなら、私も、小学生のころに試したことがある。
『青のなかの青』は、このアンナ・アトキンスの評伝の絵本である。最初の章は、「1807年――イギリスの牧草地にて――」。

 空の色は、青のなかでも、とびきりの青。
 小さなアンナは、りょううでに野の花をだきしめる。キンポウゲ、ワスレナグサ、ムギセンノウ、クロタネソウ、ナツシロギク、マリーゴールド……。あたりは、チョウとハチでいっぱい。父さんは、はいまわる虫をビンにあつめる。ポケットにいれたぶあつい本のせいで、父さんのコートがたれさがっている。

ケシの花を見つけたアンナは、そのままのすがたで、ずっとおいておきたくて、父さんの本のページにはさんで、押し花にする。家に帰ると、父さんとアンナは、あつめてきた虫を調べはじめる。
父さんは、ジョン・チルドレンという科学者だ。19世紀のはじめのイギリスで、たいていの女の子は教育をうける機会がなかったけれど、父さんは、ひとりむすめのアンナにさまざまな学問やラテン語も教えた。母さんは、アンナを産んですぐに亡くなっていた。

秋の野原の子どもたち

野原の好きなおばさん、のはらおばさんと近くに住む、のんちゃんは、「あきの のはらを あるきましょう。おもしろい たねも、きっと いっぱい みつかります。」というポスターをナラの木にかける。たかどの ほうこ『のはらクラブのちいさなおつかい』のはじまりだ。ポスターを見て、やってきた子どもは7人、みんな、バスケットをもっている。さっそく歩き出して、おばさんが「あ、みんな、その草を みて」と指さしたのは、ちぢみざさだった。「ほら、これが たねよ。この、すごーく ねばねばしていてね……」ということばを引きうけて、7人のひとり、すずちゃんが、つづきをいう。

「ねばねばしているから 草に さわった子に ぺたぺたって くっつくの。たとえば すずめのこ、とかね。そして、そのこが――」
「パアーッて とおくへ とんでって どこかに おりて……」
「きゅっきゅって はづくろいすると、たねが おちて、はるには そこに ちぢみざさの めが でるってわけなの。」

すずちゃんの説明におばさんはすっかり感心するけれど、つぎに出会った、ぬすびとはぎのことは、みいちゃんが、からすうりのことは、わこちゃんが、ちゃんと話してくれる。

見知らぬ町を抜けて

『青のなかの青』の3番めの章は「1811年――海辺で――」、「海の色は、青のなかでも、とくべつの青。」と語りはじめられる。みやもと ただお『うみが みえます』も、青が印象的な絵本だ。とびらには、こう書かれている。――「ぼくの まちには うみが ある。おおきくて、あおくて、さかなが いっぱいいて、とおくで そらと つながっている。ぼくの だいすきな うみ。」
自転車にのった「ぼく」がキラキラ光る海がまぶしくて、目をつぶり、目をあけると、見たことのない商店街に迷い込む。時計屋さんでは、時間が止まっている。時計屋さんがいう。――「あのひ あのとき、うみは わたしの とけいを とめて、わたしの じかんを もっていって しまった」あの日、あのとき、黒い津波が町をのみこみ、「ぼく」の兄ちゃんも、海の遠くまでつれていってしまった。「ぼく」は、あの日、あのときからしばらくして生まれた。
気がつくと、「ぼく」の自転車は、いまの新しい町を走っている。10年ぶりに新しい船で魚をとりにいった父さんを海までむかえにいくのだ。

今月ご紹介した本

『青のなかの青 アンナ・アトキンスと世界で最初の青い写真集』
フィオナ・ロビンソン さく、せな あいこ やく
評論社、2021年
第3章の海辺で、アンナは、海藻をあつめて、絵をそえた記録ノートを作る。父さんは、それぞれの学名を教えてくれた。のちに、アンナは、サイアノタイプの技法を学んで、はじめに約2000種類の海藻の青写真の本を出版する。アンナが44歳のときだ。

『のはらクラブのちいさなおつかい』
たかどの ほうこ
理論社、2001年
7人の子どもたちは、それぞれバスケットをもっていて、すずちゃんは、「ちょっと おつかいが あるの」という。7人は、みんな、野原の草の種を運ぶおつかいをしたのだ。この7人は、いったい、だれなのだろう。
春の野原が舞台の『のはらクラブのこどもたち』(2000年)の続編で、冬の野原を描く『白いのはらのこどもたち』(2004年)につづく。暑い夏がすぎたら、秋の野原に出てみよう。

『うみが みえます』
みやもと ただお
文研出版、2021年
「東日本大震災から10年、あの人に、あの子に会いたい――」、絵本の帯にあることばだ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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