親と子の本棚

川のように話す、砂に書く

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

うまくいえない音

『ぼくは川のように話す』より

朝、目をさますといつも、ぼくのまわりはことばの音だらけ。
へやのまどから見える松の木の「ま」。
えだにとまっているカラスの「カ」。
朝の空に、ぼんやり白い月の「つ」。
朝、目をさますといつも、ぼくのまわりはことばの音だらけ。
そして、ぼくには、うまくいえない音がある。

ジョーダン・スコットシドニー・スミスの絵本『ぼくは川のように話す』は、こう語り出される。訳は、原田勝だ。
松の木の「ま」も、カラスの「カ」も、「ぼく」の舌にからみついたり、のどの奥にひっかかったりする。月の「つ」でつっかえた「ぼく」は、うめくしかない。だまって支度をして学校に行くけれど、教室では全然ことばが出てこない。みんなは、「ぼく」のくちびるがゆがんで、ふるえるのを見て笑った。
放課後、おとうさんの車が待っていた。――「うまくしゃべれない日もあるさ。どこかしずかなところへいこう」おとうさんは、「ぼく」を川につれていく。ふたりで、川岸を歩く。おとうさんが「ぼく」の肩を抱きよせて、いう。――「ほら、川の水を見てみろ。あれが、おまえの話し方だ」

見ると、川は……あわだって、なみをうち、うずをまいて、くだけていた。
「おまえは、川のように話してるんだ」

荒川と隅田川に分かれるところ

川の絵本が見たくなって、村松昭の『日本の川』シリーズの1冊『あらかわ・すみだがわ』を広げる。埼玉県の秩父の山奥の朝、山の神様とおつかいの女の子が話をしている。――「この 水って、いったい どこへ いくのかしら。」「山を 下って あらかわとなり、海へ そそぐんじゃよ。そうか、きょうは 天気も よさそうじゃし、あらかわを 空から 見てみるかの。」ふたりは、雲にのって、旅に出る。
山奥からの水の流れは、山の上に三峯神社が見えるあたりで荒川と呼ばれるようになる。そして、埼玉県川口市から東京都に抜けるところまで来ると……。

「上に 見える川が、あらかわの ほんりゅうじゃ。人が 九十年ほどまえに ほった、あたらしい川なんじゃよ(荒川放水路、1930年完成-宮川注)。大水が 出たとき、あの川で 海まで いっきに 水を ながしたんじゃ。あれが できて、大水は ぐんと へったのう。」
「じゃあ、ほんとうは 下の すみだがわが もともとの あらかわだった、っていうことね。」

荒川は、葛西臨海公園のところで海にそそぐ。隅田川は、勝鬨橋と築地大橋をくぐった、すぐ先で海に出るのだ。

散歩のときに

「泣いてしまいそうなときは、このことばを思いだそう。――ぼくは川のように話す。」
――『ぼくは川のように話す』の「ぼく」は、おとうさんのことばを何度も思い出す。
東君平『おとうさんとあいうえお』のおとうさんは、散歩のときに、海を見ながらいう。

みを みながら、おとうさんが いいました。
「きょうから としちゃんに、じを おしえて あげよう。」
としちゃんは、
「うん。」
と いって、てを たたきました。
んぴつの かわりに、ゆびで すなの うえに、じを かきました。
「きょうは、あいうえおだよ。」

としちゃんと、おとうさんと、おかあさんの出てくる短い話が12編収められていて、あいうえおの五十音のことがわかる。点々(濁点)のつけられる字は、「がぎぐげご」など20ある。「かっこう」と「がっこう」とでは、全然ちがうことばになる。字の肩に丸(半濁点)がつけられる字は、「はひふへほ」だけだ。

今月ご紹介した本

『ぼくは川のように話す』
ジョーダン・スコット 文、シドニー・スミス 絵、原田勝 訳
偕成社、2021年
ジョーダン・スコットは、1978年生まれのカナダの詩人。巻末に記された「ぼくの話し方」には、こうある。――「父が吃音を自然の中の動きにたとえてくれたおかげで、ぼくは自分の口が勝手に動くのを感じるのが楽しくなりました。」

『日本の川 あらかわ・すみだがわ』
村松 昭さく
偕成社、2016年
『日本の川』シリーズは、このほかに、『たまがわ』『ちくごがわ』『ちくまがわ・しなのがわ』『よしのがわ』『いしかりがわ』『よどがわ』の6冊が刊行されている。

ことばのひろば
『おとうさんとあいうえお』

東 君平 さく・え
廣済堂あかつき、2018年
かあさん、としちゃんは、きょうから、じが かけるよ。」――散歩から帰った、としちゃんが自慢すると、おかあさんは、にこにこして、「それは、よかったわね。」といってくれる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

関連リンク

おすすめ記事

おじいちゃんとおばあちゃんをたずねておじいちゃんとおばあちゃんをたずねて

親と子の本棚

おじいちゃんとおばあちゃんをたずねて

世界一つよい女の子世界一つよい女の子

親と子の本棚

世界一つよい女の子

あまく、とろける物語あまく、とろける物語

親と子の本棚

あまく、とろける物語


Back to TOP

Back to
TOP